オールディーズの外食と内食

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今回は、2つの映画を通して、1950年代・60年代のアメリカ・カリフォルニアの食文化を見ていこうと思う。一つは、前回に続いて「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985)の1955年11月5日のヒルバレー(架空の町)のシーン。もう一つは、1962年夏のカリフォルニア州モデストの一夜を舞台にした「アメリカン・グラフィティ」(1974)である。

「ルーのカフェ」とシリアル

 まずは前回「タブ」と「ペプシ・フリー」のエピソードを紹介した「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の「ルーのカフェ」から。このとき、結局マーティ(マイケル・J・フォックス)は砂糖抜きのブラックコーヒーを頼むのだが、その価格は5セント。当時は1ドル=360円の固定相場だったが、それでも日本円換算で18円という安さである。

 店内にはジュークボックスと、マーティがこの時代のドク(クリストファー・ロイド)の住所を電話帳で調べた公衆電話ボックスを備え、メニューはサンドイッチ、ハンバーガーといった軽食類、アイスクリーム、サンデー、フロート、ソーダ、コーラといったスイーツ系のデザートやソフトドリンク等があることが店の内外の表示から見てとれる。こうしたアメリカン・ダイナーのスタイルは、後に多店化するファストフード(ちなみに「マクドナルド」はこの年にチェーン化1号店を出店している)、コーヒーショップやその建築を採り入れた日本のファミリーレストラン等の外食チェーンの先駆けのように映る。

 マーティの隣で、後に父になるジョージ・マクフライ(PART1:クリスピン・グローヴァー)が食べていたのはアメリカ朝食の定番であるシリアル。彼は初登場となる30年後のマクフライ家のシーンではピーナッツ・ブリトルというピーナッツをキャラメルに絡めて砕いた菓子を食べているが、1955年、85年を通じてビフ(トーマス・F・ウィルソン)にいじめられる彼の気弱さがその食べっぷりにも出ているように見える。そんな彼をふがいなく思うマーティだが、カウンターに2人並んで頬づえをつく仕草は父子そっくりで、血は争えないといった感じである。

 マーティは、自分がこの時代に来たことで変えてしまった歴史を修復し、何とかパパとママを結婚させようと“バルカン星から来たダース・ベーダー”に化けてまで、プロムナイトの“魅惑の深海パーティー”に、後にマーティの母になるロレイン(リー・トンプソン)を誘うようジョージを煽る。2度目の「ルーのカフェ」のシーンでは、ジョージが注文を「ミルク……」と言いかけて「チョコレート!」(アイスココア)と言い直し、それをぐっとあおり、友達とストロベリーフロートを飲んでいるロレインのもとに向かうあたりに、意気地のなさを克服して勇気を振り絞る彼の決意のほどが見て取れる。

ベインズ家のミートローフ

マーティの母・ロレインの実家、ベインズ家のミートローフの想像図
マーティの母・ロレインの実家、ベインズ家のミートローフの想像図

 家庭料理に目を向けると、マーティがのぞき魔のジョージの代わりに、ロレインの父でマーティの祖父にあたるサミュエル・ベインズ(ジョージ・ディセンゾ)が運転する車に轢かれて担ぎこまれたベインズ家での夕食が挙げられる。

 この日は家に初めてテレビが来た日で、その設置からそのまま食事という流れになるのだが、マーティの自分の家にはテレビが2台あり、この番組は再放送で見たことがあるという話はベインズ家の人々にチンプンカンプンで、30年のギャップを感じさせるシーンになっている。

 マーティの祖母、ステラ(フランシス・リー・マッケイン)が作る夕食は、挽肉を固めてオーブンで焼いたミートローフをメインディッシュに、付け合わせの野菜とパン、飲み物はミルクとコーヒー、ソーダ等が並んでいる。この時代の中流家庭の典型的な食卓だと思われる。

「メルズ・ドライブイン」のダブルチャビーチャック

「メルズ・ドライブイン」のダブルチャビーチャック(右)とチェリーコークの想像図
「メルズ・ドライブイン」のダブルチャビーチャック(右)とチェリーコークの想像図

 フランシス・フォード・コッポラ製作、ジョージ・ルーカス監督による1974年作品「アメリカン・グラフィティ」は、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で描かれた1955年から7年後の1962年の夏、ルーカスの故郷であるカリフォルニア州北部の町モデストでの一夜を描いた青春群像劇で、ウルフマン・ジャックのDJに乗せて全編に流れる1950年代・60年代のヒットナンバーがオールディーズ・ブームを巻き起こした作品である。

 街の中央広場に面したビルテナント型店舗の「ルーのカフェ」に対し、本作の主舞台である「メルズ・ドライブイン」は、郊外の街道に面したドライブスルー・ダイナー。駐車スペースは店を中心にスター型に配置され、ローラースケートを履いたウェイトレスが各車を回って注文を取りに行く。客は店の中で食べるか、駐車場の車内で食べるか、テイクアウトしてもよい。こうしたスタイルに“古き良きアメリカ”への憧れを抱く人もいるだろう。

 また、奨学金をもらって明日東部の大学に旅立つカート(リチャード・ドレイファス)はシトロエン2CV、カートの高校の同級生スティーヴ(ロン・ハワード)はテールフィンの付いた58年型シボレー・インパラ、カートの妹でスティーブの恋人のローリー(シンディ・ウィリアムズ)は58年型フォード・エドセル、カートが一目ぼれするブロンド美女(スザンナ・ソマーズ)は白い56年型フォード・サンダーバード・コンバーチブル(白いTバード)、カートとスティーブの先輩格で公道ドラッグレーサーのジョン(ポール・ル・マット)は黄色い31年型フォード・デュース・クーペ改(ナンバーはルーカスの劇場用長編初監督作品のタイトル「THX1138」をもじった「THX138」)、ジョンをライバル視して執拗に追い回すボブ(ハリソン・フォード)は55年型シボレー・シェビー210と、個性豊かな車を1人1台乗り回すのも贅沢だ。

 そんな中、カートとスティーブの1年後輩のテリー(チャールズ・マーティン・スミス)だけは車がなく、“愛車”であるスクーター、ベスパの運転も危なっかしい。彼はローラースケートウェイトレスのブダー(ジャナ・ベラン)にお熱だがてんで相手にされない始末。

 一方、カートと明日出発するスティーヴは、「メルズ・ドライブイン」の駐車場の車の中でフライドポテトを食べながらローリーと別れ話。そして留守の間、車を預かってくれとテリーに自分の車のキーを渡すのだった。テリーは大喜びでさっそくインパラを乗り回し、当時のアイドル女優であるコニー・スティーブンス似か自称サンドラ・ディー似のデビー(キャンディ・クラーク)をナンパ。「メルズ・ドライブイン」に乗り付け、次のような注文をする。

「ダブルチャビーチャックとフレンチフライ、チェリーコークも」

 フレンチフライはわかるが、他の2つが聞き慣れないもので画面にも映らなかったためちょっと調べてみた。チャック(chuck)とは牛の首から肩の部位のこと。チャビー(chubby)は「ふくよかな」という意味らしい。つまりは肥育牛のチャック部位の挽肉を使ったプレミアムダブルバーガーといったところか。チェリーコークは文字通りチェリーフレーバーのコカ・コーラのことで、日本でも1985年に発売されたらしいが数年で販売終了したとのことである。まとめると、「マクドナルド」のビッグマック・セットのようなイメージになるだろうか。

ウルフマンの溶けたアイスキャンディ

 その後映画は、白いTバードの女を探すカート、別離の危機に直面したスティーヴとローリー、テリーとデビー、ジョンと歳下過ぎる“恋人”のキャロル(マッケンジー・フィリップス)、ジョンとボブの対決のエピソードが並行して“グラフィティ”(落書き)のように描かれていく。

 カートが高いアンテナのある放送局に迷い込み、ウルフマン本人と出会う場面。ウルフマンは後に米軍放送網AFN(日本では当時FEN)で“Wolfman Jack Show”を担当することになるが、この映画の頃はまだ“海賊放送”で移動しながら放送していたらしい。カートにウルフマンの正体はテープだと偽ったのもそういった事情からだろう。ウルフマンはカートの白いTバードの女へのリクエスト曲を流すことを約束し別れの握手をするが、冷蔵庫が故障して溶けたアイスキャンディーばかり食べていたため手がベタベタで、カートが思わずシャツで手を拭いたのが妙にリアル。恐らくかつての実話をもとにしているのだろう。

 最後にカート、スティーヴ、テリー、ジョンのその後が字幕で紹介されるのが印象深い。この年の翌年、ケネディ大統領が暗殺され、その後もベトナム戦争の泥沼にはまっていくアメリカ。その直前の豊かで平和なアメリカが、この映画で確かに輝いている。

USJの「メルズ・ドライブイン」とデロリアン

 大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンには、「メルズ・ドライブイン」を再現したハンバーガー・レストランがある。行く機会があれば是非オールディーズ気分を味わいたいものである。

 また、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に登場するデロリアンのレプリカが展示されていたが、残念ながら昨年5月31日で展示は終了。その後オークションにかけられて約460万円で落札された。その収益金はマーティ役のマイケル・J・フォックスが設立したパーキンソン病の研究助成を行う財団に寄付されたとのことである。


【バック・トゥ・ザ・フューチャー】

「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985)

作品基本データ
原題:Back to the Future
製作国:アメリカ
製作年:1985年
公開年月日:1985年12月7日
上映時間:116分
製作会社:アンブリン・エンターテインメント作品
配給:ユニヴァーサル=UIP
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:ロバート・ゼメキス
脚本:ロバート・ゼメキス、ボブ・ゲイル
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、フランク・マーシャル、キャスリーン・ケネディ
製作:ボブ・ゲイル、ニール・カントン
撮影:ディーン・カンディ
音楽:アラン・シルヴェストリ
特殊効果:インダストリアル・ライト・アンド・マジック
特殊メイク:ケン・チェイス
キャスト
マーティ・マクフライ:マイケル・J・フォックス
エメット・ブラウン(ドク):クリストファー・ロイド
ロレーン・ベインズ:リー・トンプソン
ジョージ・マクフライ:クリスピン・グローヴァー
ビフ・タネン:トーマス・F・ウィルソン
ジェニファー・パーカー:クローディア・ウェルズ
デイヴィッド・マクフライ:マーク・マクルーア
リンダ・マクフライ:ウェンディ・ジョー・スパーバー
サミュエル・ベインズ:ジョージ・ディセンゾ
ジェラルド・ストリックランド:ジェームズ・トールカン
ゴールディー・ウィルソン:ドナルド・フリィラヴ
マーヴィン・ベリー:ハリー・ウォーターズ・Jr.

(参考文献:KINENOTE)


【アメリカン・グラフィティ】

「アメリカン・グラフィティ」(1973)

作品基本データ
原題:American Graffiti
製作国:アメリカ
製作年:1973
公開年月日:1974/12/21
上映時間:110分
製作会社:ルーカス・フィルム・リミテッド=コッポラ・カンパニー
配給:ユニヴァーサル映画=CIC
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督:ジョージ・ルーカス
脚本:ジョージ・ルーカス、グロリア・カッツ、ウィラード・ハイク
製作:フランシス・フォード・コッポラ
撮影:ロン・イヴスレイジ、ジョン・ダルクイン
編集:ヴェルナ・フィールズ、マーシア・ルーカス
衣装デザイン:アギー・ゲイラード・ロジャース
キャスト
カート:リチャード・ドレイファス
スティーヴ:ロン・ハワード
ジョン:ポール・ル・マット
テリー:チャールズ・マーティン・スミス
ローリー:シンディ・ウィリアムズ
デビー:キャンディ・クラーク
キャロル:マッケンジー・フィリップス
DJ:ウルフマン・ジャック
ボブ:ハリソン・フォード
ブダー:ジャナ・ベラン
白いサンダーバードの女:スザンナ・ソマーズ

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。