初夏の“青春ごはん映画”3選

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この5月から6月にかけて公開された、“アオハル系”ごはん映画を3本ご紹介する。

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

「僕の町はお風呂が熱くて埋蔵金が出てラーメンが美味い。」の射水ラーメン

「僕の町はお風呂が熱くて埋蔵金が出てラーメンが美味い。」は、2022年の富山県射水市内川周辺が舞台。この辺りは、海と海をつなぐ東西約3.4kmの運河沿いに美しい街並みが広がり、「日本のベニス」と呼ばれている。内川を含む新湊地区は、放生津曳山祭ほうじょうづひきやままつり(新湊曳山まつり)が有名で、2016年の映画「人生の約束」の題材にもなった。本作の製作総指揮は、「人生の約束」で監督を務めた石橋冠で、立川志の輔が演じる近藤医師は、「人生の約束」の登場人物でもある等、同作の世界観を引き継いでいる。

 本作の主人公は、内川沿いにある銭湯「さんがの湯」の息子の本江透(酒井大地)、数年前に東京から越してきた佐伯挙(宮川元和)、寿司屋の息子の釣佳樹(長徳章司)の高校生三人組。彼らは、スマホで自主映画を撮ったり、ちょっと熱めの「さんがの湯」に浸かったり、大好きなラーメンを食べ歩いたり、同級生の壁花凛(原愛音)に淡い思いを抱いたりしながら、コロナ禍の影響で三年ぶりに通常規模で行われる放生津曳山祭を楽しみにしていた。そんな折、祭りの会長を務めるトオルの祖父・松蔵(泉谷しげる)が急死。透は祭りを中止させないためにあることを思いつく。

 だが、一難去ってまた一難。外資系リゾート会社の土地買収工作で危機に瀕した町を、三人組は蔵で見つけた古い巻物を頼りに埋蔵金を掘り出すことで救おうとするのだが……。

 射水市とその周辺には多彩なラーメン店がある。黒い醤油スープの「富山ブラックラーメン」が東京ラーメンショー(現:東京ラーメンフェスタ)で評判を呼んだ「麺屋いろは」の本店、「カレー中華」が有名な老舗店「スパロー」、うどんだしの中華そば「かけ中」が人気の「ひさみなと食堂」、醤油ベースのあっさりスープと香ばしい背脂が特徴のラーメン専門店「まるなかや」などだ。これらのラーメン店が、本作のドラマの舞台にもなっている。

「スパイスより愛を込めて。」の金沢カレー

「スパイスより愛を込めて。」は、カレー店が多い都道府県ランキング(タウンページの掲載数による)で3年連続第1位となった“カレーの聖地”石川県金沢市が舞台。未知のNARS(ナーズ)ウイルスが世界中で蔓延する中、カレーを摂取するとNARSに感染しないという噂が拡散し、人々がカレーやスパイスの買い占めに走った結果、カレーが世の中から消えてしまうという、コロナ禍を風刺したライトSFである。

 母で漫画家の山本香織(田中美里)のカレーが食べられなくなって落胆していた主人公の高校生、蓮(中川翼)の前に現れたのは、スパイスがウイルスに効くという研究を最初に発表した今は亡き研究者、端目陽一(萩原聖人)の娘、莉久(茅島みずき)。莉久の兄で父の研究を引き継いだ真司(福山翔大)は、死の前に研究データを全て破棄した父が、莉久に何か手がかりを残したのではないかと疑っていた。ワクチンの利権を独占したい厚生労働大臣、山神(加藤雅也)の思惑も絡み、データの争奪戦が繰り広げられていくといった内容である。

 物語を彩るのが、わずかに残っているカレーの数々。蓮が幼馴染でモデルの葛城沙羅(速瀬愛)からもらった、ファンからの貢ぎ物のレトルトカレーは、香織がソースをかけたトンカツをのせ、千切りキャベツを付け合わせにし、焦がしバターをコクとして加えたアレンジ金沢カレーに。蓮と沙羅が、莉久から教わって作ったキーマカレーは、スパイシーな味。蓮や莉久の先輩、立花美宇(坂巻有紗)の父が経営する工場で従業員にふるまっていたカレーは、酸味を出すためのかくし味として、和風のある食材を使う等、それぞれに個性があって、観ていても食欲をそそられる。クライマックスの学園祭で振舞われるカレーは、大鍋で煮込まれて、画面から匂いが漂ってきそうであった。

 本作は金沢が発祥の地のゴーゴーカレーが製作委員会に名を連ねているが、NARSの影響でカレー店が次々に閉店に追い込まれるシーンでは、ライバルの「カレーハウスCoCo壱番屋」や、「大阪マドラスカレー」「コスギカレー」の店舗も映す等、「ゴーゴーカレー」一辺倒にならないような配慮が感じられる。

「アキはハルとごはんを食べたい」のアレンジ料理

「アキはハルとごはんを食べたい」より。中華とイタリアンとコリアンが融合した「餃子チーズタッカルビ」。
「アキはハルとごはんを食べたい」より。中華とイタリアンとコリアンが融合した「餃子チーズタッカルビ」。

「アキはハルとごはんを食べたい」は、たじまことのBL漫画が原作。主人公は、アキこと秋吉純太(赤澤遼太郎)と、ハルこと藤城春継(高橋健介)。ふたりは高校の同級生で別々の大学に進学したが、静かな住宅街にある一軒家でルームシェアを始める。ごはんを作るアキと、片付け担当のハル。その穏やかな日常が、ハルの留学話でさざ波が立つといった内容である。

 本作の見どころは、何といってもアキの作るアレンジ料理の数々。料理人としての腕は未知数だが、素材をそのままではなく、ちょっとした工夫を加えておいしくする才能に長けている。たとえばインスタントラーメンにしても、キャベツ、トマト、ベーコン、ニンニクを調理してトッピングしたトマト塩ラーメンにするといった具合である。その他にも、唐揚げに4種類のつけだれ(ネギダレ、おろしポン酢、南蛮ダレ、タルタルソース)を用意したり、焼き芋にバターをのせたり、ホントサンドに惣菜コロッケとチーズをはさんだり、アキのアレンジは留まるところを知らない。

 究極は、ハルの姉、立夏(青山ひかる)が訪ねてきた時にふるまった、ホットプレートで作る「餃子チーズタッカルビ」。中華とイタリアンとコリアンの奏でる絶妙なハーモニーを、こちらも味わってみたくなった。

 BL漫画が原作だが、同性愛的な描写はほとんどない。ただ、大学で写真を専攻するハルが、手作り餃子を作るアキの手をきれいだと感じて撮ったスナップが教授の目に留まり、物語を動かすきっかけにはなっている。

 本作でフードコーディネートを手掛けた佐倉萌は、女優としてのキャリアが長く、豊富な現場経験と、特技の料理が本作で活きる形になった。


【僕の町はお風呂が熱くて埋蔵金が出てラーメンが美味い。】

公式サイト
https://www.ax-on.co.jp/sp/bokura/
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2023年
公開年月日:2023年5月26日
上映時間:110分
製作会社:AX-ON
配給:アークエンタテインメント
カラー/モノクロ:カラー
スタッフ
監督:本多繁勝
脚本:西永貴文
製作総指揮:石橋冠
プロデューサー:大井紀子
制作:飯塚昌夫、河内隆志
撮影:山下悟
録音:瓜生公明
音響効果:茂野敦史
照明:木村明生
編集:日下部元孝
スタイリスト:棚橋公子
ヘアメイク:幸田恵
VE:守屋誠一
選曲:原田慎也
監督助手:保母海里風
助監督:廣田啓
スチール応援:イナガキヤスト
VFX:田中貴志
ガンエフェクト:浅生マサヒロ、井上いちろう
タイトル題字:立川志の輔
キャスト
本江透:酒井大地
壁花凛:原愛音
佐伯挙:宮川元和
釣佳樹:長徳章司
本江俊也:金児憲史
海老光一郎:澤武紀行
本江佑香:お姉ちゃん(雷鳥)
小山未来:しまえりな
ダイブツ:山崎広介
堀之内梅吉:天地龍也
佐伯真代:尾島実和
釣忠佳:金澤一彦
釣今日子:橋川明美
タレント:木村夏樹
町人:ゆういち(雷鳥)
本江松蔵:泉谷しげる
本江佐江:丘みつ子
近藤医師:立川志の輔

(参考文献:KINENOTE)


【スパイスより愛を込めて。】

公式サイト
https://spice-movie.com/
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2023年
公開年月日:2023年6月2日
上映時間:94分
製作会社:「スパイスより愛を込めて。」製作委員会
配給:ブロードメディア
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:瀬木直貴
脚本:アラン・スミシー
プロデューサー:中西康浩、宮森宏和、瀬木直貴
撮影:岡田賢二
美術:阿久津桂
音楽:高山英丈
主題歌:あたらよ
録音:小清水建治
音響:田中俊
照明:宮西孝明
編集:別所順平
衣裳:中村絢
ヘアメイク:吉森香織
監督補:高明
助監督:金沢勇大
カレー監修:一条もんこ
調理監修:谷口直子
キャスト
山本蓮:中川翼
端目莉久:茅島みずき
葛城沙羅:速瀬愛
立花美宇:坂巻有紗
端目真司:福山翔大
山本直哉:田中直樹
端目美帆:横山めぐみ
井川:西山繭子
端目陽一:萩原聖人
山神大臣:加藤雅也
キャプテン:藤枝喜輝
金髪男:三浦永夢
山本香織:田中美里

(参考文献:KINENOTE)


【アキはハルとごはんを食べたい】

公式サイト
http://klockworx-v.com/akiharumovie/
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2023年
公開年月日:2023年6月2日
上映時間:90分
製作会社:「アキハル」製作委員会(制作プロダクション:レオーネ)
配給:クロックワークス
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:川野浩司
脚本:川崎龍太
原作:たじまこと
エグゼクティブプロデューサー:藤本款
製作:藤本款、久保和明
プロデューサー:古井戸香奈子、久保和明
撮影:ふじもと光明
美術:貝原クリス亮
音楽:西ヶ谷元紀
録音:松島匡
照明:ふじもと光明
スタイリスト:小野魁人
ヘアメイク:田中梨沙
ラインプロデューサー:浅木大
助監督:山口雄也
スチール:柴崎まどか、鬼丸紗稀穂
フードコーディネート:佐倉萌
キャスト
秋吉純太(アキ):赤澤遼太郎
藤城春継(ハル):高橋健介
米山優一:赤羽流河
麦田司:櫻井佑樹
一ノ瀬あずさ:竹内星菜
坂本雪乃:田中優香
立夏:青山ひかる
教授:永山たかし
大家さん:柴田理恵

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。