ドラマを動かすサンドイッチ

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今回はサンドイッチが登場するミステリー映画をご紹介する。「暗くなるまで待って」と「記憶探偵と鍵のかかった少女」の2本だ。

「暗くなるまで待って」の即席ハムチーズサンドと冷蔵庫

「暗くなるまで待って」(1967)は、ヒッチコックの「ダイヤルMを廻せ!」(1954)の原作者として知られるフレデリック・ノットによる舞台劇の映画化で、「007」シリーズ(1962~、本連載54回参照)のテレンス・ヤングが監督。主演は「ローマの休日」(1953、本連載第58回参照)のオードリー・ヘップバーンだ。

 写真家のサム(エフレム・ジンバリスト・ジュニア)は、カナダからニューヨークに向かう飛行機で知り合った女リサ(サマンサ・ジョーンズ)から預かった人形を、中にヘロインが仕込まれているとも知らずに家に持ち帰る。そのヘロインを回収するためにサムの家に現れたロート(アラン・アーキン)、マイク(リチャード・クレンナ)、カーリノ(ジャック・ウェストン)の3人の悪党に、サムの妻で視覚障害を患ったスージー(ヘップバーン)が単身立ち向かうサスペンス・ミステリーである。

 サンドイッチが登場するのは映画のスタートから約10分後。マイクとカーリノは、所属する犯罪組織から詳細を知らされず、リサの家だと思ってサムの家を訪れる。留守の家に無断で侵入した二人は、リサの帰りを待つ間、マイクは家の中を物色してヘロイン入りの人形を探し、カーリノは冷蔵庫からパンとハムとチーズを取り出し、パンの上にハム1枚とチーズ3枚を乗せて即席のサンドイッチを作り、腹ごしらえをする。

 実はこのカーリノ、以前に不正を働いて刑事をクビになり、犯罪者側に転向したことが後に明かされるのだが、それを待つまでもなく、仕事の合間に食べられるうちに食べておこうという、刑事だった頃の習性が抜けないことが見てわかるシーンとなっている。

 マイクとカーリノが室内の中の様子からリサの家ではないと気付いた頃、リーダー格のロートが現れ、ヘロインを横取りしに来たリサを殺したという衝撃の告白をする。すると今度はこの家の本当の住人であるスージーが盲学校から帰ってきて、3人はいったん退散する。

 翌日、3人はスージーの目の見えないのを利用してあの手この手で彼女をだまし人形を手に入れようとするが、目の見えない代わりに人一倍音に敏感なスージーは3人の嘘に気付き、目が見えないハンデを克服するある手段(ヒント:この家はサムの仕事場でもある)を用いて3人に立ち向かっていく。これに対してロートが冷蔵庫を使うくだりは、先のカーリノがサンドイッチの材料を取り出すシーンが伏線として効果を上げている。

 公開当時は映画館の入替制が主流になるずっと前で、途中入場は自由、同じ映画を繰り返し観れたのだが、本作はヒッチコックの「サイコ」(1960、本連載第45回参照)と同様にラスト30分の入場が禁止され、常夜灯もぎりぎりまで暗くした中でこの冷蔵庫が登場すると、館内のそこかしこで女性の悲鳴がとどろいたという。昨今、観客が声を出す“絶叫上映”なるものが人気だが、これぞ“リアル絶叫上映”である。

「記憶探偵と鍵のかかった少女」のハンスト明けサンドイッチ

「記憶探偵と鍵のかかった少女」でジョンがアナのために用意した、ハムとレタスのシンプルなサンドイッチ。
「記憶探偵と鍵のかかった少女」でジョンがアナのために用意した、ハムとレタスのシンプルなサンドイッチ。

「記憶探偵と鍵のかかった少女」(2013)は、ペドロ・アルモドバルやギレルモ・デル・トロの助監督を務めてきたホルヘ・ドラドの長編初監督作品となる、アメリカ、スペイン合作のミステリーだ。

 人の記憶の中に入り込める特殊能力で数々の事件を解決してきた「記憶探偵」ジョン・ワシントン(マーク・ストロング)は、妻が自殺してから仕事から離れていたが、生活費が底を尽き、所属しているマインドスケープ探偵社の上司セバスチャン(ブライアン・コックス)を訪ねる。

 ジョンがもらった仕事は、セバスチャンが以前に担当していた資産家の娘で、奇しくも彼の亡き妻と同じ名前を持つ16歳アナ・グリーン(タイッサ・ファーミガ)のハンストを止めさせること。アナは、継父のロバート(リチャード・ディレイン)が、自分を施設に入れるために食べ物に薬物を仕込んでいるのではないかと疑い、自室にこもりハンストを続けていた。アナにはジュディス(インディラ・ヴァルマ)という専属の看護師が付けられ、部屋をカメラで常時監視されているのも、アナがロバートに反感を募らせる一因となっていた。

 ジョンは、アナがハンストを中止したらすぐ食べさせられるようにサンドイッチと飲み物を用意し、アナが愛用するメトロノームの定期的な音と共に記憶の中に入る。見えたのはアナが幼児期の記憶で、アルコールに溺れる母ミシェル(サスキア・リーヴス)、メイドと不貞を働くロバート、ロバートによる幼児虐待、アナがペーパーナイフで手を切ったこと等、ネガティブなものばかりだったが、記憶を見られたことでアナはジョンに親近感を持ったようで、ジョンのことをいろいろと聞いてくるようになる。そして、ジョンの亡き妻の写真を見せることと交換条件で、サンドイッチを食べることに同意する。

 ジョンがアナに差し出したサンドイッチは、全粒粉入りのパンにハムとレタスをはさんだようなシンプルなものだが、ハンストで休んでいた胃腸に優しい軟らかそうなもので、ジョンも一緒に食べることで2人の距離を縮める役割も果たしている。

 これで一件落着かと思われたが、ジュディスが2階から何者かに突き落とされるという事件が起きてアナが疑われたことから、ジョンはさらにアナの記憶の中に入っていき、その記憶に秘められたさまざまな事件と謎に深入りしていくことになるのだった。


【暗くなるまで待って】

「暗くなるまで待って」(1967)

作品基本データ
原題:Wait Until Dark
製作国:アメリカ
製作年:1967年
公開年月日:1968年5月1日
上映時間:107分
製作会社:ワーナー・ブラザース・セブン・アーツ
配給:ワーナー・ブラザース・セブン・アーツ
カラー/サイズ:カラー/スタンダード(1:1.37)
スタッフ
監督:テレンス・ヤング
脚色:ロバート・キャリントン、ジェーン・ハワード・キャリントン
原作戯曲:フレデリック・ノット
製作:メル・フェラー
撮影:チャールズ・ラング
音楽:ヘンリー・マンシーニ
キャスト
スージー・ヘンドリクス:オードリー・ヘップバーン
サム・ヘンドリクス:エフレム・ジンバリスト・ジュニア
ハリー・ロート:アラン・アーキン
マイク・トールマン:リチャード・クレンナ
カーリノ:ジャック・ウェストン
リサ:サマンサ・ジョーンズ
グローリア:ジュリー・ハロッド

(参考文献:KINENOTE)


【記憶探偵と鍵のかかった少女】

「記憶探偵と鍵のかかった少女」(2013)

作品基本データ
原題:MINDSCAPE
製作国:アメリカ、スペイン
製作年:2013年
公開年月日:2014年9月27日
上映時間:99分
製作会社:Safran Company=The, Antena 3 Films=Ombra Films
配給:アスミック・エース
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督:ホルヘ・ドラド
脚本:ガイ・ホームズ
原作:マーサ・ホームズ、ガイ・ホームズ
エグゼクティブプロデューサー:マリア・コントレラズ、ナタリー・マルシアーノ
プロデューサー:ジャウマ・コレット=セラ、メルセデス・ガメロ、ピーター・サフラン、ファン・ソラ
撮影:オスカル・ファウラ
プロダクション・デザイン:アラン・バイネ
音楽:ルーカス・ヴィダール
衣裳デザイン:クララ・ビルバオ
キャスティング:レグ・ポースコート・エドガートン
キャスト
ジョン・ワシントン:マーク・ストロング
アナ・グリーン:タイッサ・ファーミガ
ミシェル・グリーン:サスキア・リーヴス
ロバート・グリーン:リチャード・ディレイン
ジュディス:インディラ・ヴァルマ
ピーター・ラグレン:ノア・テイラー
トム・オルテガ:アルベルト・アンマン
セバスチャン:ブライアン・コックス

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。