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農業生産を行う現場を7つに分類し、それぞれについて、土のあり方と栽培の実際について説明している。点滴灌漑という大発明の要点から、ハウスで覆った圃場での栽培の要諦を改めて押さえる。
百害あって一利なしの散水
ハウスでの地床栽培で行われがちな誤りには、もう一つ、灌水感覚の誤りというものがあります。つまり、散水タイプの灌水が正しい灌水であると信じていることです。
散水タイプの灌水とは、わかりやすく言えばシャワー式です。これは乾燥した土や作物には持ってこいのやり方のように思いますが、実はそうではないのです。
雨のように水を降らせれば、作土中の空隙に水が満ちている状態よりも多くの水を与えることになります。すると、余った水は地下へ落ちていきます。これは水の無駄というだけでなく、土壌が保持していた成分を流すことにもなります。もちろん、水浸しのようになれば、根が呼吸困難を起こす湿害の原因にもなります。また、茎葉に付いた水分はカビなどの病害の原因にもなります。
この水かけのテクニックで最も苦労している歴史を持っている生産地の一つは、静岡温室メロン産地です。静岡では「水かけ3年」と称して、なかなか簡単には覚えられない“匠のワザ”とされ、新人には壁を感じさせることです。つまり、それだけ無理のある灌水方法ということです。
灌水ではもっと苦労した民族がいます。世界の砂漠の民です。もともと水が少ない上、シャワー式では大量の水を使い、障害の元にもなってしまうのですから。
ムダのない点滴灌漑
ところが、そんな乾燥地にありながら、ヨーロッパに農産物を輸出する農業国というものが現れました。イスラエルです。
この革命をもたらしたものが、点滴灌水チューブの発明です。これは偉大な発明です。
点滴灌水は、点滴チューブのところどころに小さな孔を設け、そこから水漏れでも起こしているようにポタポタと水を滴らせる仕組みです。この滴る速度を、土壌が吸い込む速度に同期させます。
機構は簡単なようですが、小さな孔はすぐに目詰まりを起こします。ところが、チューブの内側の各孔の手前に目詰まりの原因となるチリを捕まえるトラップを埋め込む技術が開発され、実用化されたものです。
これならば、地下に流れて利用できない水はないので水を有効利用できます。肥料成分の流亡も抑え、根の呼吸も阻害せず、もちろん茎葉に水をかけることはありませんから、作物の地上部は乾いた状態を保てます。
点滴灌漑は過剰の害を防止する
しかし点滴灌漑の真骨頂は、ここからです。点滴灌漑チューブに流す水をただの水ではなく、適正に配合した薄い液肥を含む水にするのです。こうすると、最低限の水量で最大の灌水効果を示し、さらに肥料も作物に無駄なく吸収されることができます。そのため、収穫後の土壌には余分な肥料成分を残しません。これが偉大だというのはこの点です。
点滴灌漑は、やはり敷設にコストもかかるため、日本では今のところ砂漠地帯のようには普及していません。しかし、これが単に灌漑のためではなく、施肥管理のための施設と理解すれば、メリットを感じる国内農家も増えていくでしょう。
今のところ点滴灌漑を導入する気はないという人も、この施設のメリットから、ハウスの地床栽培がどうあるべきかを考える要点を得ることができます。つまり、固形肥料(化成肥料や有機配合肥料)と散水式の灌水方式の組み合わせでは、そこの土壌中に余分な肥料が蓄積してしまうということ。そのことがまず過剰による害を起こします。これに加えて、耕うんが浅く、連作もするということであれば、土壌病害は増えるということです。