「おとなの事情」のコンビーフ

[245]

現在公開中の「おとなの事情 スマホをのぞいたら」は、イタリアのアカデミー賞に当たるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で作品賞と脚本賞を受賞したコメディ映画「おとなの事情」(2016)の日本版リメイクである。

 この「おとなの事情」、フランスでは「ザ・ゲーム 〜赤裸々な宴〜」(2018、日本未公開、Netflix配信)、韓国では「完璧な他人」(2018)としてリメイクされた他、ギリシャ、スペイン、トルコ、インド、ハンガリー、メキシコ、中国、ロシア、ポーランド、ドイツ、ベトナム等でもリメイクされている。過去にも韓国映画「怪しい彼女」(2014、本連載第150回参照)が日本、中国、ベトナム等でリメイクされた例はあったが、今回の多国間リメイクはアジアだけでなく世界各国に及んでおり、最も多くリメイクされた映画としてギネス世界記録に認定されている。

コンビーフが結んだ絆

 ストーリーは、3組の夫婦と独身男一人の計7人が集まった月食の夜の夕食会で、お互いに秘密がないことの証として各自がスマホをテーブルの上に置き、ロックを解除して着信やメールをすべて見せ合うという危険なゲームを描いたブラックコメディである。当然ながら秘密がない人などいるはずもなく、浮気や性的嗜好等のプライバシーが次々と暴露され、楽しいはずの宴は不協和音を奏でていく……。

 元祖イタリア版はマスカルポーネやリコッタといったチーズ類やペンネ等のパスタやティラミス、フランス版はフォアグラのミルク煮等、夕食会のメニューもお国柄を反映したものになっているが、日本版のキーフードはなぜかコンビーフ。これは日本版の翻案にあたって、売れっ子脚本家の岡田惠和が施した、7人のつながりについての新設定(元は幼馴染という設定だった)に起因している。ネタバレになるので詳しくは述べないが、この新設定が7人が定期的に集まる意義と、秘密の暴露程度では揺らがない絆の深さを描き出すことに貢献している。

70年ぶりの変更

従来の巻取り方式の枕缶(左)と新パッケージのアルミック缶(右)
従来の巻取り方式の枕缶(左)と新パッケージのアルミック缶(右)

 本作に登場するコンビーフは、緑地に牛の絵柄の入った台形型の缶でお馴染みの「ノザキのコンビーフ」。昭和25年(1950年)の発売開始以来、缶切りを使わず付属の巻取り鍵で回しながら開缶する方式をとっていたが、昨年(2020年)の3月、70年ぶりにこの方式を改め、アルミ箔と樹脂フィルムを貼り合わせたシール蓋のアルミック缶を採用した。

 従来のパッケージをつくっている容器メーカーの設備が老朽化し、製造の継続が困難になったことに加え、巻取り鍵の紛失、途中で帯が切れてしまう等の開けづらさを解消する意味もあるとのことだが、巻取り鍵をくるくる回しながら開ける楽しみがなくなったことを残念に思うコンビーフファンも多いことだろう。


【おとなの事情 スマホをのぞいたら】

公式サイト
https://www.otonanojijo.jp/
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2020年
公開年月日:2021年1月8日
上映時間:101分
製作会社:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(制作プロダクション:共同テレビジョン)
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:光野道夫
脚本:岡田惠和
原作:イタリア映画「おとなの事情」
製作総指揮:ウィリアム・アイアトン
プロデューサー:上木則安、栗原美和子、山崎淳子
撮影:須藤康夫
デザイン:荒川淳彦
美術:吉田敬
音楽:眞鍋昭大
録音:渡辺丈彦
音響効果:西垣尚哉
照明:海保栄吉
編集:涌井真史
映像:佐藤隆彦
選曲:谷口広紀
ラインプロデューサー:武石宏登
制作担当:横澤淳
助監督:佃謙介
記録:荒澤志津子
VFXスーパーバイザー:石井教雄
キャスト
小山三平:東山紀之
六甲絵里:鈴木保奈美
六甲隆:益岡徹
園山薫:常盤貴子
園山零士:田口浩正
向井杏:木南晴夏
向井幸治:淵上泰史

(参考文献:KINENOTE)

アバター画像
About rightwide 354 Articles
映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。