うどん部が活躍する映画2選

[312] 「メンドウな人々」「UDON うどん」から

農山漁村の郷土料理百選——農林水産省が、全国の郷土料理を紹介することで農山漁村への関心を高めようと、2007年12月に選定した。実際にリストアップされているのは99品だが、そのうち5品はうどんメニューである。秋田県の「稲庭うどん」、埼玉県の「冷汁うどん」、山梨県の「吉田のうどん」、香川県の「讃岐うどん」、大分県の「ごまだしうどん」が名を連ねている。今回はこの中から「吉田のうどん」と「讃岐うどん」を題材とした2本の映画を取り上げる。2作に共通するのは、高校生の部活動「うどん部」が登場することである。

※農山漁村の郷土料理百選
https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/kyodo_ryouri/index.html

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

映画を凌駕する部活

「メンドウな人々」より。硬くてコシが強い麺と非常に辛い薬味「すりだね」が特徴的な「吉田のうどん」。
「メンドウな人々」より。硬くてコシが強い麺と非常に辛い薬味「すりだね」が特徴的な「吉田のうどん」。

 先日公開された「メンドウな人々」は、青春映画シリーズ「ぼくらのレシピ図鑑」の第3弾。このシリーズは2017年にスタートした「地域」×「食」×「高校生」をコンセプトとしたもので、前2作は「36.8℃」(2017、舞台は兵庫県加古川市)、「夏、至るころ」(2020、舞台は福岡県田川市、本連載第244回参照)である。山梨放送でのTV放映の後、劇場公開となった。

 舞台は山梨県富士吉田市。“コミュ力”が低く、家にも学校にも居場所がない高校1年生の遠山雄大(片岡千之助)は、ある出来事をきっかけに、料理下手でしょうが焼きしか作れない洋食店店主・桑原猛(的場浩司)の店を手伝うことになる。また、同じ高校に通うくるみ(藤嶋花音)をはじめとするうどん部のメンバーも、ある理由から桑原の店で活動を始める。雄大はうどん部の活動に巻き込まれながら、人間的に成長していくというのが主なストーリーである。

 富士吉田名物の「吉田のうどん」は、硬くてコシが強い麺と、辛い薬味「すりだね」が特徴である。麺を打つ際は、小麦粉を手でこねるだけでなく足でも踏んでコシの強い麺を作り出している。

 うどん部の活動は、うどん作りだけにとどまらず、PR誌の発行など売り方まで考える本格的なもの。武道にも通じるストイックな姿勢は、“麺道”でありつつ“面倒”でもあるというのが、本作のタイトルの由来となっている。

 本作のうどん部のモデルになったのが、実在するひばりが丘高校うどん部電子(Web)と紙(フリーペーパー)で「うどんナビ」を展開し、SNSでも発信。高校が休みの日曜日には地元のスーパーのフードコートに出店、また山梨県内の「セブン-イレブン」で販売する吉田のうどんのオリジナルメニューの監修や、さらには本作の撮影に協力するなど、その実際の活動内容は映画に描かれたものを超えているようだ。

うどんどころの部員たち

 さて、「メンドウな人々」を観て筆者が思い出したのが、2006年製作の「UDON うどん」に登場する讃岐高校うどん部である。

 本作は実写の日本映画歴代興行収入第1位の記録を持つ「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」(2003)をはじめとする「踊る大捜査線」シリーズ(1998〜2012)や、「サマータイム・マシン・ブルース」(2005)などで知られる本広克行監督作品である。

 こちらの舞台は香川県。コメディアンとしてアメリカ進出に挑むも失敗して帰国した讃岐うどん店の息子・松井香助(ユースケ・サンタマリア)が、地元香川のタウン誌の編集部にアルバイトとして入り、讃岐うどんの取材で頭角を現し、空前の讃岐うどんブームを巻き起こしていく様を描いたエンターテイメントである。実際にこの作品の公開と前後して讃岐うどんブームが起こり、「はなまるうどん」や「丸亀製麺」など全国チェーン店の展開により、今や日本全国各地や海外でも讃岐うどんが食べられる状況にある。

「うどん県」を名乗る通り、香川県は人口1万人当たりの「そば・うどん店」事業所数が全国1位である(なお、「吉田のうどん」の山梨県は2位。別表参照)。香川県のうどん店の多くはセルフサービス。また、看板を出していない製麺所は当たり前で、米店や食料品店や喫茶店でうどんを提供している場合もある。そんなことから、「どんぶり持参」「うどん屋を探すなら煙突を探せ」というのが讃岐人の“常識”となっているという。本作では、多種多様な40店以上のうどんを提供する店が、他県からも人が押し寄せるブームになるにつれて画面分割カットでテンポよく紹介されていくのが小気味よい。

 讃岐高校うどん部は、ブームで発刊ペースが月刊から隔週になり、取材が追い付かなくなったタウン誌編集部「麺通団」の助っ人として登場する。部員たちがこれまでの地道な取材の成果をまとめた冊子「うどんをめぐる冒険」は、「麺通団」にとってうどん屋探しの手間を省く「虎の巻」であった。

 水沢翔太(池松壮亮)をはじめとするうどん部の4名が「麺通団」に名刺を渡すシーンがあるのだが、水沢、稲庭、伊勢、吉田と、全国のうどんどころの名前になっているのが隠し味である。

「UDON うどん」こぼれ話

 本作では「踊る大捜査線」シリーズや「サマータイム・マシン・ブルース」のキャストがそのままの役名で登場しているケースがあり、世界観を同じくしていると思われる。ただしユースケ・サンタマリア演じる松井香助は真下正義ではなくそっくりさんという位置付けか。同じく本広監督の「曲がれ! スプーン」(2009)には香助の出演シーンがある。

 麺通団の青木和哉(要潤)をはじめ、1シーンのみ出演の南原清隆、藤澤恵麻、松本明子、高畑淳子やうどん店レポーター役の中野美奈子(当時フジテレビアナウンサー)ら香川県出身者をキャスティングしている。あっと驚くのは、仏壇の遺影で登場する香助の母役の笠置シヅ子。彼女も香川県生まれで、今年10月スタートのNHK朝ドラ「ブギウギ」の主人公のモデルである。

 うどん記事の余ったスペースに麺通団の三島憲治郎(片桐仁)が描いた漫画「キャプテンうどん」。再現映像は、「ブレードランナー」(1982、本連載第8回参照)の例の「二つでじゅうぶんですよ」シーンのパロディである。

人口1万人当たり「そば・うどん店」事業所数

地域順位人口1万人当たり「そば・うどん店」事業所数
(a÷b×10,000)
事業所数(a)人口(人)(b)
全国1.99 24,982125,502,290
香川県15.08 479942,224
山梨県24.33 349805,353
長野県33.80 7722,033,182
群馬県43.73 7191,926,522
栃木県53.57 6851,921,341
山形県63.48 3671,054,890
福井県73.00 228760,440
徳島県82.74 195711,975
茨城県92.63 7492,851,682
東京都102.59 3,63414,010,099
石川県112.47 2781,125,139
埼玉県122.45 1,8007,340,467
京都府132.30 5902,561,399
島根県142.08 138664,887
静岡県151.99 7183,607,595
福島県161.98 3581,811,940
宮崎県171.91 2031,061,240
北海道181.86 9665,182,794
富山県191.86 1911,025,440
愛媛県201.85 2441,320,921
福岡県211.82 9325,123,748
岐阜県221.80 3521,960,941
岩手県231.74 2081,196,433
岡山県241.72 3221,876,265
宮城県251.68 3852,290,159
千葉県261.67 1,0506,275,160
愛知県271.66 1,2507,516,604
大阪府281.66 1,4648,806,114
高知県291.65 113684,039
大分県301.62 1801,114,449
鳥取県311.57 86548,629
兵庫県321.54 8375,432,413
三重県331.53 2681,755,689
神奈川県341.52 1,4009,236,322
鹿児島県351.48 2341,576,391
山口県361.48 1971,327,518
奈良県371.45 1911,315,339
佐賀県381.44 116805,971
秋田県391.41 133944,902
広島県401.35 3762,779,630
新潟県411.31 2862,177,047
滋賀県421.23 1741,410,509
熊本県431.17 2031,728,263
青森県441.17 1431,221,324
沖縄県451.16 1711,468,463
和歌山県461.15 105913,599
長崎県471.10 1431,296,839
事業所数=総務省統計局・経済産業省「令和3年経済センサス-活動調査」(令和3年6月1日現在)、人口=総務省統計局「人口推計」(令和3年10月1日現在)より作成。

【メンドウな人々】

公式サイト
https://www.ybs.jp/mendou/
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2023年
公開年月日:2023年9月2日
上映時間:71分
製作会社:山梨放送、映画24区
配給:映画24区
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督・脚本:安田真奈
企画:荻野弘樹、西村雄太
プロデューサー:小林大悟、安井一貴、三谷一夫
照明:古川昌輝
撮影:武村敏弘
録音:吉方淳二
美術:古谷美樹
装飾:石渡由美
音楽:西山宏幸
編集:藤沢和貴
衣裳:江頭三絵
ヘアメイク:上田深里、猪久保友紀
ヘアメイクデザイン:宮本奈々
助監督:向田陽
キャスト
遠山雄大:片岡千之助
くるみ:藤嶋花音
宮下亜美華:柳明日菜
渡辺周太:大迫一吹
アンディ:翔
羽田先生:佐藤鯨
遠山光大:鳴海翔哉
舟久保千鶴:筒井真理子
桑原猛:的場浩司

(参考文献:KINENOTE)


【UDON うどん】

作品基本データ
製作国:日本
製作年:2006年
公開年月日:2006年8月26日
上映時間:134分
製作会社:フジテレビジョン、ROBOT、東宝
配給:東宝
カラー/モノクロ:カラー
スタッフ
監督:本広克行
脚本:戸田山雅司
企画:関一由、阿部秀司、島谷能成
製作:亀山千広
プロデューサー:織田雅彦、前田久閑、安藤親広、村上公一
撮影:佐光朗
照明:加瀬弘行
録音:伊藤裕規
美術:相馬直樹
装飾:田中宏
音楽:渡辺俊幸
編集:田口拓也
キャスティング:明石真弓
アソシエイトプロデューサー:小出真佐樹
制作担当:巣立恭平
監督補:波多野貴文
助監督:藤本周
VFXディレクター:山本雅之
VFXスーパーバイザー:石井教雄
キャスト
松井香助:ユースケ・サンタマリア
宮川恭子:小西真奈美
鈴木庄介:トータス松本
松井拓富:木場勝己
藤元万里:鈴木京香
藤元良一:小日向文世
大谷昌徳:升毅
三島憲治郎:片桐仁
青木和哉:要潤
水原宗典:永野宗典
水沢翔太:池松壮亮
綾部哲人:江守徹

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。