植物の3大栄養素の一つであり、人間にとっても必須の栄養素であるカリウム。これに含まれる放射性カリウムをどう考えるか。以下は、以前筆者のブログに書いたものを一部修正したものだ。Bq、Sv等の単位は前回末尾の註を参照されたい。
ヒトの体内の放射性カリウム
放射性カリウムは人工的に作られることはほとんどない。地球が生まれたころから存在しているもので、半減期は12.8億年。普段の生活で最も内部被曝が多いのが、この放射性カリウム40による内部被曝である。
1gのカリウムに含まれる放射能強度は30.4Bq程度。体重60kgの大人は、0.2%およそ120gのカリウムを含んでおり、これから計算してみると3600Bq/秒以上の放射線を体内の放射性カリウムが放出していることになる。
カリウムはヒトにとって必須の元素であり、「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省、2010年版)でも男性で2.5g/日、女性で2.0g/日を摂取の目安量としている。
これに、カリウム1g当たり30Bqの放射線量に当てはめると、厚労省が推奨する食生活を送っている人は、放射性カリウム由来だけで男性75Bq、女性60Bq程度の放射線を放出する物質を毎日摂っているということになる。
さらに、主な食品に含まれるカリウム含量から計算したカリウムの放射線量を示してみる。
食品 | カリウム含量mg/1kg | ベクレル(Bq/kg) |
---|---|---|
フライドポテト | 6000 | 180 |
サツマイモ(塊根・蒸し) | 4900 | 147 |
ほうれん草(葉・ゆで) | 4900 | 147 |
ジャガイモ(塊茎・生) | 4100 | 123 |
ニンジン(根・皮むき・ゆで) | 2400 | 72 |
トマト(果実・生) | 2100 | 63 |
レタス(結球・生) | 2000 | 60 |
そば(生) | 1600 | 48 |
ブドウ(生) | 1300 | 39 |
リンゴ(生) | 1100 | 33 |
米(水稲めし・精白米) | 290 | 8.7 |
このように、ごく一般的な食品にもカリウムがあるために、放射性物質であるカリウム40も含まれていて、体に取り込まれていることになる。
以上から押さえておきたいのは、原子力発電所事故等とは無関係に、人は普段から放射性物質を食品から摂っていること、そしてある一定量を体内に蓄えているということだ。したがって、放射性物質と言えども不必要に恐れる必要はないと考えられる。
しかもカリウムは、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リンなどと並び、栄養学で多量ミネラルとされるもので、とくに摂取量と体内に存在する量の多いものだ。逆に、これら以外のミネラルは、摂取し、体内にとどまる量はさらに低いと言える。もちろん、カリウム40よりも半減期の短いものであれば、さらに影響は小さくなる。
基準値上限の放射性セシウムを摂った場合
さて、Bq(ベクレル)で表される値は放射性物質が放射線を出す能力だが、実際に生体に与える影響の大きさは別な値で見なければならない。これは線量当量と言って、単位はSv(シーベルト)だ。また、線量当量には、局所臓器を対象とする等価線量と、全身を対象とする実効線量とがある。
「放射能ミニ知識」(原子力資料情報室)によると、カリウム40による内部被曝は、「生殖腺や他の柔組織に対する年間線量は0.18mSv、骨に対しては0.14mSv」(※)ということである。
では、長期的に問題になると考えられるセシウム137の内部被曝についてはどうだろうか。2012年4月以降は「新たな基準値」(以下新基準値)として、一般食品の放射性セシウムは100Bq/kgが定められたが、その前にあった「暫定規制値」で野菜類、穀類、肉・卵・魚・その他について定められた500Bq/kgで計算してみる。
セシウム137を暫定基準値上限の500Bq/kg含む野菜を、毎日100g、200日間摂取した場合。
セシウム137の実効線量係数(成人、経口摂取):0.013(μSv/Bq)
500(Bq/kg)×0.013(μSv/Bq)×0.1(kg)×200(日)=130μSv
毎日100g、200日間食べた場合が130μSv=0.13mSvとなり、普段から受けているカリウム40による内部被曝と同程度ということになる。ちなみに、同じ量で365日では、約240μSv=0.24mSvだ。
もちろん、カリウム40などもともとある内部被曝量に加算されるわけだから、小さくても問題だと考えることはできる。この計算をもって安全だとは言わないが、現行基準値よりも緩い暫定基準値でも、意外と少ないものなのだなというのが筆者の感想だ。現行基準であれば、毎日上限ギリギリの農産物を食べ続けても1/5にしかならない。
※参考文献
「放射能ミニ知識」カリウム-40(原子力資料情報室)