おじいちゃんの足跡と大好物

[273] 「ゴーストバスターズ アフターライフ」より

ニューヨークに大量のゴーストが出現した「1984年マンハッタン次元亀裂事件」から37年。オクラホマの片田舎で再びゴーストたちが動き出す……。「ゴーストバスターズ アフターライフ」(2020)は、忘れられた英雄の孫たちが祖父の“遺産”を探し当ててゴーストに立ち向かうのがメインの物語。その他にも多くの“発掘”に満ちあふれた作品である。

おじいちゃんの“人生のかけら”と“手放せなかったアレ”

 シングルマザーのキャリー(キャリー・クーン)、兄トレヴァー(フィン・ウルフハード)、妹フィービー(マッケンナ・グレイス)のスペングラー一家は、家賃の滞納で都会にいられなくなる。彼らは、心臓発作で亡くなったキャリーの父で科学者のイゴンが住んでいたオクラホマ州サマーヴィルの「泥屋敷」に引っ越す。そこには金目のものは何もなくガラクタばかり。

 キャリーは、研究優先で自分を放置した父を憎んでいた。一方、科学オタクのフィービーは祖父の“人生のかけら”に興味津々。ガラクタの中からPKEメーター(ゴースト検知装置)を見つけ出す。さらに、地下に研究室があることをつきとめ、そこにあったECTOゴーグル(ゴースト可視化装置)、ゴーストトラップ(捕獲装置)、プロトンパック(レーザー発射装置)といったゴーストバスターズのマストアイテムを次々に再生させていくのだ。

 地下の研究室には、イゴンがゴーストバスターズだった頃のユニフォームも残されていた。その胸ポケットから出てきたのは「トゥインキー」。イゴンが第1作(1984、本連載第204回参照)でゴーストのエネルギー量の説明に使ったアメリカの人気菓子である。

サマーヴィルにあるローラースケートバーガーショップ「Spinners Roller Hop」。
サマーヴィルにあるローラースケートバーガーショップ「Spinners Roller Hop」。

 一方、トレヴァーは「アメリカン・グラフィティ」(1974、本連載第144回参照)の「メルズ・ドライブ・イン」を思わせるローラースケートバーガーショップ「Spinners Roller Hop」でウェイトレスとして働くラッキー(セレステ・オコナー)に一目ぼれ。彼女に近付くために年齢を偽ってアルバイトとして働き出す。

 この「Spinners Roller Hop」、外観こそ1960年代風だが、寄って来る車はシボレー「インパラ」やフォード「サンダーバード」といった往年のアメ車ではなく、スバル「レガシィ」やトヨタ「カムリ」といった小型の日本車が多いのが時代を感じさせる。

 トレヴァーは、運転免許の学科試験に5回落ちていたが、車は欲しい。そこで、泥屋敷のガレージで埃をかぶっていたキャデラックの改造車「ECTO-1」のレストアに取り組み始める。

 後にこの車のグローブボックスからもトゥインキーが出てくる。ある使命のためにすべてを投げ打ってサマーヴィルに移ってきた元ゴーストバスターズのイゴン。でも大好物のトゥインキーだけは手放せなかったことがよくわかる描写である。

先生が発掘したものと動き出すあいつら

 キャリーは、フィービーをサマースクールに入れる。フィービーがそこで出会ったのは、グルーバーソン先生(ポール・ラッド)と同級生のポッドキャスト(ローガン・キム)。グルーバーソンは、スクールのVHSビデオテープライブラリーからお宝映画が見つかったと言って生徒に見せたりする変な先生だ。お宝映画とはスティーブン・キング原作のアニマルホラー「クジョー」(1984)のこと。その他、チャッキー人形が人を襲うホラー「チャイルドプレイ」(1988)を観せる等、この先生にやる気がないのは明らかだ。実のところ、グルーバーソンは別の目的があってサマーヴィルにやって来たのだった。

 ポッドキャストはその名の通りサマーヴィルのトンデモ系の話題を中心に配信しているポッドキャスター。フィービーはこの二人と組んで、祖父が何のためにサマーヴィルに来たのか、何をしようとしていたのかを探ろうとする。

 グルーバーソンはフィービーを介してキャリーと知り合い食事に誘う。行ったのは招き猫と布袋様のカップが特徴的な中華料理店。2016年版の「ゴーストバスターズ」に出てきた「老朱食堂」へのオマージュだろうか。まさにその時、外では大騒動が生じていたのだが……。

 泥屋敷にエビチリを届けた後、グルーバーソンは近くのウォルマートに立ち寄る。ウォルマートは売上高世界一のスーパーマーケット。オクラホマの片田舎でも広大な売場面積と豊富な品揃えの店舗であることが画面から見てとれる。

 彼がサーティーワンのジャモカアイスのトッピングをブルーベルベット(1987年のデヴィッド・リンチ監督作品

に因む)にしようかと悩んでいたところ、隣の「Stay Puft Marshmallows」の棚では……。

 ネタバレになるので、これ以降の内容は劇場でお楽しみいただきたい。

親子監督の絆

 本作は最初の「ゴーストバスターズ」の正当な続編として製作された。監督のジェイソン・ライトマンは、第1作と第2作「ゴーストバスターズ2」(1989)の監督であるアイヴァン・ライトマンの息子である。「JUNO/ジュノ」(2007)や「マイレージ・マイライフ」(2009)でアカデミー監督賞候補となる等、親の七光りを越えた実力を持つ監督のジェイソンは、幼い頃に父親が監督する「ゴーストバスターズ」の撮影現場を訪れている。もし自分がゴーストバスターズの血を引いていて、実際にプロトンパックを発射したらどんな感じなのか。第1作を観てそう思った人たちのための映画を作りたかったと、ジェイソンは述べている。そしてその狙いは成功していると言えるだろう。

 そして、父親のアイヴァンは今回製作に回り、息子のサポート役に徹した。どこか本作のストーリーラインに似たエピソードである。

 本作は当初2020年の公開が予定されていたが、コロナ禍による数回の延期を経て、2021年11月19日にアメリカで公開された(日本公開は2022年2月4日)。アイヴァンは、公開を待つかのように2月12日にカリフォルニア州モンテントの自宅で息を引き取ったという。今後はイゴン役のハロルド・ライミスと共に、ゴーストとなってシリーズを見守り続けることだろう。


【ゴーストバスターズ アフターライフ】

公式サイト
https://www.ghostbusters.jp/
作品基本データ
原題:GHOSTBUSTERS: AFTERLIFE
製作国:アメリカ
製作年:2020年
公開年月日:2022年2月4日
上映時間:124分
製作会社:The Montecito Picture Company
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
レイティング:一般映画
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督:ジェイソン・ライトマン
脚本:ジェイソン・ライトマン、ギル・キーナン
原作映画脚本:ダン・エイクロイド、ハロルド・ライミス
製作総指揮:ダン・エイクロイド、ギル・ケナン、ジェイソン・ブルーメンフェルド、マイケル・ビューグ
製作:アイヴァン・ライトマン
撮影:エリック・スティールバーグ
美術:フランソワ・オデュイ
音楽:ロブ・シモンセン
編集:デイナ・E・グローバーマン、ネイサン・オルロフ
キャスト
フィービー:マッケンナ・グレイス
トレヴァー:フィン・ウルフハード
キャリー:キャリー・クーン
グルーバーソン:ポール・ラッド
ポッドキャスト:ローガン・キム
ラッキー:セレステ・オコナー

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。