長寿喜劇シリーズ化に期待する

331 映画「おいしい給食 Road to イカメシ」から

先日公開された、“まさかの”シリーズ3作目「おいしい給食 Road to イカメシ」について解説する。

 時代は元号が昭和から平成に改まった1989年の2〜3月。北海道函館市近郊の架空の町、忍川町の忍川中学校が舞台となる。前2作が関東のとある町という曖昧な設定であるのに対し、今回地名を特定したのは、タイトルにあるこの地域の名物料理が関係している。主人公の数学教師、甘利田幸男(市原隼人)がこの地に赴任した真の目的——それは、“イカメシ”の給食を食することであった。

イカめしを待つ甘利田、ストーブ前の少年

私の教職の始めは、函館の中学校でした。

そこでは給食に、イカメシが出た。

あれは、……うまかった〜

 ドラマ「おいしい給食season2」(2021)の最終回で、佐久本教育委員(森田順平)の“悪魔のささやき”を聞いた甘利田は、「劇場版 おいしい給食 卒業」(2022、本連載第280回参照)のラスト、学年主任の宗方早苗(土村芳)の見合い相手の教諭とのトレードを口実に、忍川中学校に赴任する。

 本作の前段となるドラマ「おいしい給食 season3」(2023)の時点で、甘利田の転任から1年数カ月経っているが、イカメシの給食はまだ一度も出てこない。でも人一倍給食愛の強い甘利田は、イカメシがいつか出ることへの期待を胸に、北のご当地給食を満喫する日々を送っていた。

 そんな中、甘利田の担任する1年1組では席替えが行われる。生徒の一人、粒来ケン(田澤泰粋)は、ストーブ前の席になったとたんに覚醒。甘利田がかつて相まみえた神野ゴウ(佐藤大志)のように“うまそげ給食”を見せつけてくる。果たしてケンは、ライバルなのか友達なのか……。

  • 甘利田とケンの“うまそげ給食バトル”の行方
  • 甘利田と副担任の比留川愛(大原優乃)の恋(?)の行方
  • アメリカから転校してきた峰岸マルコ(田口ハンター)の給食嫌いの克服
  • 甘利田が脚本を書いた学芸会の演目「ホワイトマン」の上演
  • 給食のイカメシはいつ出てくるのか

 以上がseason3から本作に向けての“宿題”である。

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

町長が強いた黙食と特別メニュー

 本作では、前述の“宿題”の“解答”が提示されるとともに、新しい要素も加わっている。以前の敵役、海坊主こと鏑木教育委員(直江喜一)に代わって甘利田の前に立ちはだかるのは、忍川町長の等々力(石黒賢)。等々力は町長再選に向けて公約として掲げた給食完食のモデル校として忍川中を選定し、給食時のグループ分けは禁止、机はそのままで、黙って残さず食べるというスタイルに変更してしまう。

 この給食時のスタイルは、目的は違うが三十数年後に現実に行われた黙食スタイルと酷似している。作り手側のメッセージは、以下のケンのセリフからも読み取れる。

みんな前を向いて、ずっと授業みたいです。

わからないけど、なぜかおいしくないです。

先生はそうじゃないんですか。

 さらに等々力は、特別メニューの給食を1年1組の生徒と共に食べるところをTV中継させ、選挙アピールに利用しようという挙に出る。特別メニューとは、パサパサのコッペパン、カチカチの塩鮭、千切りキャベツ、お吸い物、脱脂粉乳という“レトロ給食”。さすがの甘利田も閉口する不味さである。ところが、これに対しケンが起こしたある行動が一石を投じる流れになっている。

本作の〇と×と今後への期待

【本作の〇】

忍川中学校三学期最終日のメニュー。イカメシ、ザンギ、豚汁、お汁粉、牛乳。
忍川中学校三学期最終日のメニュー。イカメシ、ザンギ、豚汁、お汁粉、牛乳。

 本作を通じて、相変わらず秀逸なのが、給食実食中の“甘利田メソッド”(本連載第280回参照)。最初の給食シーン(ジャージャー麺、竹輪の磯辺揚げ、ごまだんご、白米、牛乳の“アグレッシブ給食”)など、テンションの高さにさらに磨きがかかっており、「本番中に意識が飛んだ」と市原が言うのもうなずける。

 甘利田が“敗戦処理”で立ち寄る駄菓子屋は、太極拳が趣味のサキ(高畑淳子)の店に変わり、1988年に発売された「ス-パーカップ1.5倍」、ミニコーラ、ロケット弾、蛇玉など、1989年当時のレトロな雰囲気作りに一役買っている。またカップ麺は、等々力の過去にも関わるキーフードとして機能している。

 下戸の甘利田が飲んでやらかし、翌朝記憶のないまま「ドランクモンキー 酔拳」(1978、本連載157回参照)ばりに舞いを披露するというお約束シーンもあるが、今回は顛末に工夫が加えられている。また寒がりというウィークポイントも追加され、お笑いポイントが増している。

 気になるイカメシは、散々お預けを食らわせてからの満を持しての登場で、危機一髪の場面があるのも楽しい。

 劇中劇に登場するホワイトマンは、今回も給食のおばさんで登場の牧野文枝(いとうまい子、経緯は本編を参照)が、「劇場版 おいしい給食 卒業」でゴウに付けたニックネームであり、「カレーはカレーです」というホワイトマン唯一のセリフは、ドラマ「おいしい給食 season1」(2019)の最終回でゴウが述べたものである。甘利田とゴウの再会というサプライズがあるのも、season1からのファンにはうれしいところである。

【本作の×】

 最初に“まさかの”シリーズ3作目と書いたのは、この製作規模で函館が舞台のドラマと映画が成立するのかという不安からであった。案の定、撮影時期が春先の2カ月ということもあり、北海道の冬のシーンに雪がないという、季節感に違和感のある映画になってしまった。ちょっと雪を降らすだけでは不十分であり、塩や泡を撒いたり、CG処理などが必要だろう。

 また、シナリオの構成にも問題がある。「ホワイトマン」の上演→等々力のレトロ給食→終業式のイカメシ→ゴウとの再会という流れが悪く、メインディッシュを何皿も食わされているような飽食感がある。

【今後への期待】

「おいしい給食」は劇場版だけでも3作続いた人気シリーズであり、マドンナとのラブロマンスや、給食などのお約束シーンも多々ある。「男はつらいよ」シリーズ(1969〜2019、本連載第30回参照)、「トラック野郎」シリーズ(1975〜1979、本連載第80回参照)などに続く喜劇シリーズに成長することを期待している。

 個人的には、甘利田の給食愛の原因を作った甘利田の母親の登場、再び給食を食べるために教員になろうとしているゴウとの真の再会を見るまでは、本シリーズは終われないのではないかと思っている。


おいしい給食season2(BD-BOX)
Amazonサイトへ→
劇場版 おいしい給食 卒業(BD)
Amazonサイトへ→
本連載第280回
https://www.foodwatch.jp/screenfoods0280
おいしい給食season3(BD-BOX)
Amazonサイトへ→
おいしい給食season1(BD-BOX)
Amazonサイトへ→
ドランクモンキー 酔拳(BD)
Amazonサイトへ→
本連載第157回
https://www.foodwatch.jp/screenfoods0157
「男はつらいよ」シリーズ(BD-BOX)
Amazonサイトへ→
本連載第30回
https://www.foodwatch.jp/screenfoods0030
「トラック野郎」シリーズ(DVD)
Amazonサイトへ→
本連載第80回
https://www.foodwatch.jp/screenfoods0080

【おいしい給食 Road to イカメシ】

公式サイト
https://oishi-kyushoku3-movie.com/
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2024年
公開年月日:2024年5月24日
上映時間:111分
製作会社:「おいしい給食」製作委員会(企画:AMGエンタテインメント/制作プロダクション:メディアンド)
配給:AMGエンタテインメント
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:綾部真弥
脚本:永森裕二
製作総指揮:吉田尚剛
企画:永森裕二
プロデューサー:岩淵規
撮影:小島悠介
美術:伊藤悟
小道具:千葉彩加
音楽:沢田ヒロユキ(ペイズリィ8)
録音:井家眞紀夫
整音:田中俊
効果:佐藤祥子
照明:西野龍太郎
編集:岩切裕一
衣裳:小磯和代
ヘアメイク:近藤美香
グレーディング:河野文香
ポスプロマネージャー:豊里泰宏
制作担当:田山雅也
助監督:湯本信一
フードスタイリスト:松井あゆこ
キャスト
甘利田幸男:市原隼人
比留川愛:大原優乃
粒来ケン:田澤泰粋
峰岸マルコ:田口ハンター
神野ゴウ:佐藤大志
木戸四郎:栄信
等々力町長:石黒賢
牧野文枝:いとうまい子
白根澤仁:六平直政
サキ:高畑淳子
坂爪勲:小堺一機

(参考文献:KINENOTE)

アバター画像
About rightwide 341 Articles
映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。