1月19日、任意の生産者組織JOHF(Japan Organic Heart Farmers-Food-Family)の生産者会議が開催された。同会は、事務局長でワタミファーム社長の武内智が平成フードサービス副社長時代に目標と価値観の会う生産者と設立したもので、年に一度の生産者会議も今回で10回目となった。会場はワタミ本社で、同社の渡邉美樹社長も出席した。
JOHFは、Organicとある通り本来は有機農業を実践する生産者のための組織だが、この会議に集まるのは必ずしも有機栽培の農家だけではない。今回も、武内社長に共感する、あるいはワタミやワタミファームの戦略に興味を持つ“普通栽培”の生産者や流通関係者なども多数出席した。
今回の目玉は、2005年9月に設立したワタミバイオ耕研が開発した特殊肥料「有機バイオ」の発表だ。これは、鶏糞やワタミの店舗から出る生ゴミなどを水熱反応で処理(高温高圧の水で対象物の加水分解・溶解・酸化などの反応を起こさせる)した資材で、低分子のアミノ酸やオリゴ糖を含むという。
商品の紹介に先立ち、著書「有機栽培の基礎と実際」(農山漁村文化協会)が有機農法実践家の間で話題となっているジャパンバイオファームの小祝政明社長によるセミナーも行われた。小祝氏は、窒素肥料として硫安だけを施用した場合、植物は細胞質を増やしたところでセルロースを作ったり実を肥大させるための炭水化物の不足を来たし、細胞壁が貧弱な軟弱で味の悪い結果になるなどを説明し、アミノ酸を含む有機肥料を用いるメリットを指摘した。
「有機バイオ」は、今後ワタミファームの各農場で用いられるほか、農家への販売も行っていく。これを使って、有機農産物の供給を増やしたい考えだ。
戦後間もない頃に就農した、現在は70歳前後の農家と話していると、初めて化学肥料を本格的に使い始めた時に感動した話がよく出る。実によく効いたと言う。そして、その後に、判で押したように「今はさっぱり効かない」と続く。曰く、「あの頃は、畑の中に有機物がたくさん残っていた。今は、それを使い果たしてしまったのだ」と。
そこで、息子の代ではやみくもに堆肥などの有機物を入れているという農家は多い。ただ、そこでその有機物が土の中でどのような働きをするのか、メカニズムまでは調べていないことが多い。「硫安などの化学肥料と同じように窒素を含む上、腐植となって保水力や保肥力を高めるのでしょう」と説明してくれるぐらいだ。あるいは「微生物のエサになって良い」など。そして微生物が増えるとどうなるかまでは分からないままということが普通だ。
それで、土壌分析をして圃場が含む有効な窒素なり炭水化物なり、そのほかの成分を測り、それに見合った正確な施肥設計を堆肥についても行っているという人にはなかなか出会わない。たいていの人が経験と勘で対処している。試行錯誤は大切なことだが、記録が大雑把なために、作業を標準化するということがなかなか進まないということも多い。
植物と土壌と肥料のメカニズムを明らかにする態度や、それを正確に制御する方法がもっと普及すれば、有機肥料を組み込んだ施肥は、今よりもっと戦略的に考えられるようになるはずだ。有機肥料を扱う企業や農家には、そうした考え方の普及に力を入れることを期待したい。
これまでの有機農業推進派は、まず認証され得る厳格な有機農法の普及ありきで、いわゆる化学物質(化学肥料やほとんどの農薬)を圃場に入れないことを前提に普及活動を行ってきたのではなかったか。しかし、何らかの化学物質を入れるか入れないかの問題はまず棚上げにして、有機物を戦略的に圃場に入れることの意義と方法の普及を先行してはどうか。
アミノ酸を含む有機肥料を的確に用いて細胞壁をしっかりと育てた植物は、病気や虫にも強いという。ならば、その先では自然と「病虫害が減ったから農薬は使わない」という算盤も働くようになるはずだ。ベネフィットを実感することから、新しい方法は普及する。
JOHFの会議に集まった“普通栽培”の農家も、有機栽培農家のその役割に期待しているはずだ。
※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。