(7)前向きの危機感
閉塞感に満ちているからこそ、今は何事につけ前向きに取り組むべきだ。しかし、会社の規模を問わず企業の正規社員である人々を見ていると、「そんな社会と私は関係ない」と考えているように見えることが多い。変化せず、むしろ変化を求めない人の方が多数であるように感じるのである。
そういう人でも、いろいろな情報を取り、よく学んでいるのである。学びにかけては、零細企業とくに凋落の過程にある産業に携わっている経営者よりもはるかによく学んでいるとの実感を、講演やコンサルティングに携わる中で感じる。しかし、学んだことが必ずしも、現在の日本に対する危機感なり、前向きの変化の必要性を自覚させることには結びついていないようにも感じる。
顧問先に変化を起こせないのはコンサルタントにも責任があるかもしれない。しかし、コンサルタントは顧問先企業に直接入り込んで実権を振るうことはできない。変革は、どうしても内部の人間によらなければならない。「船が沈みつつあります」と話しても、「舳先が大嵐に向かっています」と話しても、相手が「いえ、大丈夫です」と言ってしまえば、そこまでである。
変化せず、むしろ変化を求めない人は、とくに中堅幹部によく見られる。名付けて「ブラックホールミドル」で、彼らは組織内でネガティブなリーダーシップを発揮している。
企業で中堅幹部となると、組織上の一定の権限も与えられているだけでなく、社内・社外に一定の“自分の実権の及ぶ城”が出来てくる。さらに、この城を強固なものにするべく、彼らは“自分の実権を取り囲む壁”も作り始める。それがすべて悪いこととは限らず、その城壁を使い、自分のやりたいやり方で組織全体の変革に貢献する人もいる。
ところが、今の日本企業で中堅幹部がさらに上級の経営者クラスに昇級・昇進できるチャンスは多くはない。その結果、多くの中堅幹部は、職歴が長く、専門知識も持ち、権限もある者として、自身が組織内に構築してきた城そのものに安住の地を見出すようになる。この城は他者からは簡単には中をうかがい知ることができない。しかも、ヒト・モノ・カネを吸い寄せる引力を持っている。それがブラックホールミドルというわけである。
ブラックホールミドルは、企業組織内の代表的な守旧派となり、企業の“明日のための変革”の障害となる。
この対策は、経営者が取り組むほかない。経営者の采配によって、企業組織全体を常に変化のある状態にし、変化があることを当たり前のこととして受容する、変化に対する抵抗感が発生する暇のない組織にすることが有効だ。変革に対する抵抗感は、変化がたまにしか起きないから生まれるのである。そうではなく、「変わることが当たり前」という組織の風土を作り上げるのだ。
変革は理論だけからは生まれない。実践を通じてこそ初めてもたらされる。変化を語り、実際に変化をさせ続けることが大切だ。
(8)「つもり」が積もって何も積もらず
また、世間には「つもりマーケティング」「つもり経営」というものがある。これは、以下を行うマーケティングと経営である。
●「つもりマーケティング」「つもり経営」とは
考えたつもり
言ったつもり
伝えたつもり
相手がわかったつもり
相手にやらせたつもり
やったつもり
どれもひどいものだが、とくにひどい「やったつもり」は、実践者が多い。これは、自分がやったのではなく、ひとに「やれ」と命じたことでやった気になっているというものだ。「やれ」と言えば相手がやるだろうと信じ、本当にやったかどうか検証することもない。したがって、PDCAサイクルも回らない。
こんなことをしていては、「つもり」が積もるばかりで、会社には何の蓄積もできない。何の結果も出せず、何の変革も起こせず、結局は破綻するのである。
これを読んで笑う人も多いかもしれないが、せっかくなので自問してみてほしい。今日考えたことは、何を考えたのか。今日ひとに言ったこと、伝えたことは、確かに伝わったか、理解されたか、相手は行動したのか、それを確かめてみたか。
つもりで終わって検証していないのは、どうしてもそうしたいという気持ちがないからである。型通りに立案し、型通りに人に指示すれば給料はもらえるという理解をしている限り、人は「つもりマーケティング」「つもり経営」に走る。
しかし、指示した相手、すなわち人というものは、何度言っても言い足りないほど、わかっていないものであるし、やらないものである。だから、何度でも言う、何度でも確かめる。これが、本当に会社を動かす人の習慣である。
そこまで強く思い、行動するのは、やりたいこと、達成したいことが「いつか」ではなく、明確に「いつ」と意識しているからこそなのである。
だから、私もあなたに対して何度でも言う――someday」「いつか」という日は来ない。変化は、今日、あなたが起こさなければならない。今日、変化を起こしましたか?