3月18日の日本学術会議緊急集会「今、われわれができることは何か?」では2名の科学者が話題提供を行った。このうち宮川清氏(東京大学大学院放射線分子医学教授。医学博士は、放射線被曝による医学的な影響について解説し、行政と科学者が今後取るべき行動について提案を行った。
《宮川清氏による話題提供の骨子》
100mSvでガンのリスクは0.5%高まるが
放射線被曝の人体への影響について言及する際、報道等でも100mSv(ミリシーベルト)というのが一つの指標として用いられている。
この100mSvの被曝では、直ちに健康に影響を及ぼすことはない。直ちにというのは急性影響というもので、被曝直後から数週間あるいは数カ月の間に現れる症状を言う。
急性影響は少ない一方、被曝した量に応じて数年後から数十年後にガンになる危険性は高まるが、100mSvの被曝量が高めるリスクは0.5%程度だ。
この0.5%をどう解釈するかだが、今日本人が生涯にガンに罹患するリスクは40~50%になっている。その中で0.5%程度増加させるということなので、喫煙や食事などの生活習慣など他の原因によるガンの発症のほうが圧倒的に問題になる。そのため、100mSvでは過度に心配しないようにという説明がされている。
また、今のところ一般住民でこのような線量で被曝することは考えられない。
放射線災害のガンは完治を目指せ
このように、個体レベルで考えれば、100mSvの被曝の影響は大きくはない。しかし、医学の危機管理という点から言えば、この値で集団に対してどの程度の影響が出るかを検討する必要がある。
たとえば放射性ヨウ素では甲状腺ガンに結びつくことが知られている。発症の時期は、100mSvの被曝では早くて数年、通常は10~20年、遅ければ30年以上経過して、初めて甲状腺ガン発症例が現れる。
もし最悪の事態として放射性セシウムの汚染による被曝が起こると、消化器系、呼吸器系、造血系のガン等、いろいろなガンについて検討しなければならないことになる。
さらに、万一集団の中に一定レベルを超える被爆者が大規模に出た場合には、パーセンテージとしては少なくても、ある程度の絶対数が出ることになり、ガンに対する対策をより真剣に考えていく必要が出て来る。
ガン治療には、完治を目指すか、発見が遅れて完治は目指せないが延命を目指すかという2通りがある。放射線災害で起きるガンについては、最初から完治を目指す対応でなければならない。すなわち、早期発見と最適な治療法の選択が必要だ。
それに的確に対応するための学問的なアプローチが、今後数年をかけて実用化できるようにすることが重要になる。これには臨床医学のみならず、周辺の学問領域を結集しなければならない。
おそらく現在の生命科学、あるいはその周辺の科学の研究の進捗状況を見ると、実現できるはずだ。
1Gyまでの被曝は救命可能
では、100mSv以上の被曝ではどのようなことになるか。これは主に現場での作業に従事する人たちの問題になるが、今後の事態の進展によってはこのレベルの被爆者が増える可能性もあり、予断を許さない状況だ。
基本的には、作業中に放射線のモニターをし続け、大きな線量の被曝を避けるが、突発的な事象にも必ず注意すべきだ。
大きな線量では、造血系に影響を受けて白血球が減るといった急性の影響が問題となる。しかし、数百mSv以上、物質の吸収線量では1Gy(グレイ)までの線量では、医療的な対応で100%救命可能で、命にかかわるようなことにはならないということになっている。
だが、2Gy~4Gyになると命にかかわる状態になってくることが、過去の事例から知られている。すでに東海村の臨界事故で10Gyレベルの高線量の被曝で2名の方が亡くなっている。このレベルでは必ず適切に対応し、間違ったことをしてはならないということだ。
これらの影響のほかに、遺伝性の影響にも関心が持たれている。ただ、原爆被爆者の二世を対象とした調査では、今のところ遺伝的な影響は観察されていない。しかし、動物実験の結果などについては議論の分かれるところだ。
このような遺伝性の影響を含め、実は被曝の影響はよくわからないこともあり、いろいろな研究が行われている。
※記事は当日の発表を記者がまとめたもので、文責はFoodWatchJapan編集部にある。東北関東大震災による影響、とくに福島第一原子力発電所に関する事態は刻々と変化しており、この記事の内容と異なる事柄も起こり得ます。最新の情報に注意してください。
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