肉の味と母の足跡をたどる旅

[241]映画「フード・ラック! 食運」から

もし、焼肉が最高の演技をしたらどうなる?

 現在公開中の「フード・ラック! 食運」は、「芸能界イチのグルメ王」を自称し、「取材拒否の店」(2009)、「寺門ジモンの常連めし〜奇跡の裏メニュー〜」(2009〜2010)、「寺門ジモンの肉専門チャンネル」(2014〜)等のTV番組や、「寺門ジモンのこれを食わずに死ねるか!!」(2006)、「えっ、これを食わずに生きてたの?」(2007)、「降臨! 肉の神様(自称)疑う前に食べなさい」(2008)、「別冊Lightning ジモンの肉本」(2009)等の著書で食通ぶりを披露しているお笑いタレントの寺門ジモン(ダチョウ倶楽部)が、焼肉を題材に初監督を務めた作品である。

フードライターの“自分探しの旅”

 ストーリーは、出版社・ネクスト・エイジの社長、新生(石黒賢)から“本物”だけを集めた新しいグルメ情報サイトの第一弾として、焼肉店の取材を依頼されたフリーライターの良人(EXILE NAOTO)が、編集者の静香(土屋太鳳)と共に知られざる焼肉の名店を取材するうちに、良人の実家で今は閉店してしまった焼肉店「根岸苑」で、子供時代の良人が母・安江(りょう)に仕事の合間に作ってもらっていた思い出の味に行き着くというもの。

「根岸苑」は他界した良人の父が遺した唯一の形見で、安江が良人を育てながら女手ひとつで店を切り盛りし繁盛していたが、人気グルメ評論家・古山(松尾諭)が市場の休み明けの月曜にホルモンを出す店はダメだと酷評したために客足は激減。それでも少しずつ活気を取り戻しつつあったところ、母に構って欲しい良人が起こしたある行動がもとで店は閉店に追い込まれたのだった。

 それから18年後。家を飛び出した良人は、安江から受け継いだ味覚を生かして食関連のライターとして生計を立てていたが、自分が書いた記事がもとで西田(矢柴俊博)が営むパン屋を経営難に追い込んでしまう等、かつての「根岸苑」に対する古山と同じことをやっているジレンマに悩んでいた。

 そんな折、疎遠になっていた安江が倒れたという知らせを受けた良人は、安江が末期がんで余命いくばくもないことを知り、「根岸苑」の味を復活させることを決意。安江ゆかりの人々が営む店を巡り、それぞれに「根岸苑」の味の痕跡を見出していく。

 本作は家畜商の免許を持つジモン監督のうんちくの詰まった、肉が主役とも言える映画だが、良人の自分探しの旅、母との絆といったヒューマンドラマの要素を併せ持つことで見応えのある作品に仕上がっている。

「根岸苑」の“レガシー”を受け継ぐ店たち

 安江が「根岸苑」を閉めた後で働いていた「スタミナ亭」(モデルは足立区鹿浜の「スタミナ苑」)は、誰でもおいしく焼けるガスロースターを採用する庶民的な店。炭火は遠赤外線の効果で火がよく通り肉を香ばしく焼けるものの、素人には扱いが難しいと、あえて排した。店主の豊川(大和田伸也)は安江の昔馴染みで、上タン、上ハラミ、ミックスホルモン、レバー等の仕込みは「根岸苑」の味を彷彿とさせるものだった。

「根岸苑」では、肉の脂を口の中から取るためにぬか漬けを付け合わせに出していた。安江は「根岸苑」を閉めた後も店の手入れをしていたが、ぬか床は残っていなかった。ツギハギだらけのぬか漬けの壺には、幼い良人が描いた絵と旧型のポータブルテレビが。テレビに書かれていた店名を頼りに良人と静香が向かった「マウンテン」は、絶品のタレに絡めたミスジとサーロインが評判の店で、お客を見て味付けを変える細かい仕事ぶりが光る店だった。店主の山田(寺脇康文)は、テレビにまつわる安江とのタレをめぐるエピソードを語る。

子供時代の良人が「キャベツのかき氷」と呼んでいた「千切りキャベツの焼肉のせ」。本作のキーフードである。
子供時代の良人が「キャベツのかき氷」と呼んでいた「千切りキャベツの焼肉のせ」。本作のキーフードである。

 一見いちげんさんお断りの「川崎苑」。味付けは塩だけ。しかも、お客はまず千切りキャベツの浅漬けをセルフで作らされるというストイックな店。しかし、その千切りキャベツはかつて安江が子供時代の良人に作ってくれた「キャベツのかき氷」(千切りキャベツの焼肉のせ)のキャベツに似ていた。案の定、川崎苑の女将、小百合(東ちづる)と安江の共同開発であることが判明。主人の二郎(白竜)は良人の父と共に修業した仲で、「根岸苑」とは肉の切り方が似ていた。ここへの二度目の来店では、良人と古山が鉢合わせ。この二人が熟成肉や肉の塊の焼き方について激論を戦わせるくだりは、本作の見どころの一つである。

 豊川からの情報で、かつて安江からぬか床を分けてもらった「割烹 味都」の店主・石原(竜雷太)から、良人はぬか床を入手する。それを使って、かつて安江が良人に作ってくれた「ぬか漬けふりかけごはん」を再現すべく試行錯誤を重ねるのだが、なかなかうまくいかない。そんな折、安江の容態が急変したとの知らせが病院から入る。果たして再現メニューは間に合うのか……。

食べる人にも注目

 本作に登場する「飯テロ」メニューの数々を食する俳優の食べる演技にも要注目だ。ほとんどの場面で表情ひとつ変えずに味に集中する良人に対し、静香の方は「おいしい」がそのまま顔に出ていて好対照をなしている。

 そして、寺門ジモンが所属するお笑いグループ「ダチョウ倶楽部」のメンバー、肥後克広と上島竜兵が、ある場面で特別出演しているのも要チェックである。

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。