「波動」の正体(1)

包装に「ありがとう」をたくさん書いたお茶。おいしいと感じたのは、たぶん「ありがとう」のせいではないと思うのだが
包装に「ありがとう」をたくさん書いたお茶。おいしいと感じたのは、たぶん「ありがとう」のせいではないと思うのだが
包装に「ありがとう」をたくさん書いたお茶。おいしいと感じたのは、たぶん「ありがとう」のせいではないと思うのだが
包装に「ありがとう」をたくさん書いたお茶。おいしいと感じたのは、たぶん「ありがとう」のせいではないと思うのだが

農家を訪ねたり、食に関係するいろいろな人に会っていると、「波動」なるものを語る人によく出くわす。水を入れた容器に、2種類の文字を書いたラベルを貼る。一方には「ありがとう」と書き、もう一方には「ばかやろう」と書く。何日か後に調べると、それぞれの容器内の水の「波動値」に差を生じているとかなんとかという、あれだ。

 この“実験”のばかばかしさは、普通の大人なら聞いただけですぐ分かりそうなものだが、波動を語る人はなかなかいなくならない。「波動のばかばかしさが分からない」と言う人がもしいれば、例えば「水はなんにも知らないよ」(左巻健男著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)を読めば、明快に分かる、はずだ。

 私が初めて「波動」の講釈を受けたのは、ある農家からだった。圃場で、「Oリングテスト」の実演を受けた。まず、「OK」のサインのように片手の親指と人差し指で輪を作る(Oリング)。この二つの指を、別な人が両手を使って離そうとするが、相当力を入れても離れない。次に、Oリングを作らないもう一方の手にタバコを持たせる。すると、今度は親指と人差し指が簡単に引き離されてしまう。

 この結果をもって、その農家は「ヒトに好いものと悪いものとがある」「ヒトに好いものと、悪いものと、それぞれに異なる波動を発している」「人体には、その波動を判別する能力が備わっている」と説明した。

 タバコが体に悪いということは、人体の一部である私の脳にある情報なので、何もこのような手間のかかる“実験”をしなくても、私に聞いてくれればいくらでも説明できるのだが。

 この農家、ある有名な大学(その農家は実名で話したが、確認していないのでここには書かない)の研究室に行って、波動値を測定する機械を使っていると言う。で、自分の畑や、自分の農法を採用したいという別な農家の畑から土のサンプルを取って来ては、波動値を測定しているとか。

 それはどういう機械なのかと尋ねると、「原理はCTスキャナと同じで」とか何とか言いながら、要領を得ない。私は「信じてないよ」という気持ちが顔に出る質(たち)らしい。しばらくして私の顔をのぞき込んで、もっとびっくりさせようと考えたのだろう。今度は「とんでもない実験」の話をし始めた。「神」「仏」「キリスト」、それぞれを書いた紙の波動値を測定したと言う。その結果は「0だった」「1だった」とか。単位もないその数字の“意味”が私には不明だったので、「はあ」としか言いようがなかった。

 しかし、後々まで引っかかったのは、その機械のことだ。買うと数百万円はするという代物で、「ラジオニクス」なるものの研究から作られたものだそうな。“有名な大学”にあるというのも気になる。実は文化的な面(歴史、民俗、伝承など)ではオカルトに興味がなくはないので、“理性が備わっている”と感じる相手とは、その後もときどき「波動」やら「ラジオニクス」やらの話題で盛り上がることがある。

 その仲間の一人が、あるとき「ラジオニクスの機械を作ってくれる人がいる」と教えてくれた。聞くと、その人はテレビ番組の構成作家で、テレビ界では重鎮の一人。興味が湧いていろいろ調べた結果自作に至り、「材料費5000円ぐらいで作ってくれるそうです」と言う。

 数百万円が5000円とは面白い。結局その仲間が入手して、見せてくれた。石鹸箱ぐらいの黒いプラスチックの小箱で、表面には昔のラジオのチューニングのようなつまみが付いている。箱は開けられるようになっているので、中を見るとゲルマラジオかそれ以下程度の単純な配線しかない。電源もない。

 配線図があるというので見せてもらったが、これがまた実に奇っ怪。何を意図しているか、まったく分からない配線だ。私が「は?」という顔をしているのを見て、彼はいみじくも言った……。《つづく》

※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。

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About 齋藤訓之 398 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所特任研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →