3月22日、食の信頼向上をめざす会が「メディアとの情報交換会」を開催。今回は「東北地方太平洋沖地震と風評被害の防止に向けて」と題して、東京工業大学原子炉工学研究所所長の有冨正憲氏と、秋田大学名誉教授で医学博士の滝澤行雄氏の両氏を招いて講演を行った。有冨氏は、原子力工学の立場から、福島第一原子力発電所にかかる事象の推移を説明した。
《有冨正憲氏の講演の骨子》
津波で電源と冷却水を失った
今回の福島第一原子力発電所に起こった事象は、地震によるものではない。想定外の大津波による問題だということを確認しておきたい。
今回の地震では、東北電力の女川原子力発電所の方が震源地に近かった。実際に震度も高く、津波の高さも高かった。しかし、こちらは昔から津波が来る場所ということである程度の対策が出来ていた。
それにくらべて、福島第一原子力発電所の立地は、これまでそれほど大きな津波は来たことがなかった。そこへ想定を超えた大津波が来てしまった。この津波によって、ディーゼル発電機本体やその燃料タンクなど周辺の設備が損傷し、3つの問題が発生した。
まず、外部電源を取り入れる場所、変電所のような設備が津波でやられた。通常、原子力発電所は、自分のところの発電が止まると、まず外部からの電力で安全設備等を駆動するが、そこが被害を受けた。
次いで、そのバックアップであるディーゼル発電機がやられた。通常、必要な電力100%を供給できるものが2台、ないしは150%のものを3台など複数台を備え、1台が動かなくても必ず対応できる形にしている。ところが、その燃料タンクなり燃料を送り込むラインがやられた。
この二つの電源の障害によって、ブラックアウト(すべての電源を失う)ということになってしまった。それでも何時間かはバッテリーで駆動できるわけだが、結果的にすべての電力を失った。
そしてもう一つ、発電所に海水を取り入れるための設備が損傷してしまった。この原子力発電所のすべての冷却系の最終的なヒートシンク(熱を処理する部分)は海水だ。崩壊熱除去系そのものだけでなく、これに要する大型のポンプの冷却、その他の補機冷却系も海水を使っているが、それらの冷却ができなくなった。
以上三つの障害が起きてしまったため、崩壊熱除去系を含む非常用炉心冷却システムが完全に麻痺してしまった。
同様の事象の連続を予測すべきだった
地震発生後の経過では、11日、最初に“何か2号機がおかしい”ということが伝わってきた。そして12日になると“1号機の燃料の一部が露出しているんではないか”ということが伝わってきた。格納容器の中に蒸気が出ていると。そして水素爆発が起こった。
なぜ水素爆発が起こるか。原子炉の燃料はジルコニウム合金で作った鞘に白墨のような直径1cm高さ1cmぐらいの酸化ウランのペレットを詰めて燃料棒としている。なぜジルコニウムを使うかというと、たとえばステンレスでは中性子を吸収してしまうが、ジルコニウムは中性子の吸収がほとんどないからだ。
ところが、ジルコニウムは温度が上がると水ないし水蒸気と反応して酸化する(ジルコニウム水反応)。すると、水分子を構成していた水素が分離する。この水素が原子炉建屋の中にたまった。
格納容器内は窒素雰囲気(物体を取り巻く気体)になっているが、建屋上部の人が活動するエリアには当然酸素がある。そこへ、どういう形にせよ水素が漏れてたまれば、何かで火花があれば爆発する。それで天井が吹き飛んでしまった。
このとき、すぐに気付かなければならないことがたくさんあった。まず、2号機、3号機にも同じようなことが起こると考えて、すぐに対処するべきだった。ところが、それが後手後手に回った。
原子炉の中がもし冷却できなかった場合にどうなるか。圧力容器内の圧力がどんどん上がっていき、中に水を注入できなくなる。すると、空だき状態になってしまう。そこで、圧力容器内の蒸気を格納容器の中に出して、圧力容器と格納容器の中を等圧状態にする。そしてサプレッション・チェンバーで凝縮できるものは凝縮し、できない分は大気中に放出する。
これが原子力発電所のアクシデント・マネジメントというものだが、これをするには放射性物質を含んでいる可能性のある蒸気を外へ逃がさなければならない。東京電力は、最初そのことに大きな抵抗があったのではないか。結局、この格納容器は8気圧ぐらいまで持つのだが、ぎりぎりまで蒸気の放出をしなかった。
このとき、圧力容器内では燃料が露出していた可能性がある。すると、温度が上がってしまう。500℃ぐらいまではジルコニウム水反応は起こらないが、これを超えると水素がどんどん発生してくる可能性がある。
結局、1日おいてその次の日の14日、3号機で水素爆発が起きた。これは1号機と全く同じ状態で起こったわけだが、3号機は出力が高いために爆発の程度が大きかった。
その後、1号機のほうは20日に外部電源が入って今は小康状態にあるが、3号機はときどき白煙が出ている。なぜ白煙が出ているのかはわからない。
この3号機の使用済燃料貯蔵プールに、17日~20日にかけて放水を行った。まずヘリコプターで放水した。しかし、ヘリコプターが近づけないため、全部が入らない。それから放水車で放水した。
消防車の放水が奏功していくぶん収まったかのように見えたが、昨日は灰色の煙が上がった。その理由は私もまだつかめていない。
1号機~4号機は予断を許さない
もっとすぐに気が付けばよかったのは4号機だ。4号機は定期点検をしている最中だったが、炉内構造物(シュラウド)を交換するために燃料を全部外に取り出していたところだった。1号機、2号機、3号機は、1/3とか1/4の燃料を取り出して新しい燃料に交換していたが、4号機の場合は全部だった。取り出してから3~4カ月時間は経っていたが、これへの対処を行うべきだった。
使用済燃料貯蔵プールの状況だが、4号機の発熱量は10倍ぐらいある。また、あまり話題になっていないが、3号機の山側に供用プールというものがある。ここには、平均15年冷却した燃料がある。
この中間貯蔵施設というのは、金属キャストの中に燃料を詰めて、ヘリウム雰囲気にして容器の外側から冷やす構造になっている。したがって、もしこの供用プールが裸になったとしても、周りの空気の対流だけで除熱できる可能性はある。しかし、人が近づけるうちになるべく供用プールに水を注入できるようにするのがよく、注水のためのホースを設置することを提案している。
これら1号機、2号機、3号機、4号機は予断を許さない状況だ。
3号機も、もっと早く圧力を下げて海水を注入していけばよかったはずだ。そうすれば、水素爆発には至らずに済んだ。
さらに15日、2号機で爆発が起きた。このとき、サプレッション・チェンバーの部分が壊れたと言われているが、それにしては格納容器の圧力がその後また上がってきたと言われており、また、爆発時の大幅な放射能の増加はない。だから、本当に壊れているかどうかはわからない。
また、これが起きたと言われているとき、4号機でも使用済燃料貯蔵プールが発火をともなって爆発している。
今は1号機、2号機には外部電源を引きこんでいる。そして1号機、2号機はそれぞれ中央制御室で原子炉がどうなっているかを監視できるようにしている。
3号機、4号機も、外部電源がそばまで来ているので、これも中央制御室を復帰しようとしている。これらは、漏電がないかをチェックしながら、一つひとつ手直ししていくということになるはずだ。
5号機、6号機は定期点検中だったので、崩壊熱は非常に低い状態だった。これらは1号機から4号機までの原子炉とは少し離れている。そして幸い6号機のディーゼルエンジンは生きていた。これを復帰して、5号機と6号機に水を注入して、今オーバーフローさせている。
さらに、6号機はもう1機のディーゼルエンジンも動くようになった。これらはそれぞれ100%の電力をまかなえるものだと思う。それで、炉心とプールと両方を冷却できるようになった。
さらに、5号機は外部から高圧電線を引っ張って、炉心とプールの冷却ができるようになった。このため、5号機と6号機では、これ以上事象の進展はないと見ている。
いつまでも海水は使えない
今後の対策について。まず、圧力容器の中に海水を注入することは、緊急避難としてやむを得ないと思う。ただし、この措置はあくまでも緊急的なものだ。
問題となることとして、徐々に炉内に食塩が堆積していくということがある。1号機でおそらく毎時10t程度の水の蒸発量があり、海水の中には食塩が3%含まれているので、毎時300kgの食塩が蓄積していく計算になる。これによって腐食の問題と、冷却能力を低下するという問題が生じる。
これを回避するために、一刻も早く注入する水を海水から真水に切り替えるべきだと主張している。しかし、これがなかなか聞き入れられなかった。
その後、防衛省から必要ならば真水を運ぶ船を出すという話が出て、どのぐらいの船が必要かの問い合わせがあった。それを官邸から東京電力に言ってもらったことで、ようやく東京電力も真水を検討し始めている。
たとえば電源開発で1日に1000tぐらい海水を真水にするプラントを持っているという。それを分解して運び、現地で組み立てるのは1週間ぐらいだろうという。そうした検討も始まっている。
また、健全である5号機と6号機と共有プールに真水を注入してはどうかとも主張しており、これもようやく実行に移る。
福島第一原子力発電所の上のほうにダムがあり、ここからろ過水タンクへというラインがつながっている。ろ過水タンクの水は工業用水なので、フィルター、イオン交換樹脂などを通して復水貯蔵タンクに入れて、原子炉の中に純水として供給する。そのラインをチェックしてほしいと要望して、チェックが始まった。損傷があれば早急に修復してもらう。
線量、線量率を押さえる
線量率は東京工業大学原子炉工学研究所でも毎日計測している。この計測では、3月15日の10時頃から2時間程度、線量が増加した。その後低下し、20日までの計測では平常値0.05μSv/hの1.4~1.8倍程度で推移している。
なお、報道等で単位の理解に誤りが見受けられる。レントゲンによる被曝は1回の照射量をμSv(マイクロ・シーベルト)で表す。これに対して、現在の線量は毎時に浴びる量をμSv/hで表す(線量率)。前者が1回に浴びる量であるのに対し、後者は1時間その位置にいて浴びる量である。つまり、μSvとμSv/hは全く別のものを表している。
どの程度危険なものかを理解するために、平時の線量率を例を挙げる。高度1万mを飛ぶ飛行機がさらされる宇宙線は、5μSv/h。2000m級の山では0.1μSv、海の上は少なくて0.05μSvとなっている。
また、普通の生活をしている人は、1年間にだいたい2.4mSvぐらいの放射線を浴びている。原子力発電所では、この自然の被曝量+0.05mSvを境界線量としている。ニューヨーク―東京間の往復の航空機旅行では、0.2mSvを浴びる。
放射線は意外に身近な存在で、たとえば温泉の多くは放射線を発しており、これが効能につながっている。また、食べ物の中にはカリウム-40といった核種が含まれ、私たちはこういうものを体の中に持っている。放射線と言っても、そんなに怖いものと恐れる必要はない。
※記事は当日の発表を記者がまとめたもので、文責はFoodWatchJapan編集部にあります。東北関東大震災による影響、とくに福島第一原子力発電所に関する事態は刻々と変化しており、この記事の内容と異なる事柄も起こり得ます。最新の情報に注意してください。