恒例・この時期のワイン映画

[292]

昨日11月17日は11月第3木曜日で、ボジョレー・ヌーヴォーの解禁日だった。例年この時期になると、ワインを題材とした映画が公開されるのが恒例となっている。今回は、ボジョレー・ヌーヴォーの解禁を前に公開された、仏日2本の作品をご紹介する。

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

「ソウル・オブ・ワイン」のロマネ=コンティ

ブルゴーニュのブドウ畑の冬。農夫が馬をひき、土を鋤いていく。
ブルゴーニュのブドウ畑の冬。農夫が馬をひき、土をいていく。

「ソウル・オブ・ワイン」は、ピノ・ノワール(赤)、シャルドネ(白)、ボジョレー・ヌーヴォーに使われるガメ(ガメイ、赤)等のブドウ品種で造られるワインの聖地、フランスのブルゴーニュ地方が舞台。安い場合でも1本数十万円、数百万円で取引されているものもあるという高級ワインの代名詞、ロマネ=コンティをはじめ、ジュヴレ・シャンベルタン、シャンボール・ミュジニー、ムルソー、ヴォルネイといった世界最高峰のワインを造るために、魂(ソウル)を傾ける人々を追ったドキュメンタリーである。

 過去に「約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語」(2009、本連載第50回参照)、「ブルゴーニュで会いましょう」(2015、本連載第140回参照)、「おかえり、ブルゴーニュへ」(2017、本連載第192回参照)といった、ブルゴーニュのドメーヌ(ワイン生産者)を主人公にした劇映画や、ボルドーワインについてのドキュメンタリー、「世界一美しいボルドーの秘密」(2013、本連載第85回参照)はあったものの、ブルゴーニュワインを題材とした劇場用ドキュメンタリーは近年なかったと記憶している。

 本作では、冬・春・夏・秋の四季を通して、「神に愛された土地」と形容されるブルゴーニュのブドウ畑で、今日の有機農業の原型の一つであるビオディナミ農法による丁寧なブドウ栽培が描かれる。それと並行して、ワイン界の第一人者であるドメーヌや醸造責任者、樽職人、醸造学者、ソムリエへのインタビューが挿入され、ブルゴーニュのワイン造りの真髄に迫っていく構成になっている。

 この映画の白眉は、ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ=コンティ(DRC)の醸造所内にカメラが入ったことだろう。ブドウの選別から圧搾までが手作業で行われ、たった1.8haの畑で栽培された希少な果実を、はれものに触るように扱っている様子が見てとれる。ブドウの栽培シーンも含め、見る人が見ればロマネ=コンティがあれだけ高価な理由がわかるかも知れない。

 特筆すべきは、ラスト近くで二人の日本人が登場していること。パリ6区にあるビストロ「LE PETIT VERDOT」のオーナー・ソムリエ、石塚秀哉とパリ16区にあるレストラン「RESTAURANT PAGES」のオーナー・シェフ手島竜司氏だ。この二人の東洋人が、西洋文化の魂(ソウル)とも言える「途方もなく、信じがたい存在」に出会った時の驚きと感動は、観る者にも伝わってくる。

「シグナチャー 日本を世界の銘醸地に」の「桔梗ヶ原メルロー シグナチャー1998」

「シグナチャー 日本を世界の銘醸地に」は、2018年に公開された実話をもとにしたドラマ「ウスケボーイズ」(本連載第190回参照)のアナザーストーリーともいうべき作品である。今回の主人公は、現在シャトー・メルシャンのゼネラル・マネージャーを務める実在の醸造家、安蔵光弘(平山浩行)。安蔵の著書「5本のワインの物語」の第1章・第2章の内容がベースになっている。

 本作のキーパーソンは、「ウスケボーイズ」と同様、「現代日本ワインの父」と称される醸造家、元メルシャン理事、勝沼ワイナリー工場長の故・麻井宇介(本名:浅井昭吾、演:榎木孝明)である。物語は、安蔵の妻、正子(竹島由夏)が、20年前を回想する形式で進行する。

 1995年にメルシャンに入社した安蔵は、社員寮で麻井と出会い、その知見と人柄に魅せられ、麻井を師と仰ぎながらワイン造りに邁進していく。その成果の一つが、麻井が持ち込んだニュージーランドワイン「プロヴィダンス1993」をヒントに開発した1998年ものの「桔梗ヶ原メルロー」。このワインは後に「シャトー・メルシャン桔梗ヶ原メルロー シグナチャー1998」と命名され、高い評価を得ることになる。

 シグナチャーとは、特別なワインに醸造責任者がサインを入れることで、安蔵は海外赴任先のボルドーで、ボトルのラベル一枚一枚にサインを入れる栄誉に浴する。そんな折、まさかの試練が安蔵を襲い……。

「ウスケボーイズ」の主人公、岡村(渡辺大)や城山(本作役名:内藤、演:内藤正幸)もブラインドテイスティングのシーンで登場。彼らの仲間だった上村(本作での姓は水上)が、安蔵の妻、正子になる巡り合わせとなっている。会社を辞め、ボルドーのシャトーやブルゴーニュのドメーヌを目指して生産者となった岡村と城山、会社に残ってワイン造りを極めようとした安蔵。道のりは違えども、世界と肩を並べるワインを日本で造ろうというゴールは同じように感じた。

まだある、本日・近日公開のワイン映画

 本日11月18日(金)公開の「戦地で生まれた奇跡のレバノンワイン」は、度重なる紛争に翻弄されてきた中東の小国、レバノンが、実は知られざる世界最古のワイン産地の一つだという事実と、戦争中もワインを不屈の精神で作り続けてきたレバノンのワインメーカーたちの生き方を描いたドキュメンタリーとのことである。日本にも「シャトー ミュザール」等のレバノンワインが輸入されているようだ。

 また、12月16日(金)公開の「チーム・ジンバブエのソムリエたち」は、“ワイン真空地帯”のジンバブエ共和国から南アフリカに逃れた、黒人4人のソムリエ“チーム・ジンバブエ”が、「世界ブラインドワインテイスティング選手権」に初参戦し、“神の舌”を持つ先進国の白人ソムリエたちとワインバトルを繰り広げるという“ワイン版「クール・ランニング」”とのことだ。こちらは何も考えずに楽しめそうである。

 共に興味深い内容であれば、観たうえで本コラムでも取り上げてみたい。


【ソウル・オブ・ワイン】

公式サイト
https://mimosafilms.com/wine/
作品基本データ
原題:LÂME DU VIN
製作国:フランス
製作年:2019年
公開年月日:2022年11月4日
上映時間:102分
製作会社:Schuch Productions
配給:ミモザフィルムズ
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督・脚本:マリー・アンジュ・ゴルバネフスキー
監修:アレクサンドラ・ポッケ
製作総指揮:マリアンヌ・レレ
撮影:エルヴィール・ブルジョワ、フィリップ・ブレロー
音響:ブルーノ・エリンガー、リュドヴィック・エリアス、エマニュエル・ル・ガル
整音:ダミアン・ボワテル
編集:フレデリック・ボネ
キャスト
ベルナール・ノブレ
クリストフ・ルーミエ
ドミニク・ラフォン
オリヴィエ・プシエ
フレデリック・ラファルジュ
カロリーヌ・フュルストス
オリヴィエ・バーンスタイン
ステファン・シャサン
ジャック・ピュイゼ
オベール・ド・ヴィレーヌ
石塚秀哉
手島竜司

(参考文献:KINENOTE、「ソウル・オブ・ワイン」パンフレット)


【シグナチャー 日本を世界の銘醸地に】

公式サイト
https://www.signature-wine.jp/
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2021年
公開年月日:2022年11月4日
上映時間:120分
製作会社:カートエンターテイメント(企画:カートエンターテイメント/製作協力:ビーテックインターナショナル、エーチームアカデミー/制作プロダクション:楽映舎)
配給:カートエンターテイメント(配給協力:REGENTS)
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督・脚本・エグゼクティブプロデューサー:柿崎ゆうじ
プロデューサー:古谷謙一、前田茂司
撮影:松本貴之
美術:泉人士
音楽:西村真吾
主題歌:辰巳真理恵
録音:小林圭一
音響効果:西村洋一
照明:佐藤俊介
編集:神谷朗
スタイリスト:前田勇弥
キャスティングプロデューサー:山口正志
ラインプロデューサー:善田真也
助監督:長尾楽
記録:西岡智子
宣伝プロデューサー:廿樂未果
キャスト
安蔵光弘:平山浩行
安蔵正子:竹島由夏
三村芳成:徳重聡
牧野明久:山崎裕太
高坂慎太郎:篠山輝信
岡村英二:渡辺大
内藤明人:出合正幸
菊池香織:伊藤つかさ
謎の男性客:和泉元彌
ソムリエ:田邉公一
塩沢:板尾創路
塩沢の妻:黒沢かずこ
佐藤昌史:大鶴義丹
大村春夫:辰巳琢郎
水上勲:長谷川初範
水上はる子:宮崎美子
麻井宇介(浅井昭吾):榎木孝明

(参考文献:KINENOTE)

アバター画像
About rightwide 354 Articles
映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。