土壌が褐色低地土や灰色低地土で排水性がよさそうであっても、それだけで畑作物がうまく作れるわけではない。暗渠、明渠、畝立てといった排水対策ができていることがポイントだ。ただし、グライ土、黒泥土、泥炭土の水田では、排水対策を行っても畑作物を作るための効果としては限界がある。
褐色低地土・灰色低地土であること
水田転作で穫れた野菜などの作物を、圃場の土壌から判定しようというお話の続きです。
野菜などの作物が穫れた実際の圃場が特定できたとしましょう。そこで、土壌図を調べ、その、もと水田であった圃場が、水田土壌図の分類で、褐色低地土または灰色低地土なのか、そうでないのかがまずキーになります。
水田転作は、主に冬の渇水期に行われるものです。水田は、冬の渇水期に地下水が最も低い位置に下がります。その意味では秋のイネ収穫完了から春先の季節までが利用されることになり、この間が勝負となるわけです。
ただし、その地下水の下がり方が、それぞれ場所によって違うのです。
そこで、まず条件のよい水田は褐色低地土のあるところです。これは第65回でお話したように、日本全体の水田の5%程度です。次に条件のよいのは灰色低地土ということも、前々回お話しました。
しかし、重要なポイントはまだあります。水田で野菜作りを行うには、さらに打つべき手があります。それが現場でできているかどうかを調べると、産地や生産者の実力がわかるのです。
暗渠が敷設されていること
重要なポイントとは、水田が不適地ではない、つまり褐色低地土あるいは灰色低地土に属するようなとこであって、なおかつ、そこに排水対策を入念に行っていることが認められることです。
いくら水田土壌の分類上は転作可能なところでも、所詮は水田です。このことが大事です。水田はやはり周りの水が集まる場所に作った圃場ですから、雨が降った場合の対策が重要なのです。
では何を見るか。まず暗渠排水です。農業で言う暗渠とは、水田の地下に作る小さな排水トンネルと言えばわかりやすいでしょう。
これは農家以外はほとんど知らないことだと思いますが、実は日本の水田にはほとんどといってよいくらい暗渠が設備されています。10m間隔で深さ0.8mあたりに排水のトンネルが造られているのです。
トンネルは掘っただけではつぶれてしまいますから、素焼きの土管や樹脂の網状のパイプのようなものを埋めます。これらはいずれの場合も、水田の端から端にわたって埋められています。
この事業によって、それまでは米しか作れなかった水田に、ムギ、ダイズ、野菜などが作れるようになったのです。もちろん、減反政策はこのような工事による水田の畑地化にも多くのお金をつぎ込みました。
排水が悪い圃場では湿害が起こる
次は、暗渠ではなく明渠排水です。これは簡単で、水田の周囲に排水溝を機械で掘ったものです。
よく、水田を畑のようにするには畝立てをすると効果が高いと言います。しかし、これは当然ではありますが、暗渠と明渠の排水があって初めて畝立てが効果を上げるのです。
こうした排水の工夫をすることで、水田でもイネ以外の作物が栽培できるようになるのですが、これがおろそかであると、障害が起こります。そうした過剰な土壌水分によって起こる作物の障害を“湿害”と呼び、農家が最も恐れているものです。通常、湿害とは、水が多いことによる根の窒息ということになります。
この湿害の対策が重要ですが、その対策の限界があるタイプの水田の種類が、第66回で説明した、グライ土、黒泥土、泥炭土の3種類になります。
これらの場合、排水対策によってある程度改善はされるのですが、野菜などが作れるほどには排水はよくならないものです。
その場合、たとえ栽培を始めても根が湿害を受けることから、根の活性が弱く、土や肥料から十分な栄養を取ることができず、結果うま味に欠ける作物が出来ることになります。
バイヤーがこうしたことに関心を持つと、うまい野菜を手に入れられるようになるだけでなく、自ずと米のうまい場所を探すことにもつながります。