ニューヨーカーたちの年越し

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明けましておめでとうございます。年の初めのご報告です。本連載の通巻表記は上記のようになっていますが、100回記念企画を10本に分けて掲載していたので、前々回で記事本数は200本に達していました。

 そこで今回は長きにわたり本連載をご覧いただいている皆様に感謝を込めて、タイトルに「200本」を冠する作品を取り上げました。

待ちぼうけのカニのディップ

モニカが年越しパーティーのために作ったカニのディップ。周囲にチップスや野菜ステックが添えられている。
モニカが年越しパーティーのために作ったカニのディップ。周囲にチップスや野菜ステックが添えられている。

「200本のたばこ」(1999)は、まだインターネットや携帯電話が普及していなかった1981年の大晦日のニューヨークを舞台に、年越しパーティーに集う若者たちの恋模様をグランドホテル形式で描いた群像劇である。

「ピースメーカー」(1997)等でキャスティング・ディレクターを務めたリサ・ブラモン・ガルシアの監督デビュー作で、製作総指揮には「フォー・ウェディング」(1994)の監督、マイク・ニューウェルが就いている。現代の目で見た最大の注目点は、「アルゴ」(2012)で第85回アカデミー作品賞を受賞する等、監督・俳優の両面で活躍中のベン・アフレックと、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(2016)で第89回アカデミー賞主演男優賞を受賞したケーシー・アフレックの若き日の兄弟共演だろう。

 映画は年越しパーティーの主宰者、モニカ(マーサ・プリンプトン)がカニのディップ等の料理を準備万端整えながら親友のヒラリー(キャサリン・ケルナー)と待ちぼうけを食っているシーンから始まる。

 ディップは、クラッカーやチップス、野菜スティック等に付けて食べるホームパーティー定番の料理だ。日本では大晦日は年越しそば、お正月はおせち料理が定番になっているが、こうしたアメリカンスタイルの年越しもあっていいだろう。

タバコとカクテルとインド料理と

 その頃、パーティーの招待客たちは新年の夜を共に過ごす最高のパートナーを確保しようと街をさまよっていた。日本でもクリスマスが来るたびに繰り返されるトチ狂った連中の悲喜こもごもが次々に映し出されていく。

 恋人のエリー(ジャニーヌ・ギャロファロ)にふられたばかりのケヴィン(ポール・ラッド)は、大晦日が誕生日で、友達のルーシー(コートニー・ラヴ)から1カートンのタバコをプレゼントされる。タバコ1箱が20本入りで1カートンは10箱入りだからこれがタイトルの由来と思われる。セリフでも出てくるがタバコは本心を隠す煙幕のようなもので、実は相思相愛のケヴィンとルーシーが24時間営業のカフェで語り合う際の恋の駆け引きのツールとして使われている。

 途中、ルーシーは立ち寄ったバーのバーテンダー(ベン・アフレック)に目移りしかけるが、「カクテル」(1988、本連載第153回参照)のトム・クルーズばりにフレアバーテンディングを決めようとしたバーテンはトスに失敗して瓶を落としてしまう。仕事を終えたバーテンを誘ったのは……。

 郊外からやってきたモニカの従妹ヴァル(クリスティーナ・リッチ)と友達のステフィ(ギャビー・ホフマン)は、道に迷って危険な地区に入ってしまい、不良少年の二人組トム(ケイシー・アフレック)とデイヴ(ギレルモ・ディアス)に危うくナンパされそうになるが……。

 ブリジット(ニコール・パーカー)は恋人のエリック(ブライアン・マッカーディ)がモニカの元カレだと知り、友達のケイトリン(アンジェラ・フェザーストン)と他の男を探しに行く。二人が出会ったのは……。

 処女のシンディ(ケイト・ハドスン)は、女たらしのジャック(ジェイ・モア)に引っかかるが、失敗ばかり繰り返してそれがかえって彼女の身を守る結果となる。グラスが割れて散々だったビリヤード場の後でシンディとジャックが行ったのはインド料理店。ここでもシンディはオクラと間違えて唐辛子を飲み込んでしまい、辛さパニックになってテーブルをひっくり返しドレスを汚してしまう。

 毎晩よくあることですと冷静に対応するインド人の店員が笑いを誘う。東京にもさまざまな国の料理店があるが、多人種の住むニューヨークだけにローカライズされていない本場のインド料理だったのかもしれない。

 さて、年越しのカウントダウンが迫る中、誰が誰と結ばれるのか……。

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

一夜限りの夢

 1月1日の朝、皆が来ないのでふて寝していたモニカが目覚めると、パーティはすでにお開きになっていて料理もきれいに片付けられていた。どうやら招待客の全員が相手を見つけて来訪し大盛況だったようで、モニカが大ファンのあの有名歌手もサプライズ登場し、カニのディップが気に入ってレシピを知りたがっていたというのがオチの、一夜限りの夢物語であった。


【200本のたばこ】

「200本のたばこ」(1999)

作品基本データ
ジャンル:ドラマ
原題:200 Cigarettes
製作国:アメリカ
製作年:1999年
公開年月日:1999年11月20日
上映時間:102分
製作会社:パラマウント・ピクチャーズ=レイクショア・エンターテイメント作品
配給:アスミック
カラー/モノクロ:カラー
スタッフ
監督:リサ・ブラモン・ガルシア
脚本:シェイナ・ラーセン
製作総指揮:マイク・ニューウェル、アラン・グリーンスパン、トム・ローゼンバーグ、シガージョン・サイヴァットソン、テッド・タネンバウム
製作:ベッツィ・ベアーズ、デイヴィッド・ゲール、ヴァン・トフラー
撮影:フランク・プランツィ
美術:アイナ・メイヒュー
音楽:マイケル・ブラモン
編集:リサ・ゼノ・チャーギン
衣装デザイン:スーザン・ライヤル
キャスト
バーテン:ベン・アフレック
トム:ケイシー・アフレック
デイヴ:ギレルモ・ディアス
エリー:ジャニーヌ・ギャロファロ
ステフィ:ギャビー・ホフマン
シンディ:ケイト・ハドソン
ヒラリー:キャサリン・ケルナー
ルーシー:コートニー・ラヴ
エリック:ブライアン・マッカーディ
ジャック:ジェイ・モア
ブリジット:ニコル・パーカー
モニカ:マーサ・プリンプトン
ヴァル:クリスティーナ・リッチ
ケヴィン:ポール・ラッド
ケイトリン:アンジェラ・フェザーストン
エルヴィス・コステロ:エルヴィス・コステロ

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。