「遺伝子組換え(GM)技術は日本にとって必要な技術」と、4割の農業経営者が回答――雑誌「農業経営者」が、今年3月にアンケート調査をした結果だ。調査対象者は、同誌購読者を中心とした2004人。43.8%が「必要」「どちらかといえば必要」と答え、48.2%が「必要でない」「どちらかといえば必要でない」と答えた。必要でないとする回答の方が数は多いが、GMに関する否定的な報道が多い中、意外な印象を与える数字かも知れない。
さらに興味深いのは、GM作物の栽培意向だ。「栽培したいと思わない」は48.8%だったのに対し、40.2%が「栽培してみたい」または「条件が整えば栽培してみたい」と回答した。そして、この栽培意向を持つ農業経営者の中には、JAS有機取得農家と特別栽培を行っている農家も含まれているという。
日本の農業は、これまでの「ムラの農家みんなが横並びで幸せに」といった”護送船団方式”の政策から、「うまく経営できる人に伸びてもらう」という”担い手重視”政策の時代へと転換しつつある。となると、理屈から言って、経営を続ける農業経営者1人当たりの耕作面積は増えていく。その”担い手”たちの心中には、「今までの栽培方法でやっていけるのか」という不安、あるいは具体的な危機感が少なからずある。GM作物は、そのブレークスルーの一つでは――そうした考えが、この数字に表れている。
ところで、「条件が整えば栽培してみたい」の「条件」として最も多く回答があったのは、「マーケットの支持が得られれば」(「条件が整えば」と回答したうちの54.4%)だった。
「GMは必要だし、栽培もしてみたいけれど、お客さんがOKしてくれていないんで……」といったところだろう。
では「お客さん」はどう思っているのか?
2004年11月にバイテク情報普及会が行った「『GMO』に関する消費者調査」によれば、「GM食品利用意向あり」の消費者はわずか5.3%で、77.6%はネガティブな回答だった。やはり「お客さんはOKしてくれていない」。
ところが面白いのは、「経済に寄与するGM開発の必要性認識」というもの。「海外における農業貢献状況の情報認識後のGM作物の必要性」では、57.7%が必要なものだと回答しているのだ。
「食べたくないと思っていたけれど、話を聞いてみると大事なものなんだ……」といったところか。
GM作物栽培意向を持つ農業経営者にしてみれば、消費者のそうした理解が一日も早く、少しでも多く広まって欲しいことだろう。彼らは、種苗メーカーなどによる、GMに関する知識の普及活動をもちろん歓迎しているはずだ。
ただ、「日本に必要な技術だから、消費者はGM作物を利用するべきだ」とは言えないことは、忘れてはいけない。「べき」は食べられないし、食べても「べき」にはおいしいと感じる味はないからだ。
これまでに実績を上げているGM作物が持つ特有の性能は、除草剤耐性であったり、病虫害抵抗性など。これは、生産者にとってはダイレクトに価値を感じられるものだが、消費者にとっては価値のあることとして耳に響かない。
これによって価格が抑えられると言われても、今日、価格訴求型の店では集客できないというのは、小売でも外食でも常識だ。価格以外の、ユニークな価値を提供できない店や商品は、支持されないのだ。
「おいしい」「健康によい」「きれいになる」――そうした特徴を訴える商品なら、消費者は「知りたい」と思うし、納得すれば「買いたい」と思う。
あえて言えば、「以前よりも調理作業が簡単になりました」などと宣伝してお客を増やしたレストランなど1店もないし、そんな宣伝をする発想自体、レストラン経営者にはない。事実を隠すことを薦めるのではない。伝えるべきことを伝える情報開示と、魅力を伝える宣伝とは別だということだ。
※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。