土の正体をつかむ説明を続けます。前回は土は4つの要素の混合物だということを指摘しました。すなわち、造岩鉱物、生物、腐植、粘土鉱物の4つです。この中で、粘土鉱物と腐植は作物を育てる上でとくに重要なものです。今回は、粘土鉱物がどういうものであるかと、3種類の粘土鉱物の特徴について説明します。
粘土鉱物の組成と構造で土壌の性質が変わる
粘土鉱物とは、岩石が風化してその成分がバラバラになり、それに水、温度変化、生物などが作用して、それまでの岩石に含まれる鉱物とは全く異なる配列の結晶が生成されたものだと説明しました。
粘土鉱物は、水を含むと膨らんでベトベトする手触りです。またある一定の水分を与えたときには、手でこねると形を自由に作ることができることや、粘ることなどは、昔泥んこ遊びをしたみなさんはよく知っていることです。
粘土鉱物のこうした性質は、その粒子の細かさと関係があります。粘土鉱物は土に含まれるものの中でも粒子がとても小さいもので、一粒の大きさは0.002mm以下です。同じ体積でも大きなものが少しあるよりは小さなものがたくさんある方が表面積は大きくなりますから、土の中の粘土鉱物はたいへん大きな表面積を持つものということになります。
そして粘土鉱物の一粒一粒は、均質なもののひとかたまりではなく、面白い結晶構造を持つものだとわかっています。この大きさと形によって、粘土鉱物は独特の特徴を備え、農業にたいへん大きな影響を与えます。
代表的な粘土鉱物は、実は板状のアルミニウムとケイ酸が重なった形をしていますが、そうでないものもあります。そのアルミニウムとケイ酸の比率と結晶の構造によって、粘土鉱物はいくつかの種類に分けられます。ここでは農業にとって重要な3種類の粘土鉱物を紹介します。
1:1型=カオリナイト族
まず、アルミニウムとケイ酸が1:1の割合で最も単純な構造を作っているタイプがあります。これは1:1型と言い、別名カオリナイト族、カオリンと称します。これはこの種の粘土鉱物を多く産出した中国河北省の高嶺(カオリン)に由来します。
カオリナイト族は、熱帯の赤い土など岩石の風化が強く進んだような土壌に生成されているものです。陶磁器の材料に使われるほか、さまざまな工業でも利用されている有用な鉱物です。
ところが、農業生産力の観点でのカオリンの評価はというとそれほど芳しくありません。肥料成分を吸着する能力は粘土鉱物の中で最も低く、カオリナイト族が粘土鉱物の主体となっているような土壌は生産力が低い土ということになります。このような土では、有機物をある程度施してカオリナイト族の弱点を補うことが求められます。
実は、日本の土に含まれる粘土鉱物は、火山灰土以外はほとんどこのカオリナイト族です。そうなった原因は、日本列島の気象が関係しています。この連載の第1回で、日本列島は温帯に属しながら、降水量は年間2,000mmと熱帯雨林にも匹敵すると指摘しました。この量の降水があると、岩石の風化の過程で、ケイ酸分がどんどん流れてしまうことになるのです。一方、アルミニウムはあまり溶け出して流れることがありません。
2:1型=モンモリロナイト族
これに対して、アルミニウムが1でケイ酸が2の割合でできている2:1型というタイプの粘土鉱物があります。この種の粘土鉱物はモンモリロナイト族とも称されます。これはフランスのモンモリヨン地方(montmorillon)で発見されたことに由来します。
2:1型は、カオリナイト族にくらべて農業生産力がはるかに高い粘土鉱物です。たとえば、ロシアのウクライナを中心とする黒土(チェルノーゼム)地帯、米国中央部のプレーリー、アルゼンチン中部のパンパといった「世界的の穀倉」と呼ばれるような地域があります。これら作物がよく育つ地域の土壌に含まれている粘土鉱物は、この2:1型、モンモリロナイト族です。
日本でも一部にモンモリロナイト族は見られますが、希です。
アロフェン
粘土鉱物にはもう一つ、アロフェンというものがあります。これは火山灰土に含まれるものですが、カオリナイト族やモンモリロナイト族に見られるようなしっかりとした結晶構造を持っていません(非晶質)。
アロフェンを多く含む土壌は、肥料成分を吸着する量は多いのですが、吸着する力が弱いという特徴があります。とくに、アンモニアとカリの吸着が苦手です。
粘土鉱物には、以上3種類があるということを知っていると、今後説明する農産物の味と土の関係がだんだんわかってくるはずです。