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農業生産を行う現場を7つに分類し、それぞれについて、土のあり方と栽培の実際について説明している。水田のメカニズムの2回目。水田の効果は窒素を操ることができるだけでなく、リン酸も有効態となる。
土用干しの狙い
さて、田植え後のイネの苗は、春の田起こしで出てきた窒素を吸収して順調に初期生育を遂げ、茎の数を増やしていきます(分けつ)。
そして、分けつが一定以上に進んだころに、今度は水を抜いてしまい、一時的に畑のようにしてしまいます(土用干し)。
これは何が目的でしょう。
狙う効果はいろいろありますが、その最も重要なポイントは、土の中の有機物の分解を再び促進して窒素を出すことにありました。イネはこの先穂をはらむためにさらに栄養が必要な段階に入りますから、ここで肥料が必要になるのです。現在では穂肥えと称して施肥しますが、昔肥料のなかった時代、高価だった時代には、こうした工夫が有効だったわけです。
現在でも土用干しは行い、さらに施肥も行うことは奨励されてはいますが、かなり何もしなくてよい「元肥一発タイプ」というコースで楽をするやり方も一般的です。
還元層が有効態リン酸を作る
水田が「人工の土」と言える場面はまだあります。それはリン酸を効かせる技です。
これまで日本の土はリン酸が効きにくいことが特徴、とくに火山灰土壌はそうであると説明してきました(第20回参照)。しかし、水田ではこの欠点を見事に補うことができるのです。
どういうことかと言うと、水田がきちんと均平化されていてそこに水が張られると、土壌中の鉄が錆色の酸化鉄(酸化鉄(III)/Fe2O3/酸化第二鉄)から還元鉄(酸化鉄(II)/FeO/酸化第一鉄)に変化します。還元層が灰色になるのはこのためです。
この現象は、リン酸の有効化に働くのです。第20回で説明したように、鉄と結び付いたリン酸は、その状態では作物が利用できないのですが、鉄が還元されると、リン酸がここから遊離し、イネの根からうまく吸収されるのです。
このため、水田作のイネにはあまりリン酸を施用しなくても育ってしまうのです。
土を生かす優れた栽培法
こうした水田のメカニズムは南の方から日本列島に伝えられたのでしょう。そして、この方法が有効であったために、歴史的にも南から北へかなり早いスピードで稲作が普及していったのだと考えられます。
次回は、水田として使っていた圃場を水稲以外に使う場合の考え方についてお話します。