(4)自らが変革機関に
P. F. ドラッカーは「経営における変化の必要性」に付いて2つのことを端的に言っている。
一つはこのようだ。
To survive and succeed, every organization will have to turn itself into a change agent. The most effective way to manage change successfully is to create it.
組織が生き残りかつ成功するには、自らがチェンジエージェントすなわち変革機関とならなければならない。変化をマネジメントする最善の方法が、自ら変化をつくりだすことである。
(P. F. ドラッカー「ネクスト・ソサエティ――歴史が見たことのない未来がはじまる」)
組織の永続と成功には、変化・変革が必要だということが前提になっていることに注意していただきたい。その上で、変化すべき組織自体がそれを起こせと言っているのである。
変化には3種類がある。すなわち、以下だ。
・外部要因で受動的に変化に引きずり込まれる場合。
・自らの内部の要因で、自らの状態を変化させる場合。これには、意識的に起こすものと、無意識的に起きるものとがある。
・内部の変化が外部の変化に連動して起こされる場合。
いずれにしろ、企業として生き延びてゆくために変化が必要なら、その企業自体が変化をコントロールすることが重要である。ドラッカーはそう言っているのである。
我が国は、これまで何度か、社会・経済・政治に関する変化を起こす必要があることを、アメリカを中心とする国際社会から突き付けられてきた。多くの規制改革はそのようなことから行われた。そうした国際社会からの要求を、日本人は「外圧」と表現してきた。これは外を悪く言っているように聞こえるが、自分で変化できなかったことを認める言葉だから、半面自虐的でもある。
しかし、昨今の状況を見ると、今もこの国は残念ながら自発的には本質的な変化が行えない国のようだ。個々の企業を見れば、多少は「自発的な変化を実践している」と見える企業もなくはないが、たとえば国民が命を預けてきた東京電力や諸官庁を見れば、国難とも言える事態を招きながらも彼らの大きな変化を実感することはできない。
ホログラフィー発明者でノーベル物理学賞受賞者のガーボル・デーネシュというハンガリー系イギリス人の物理学者があった。この人の著書に次の言葉がある。
The future cannot be predicted, but futures can be invented.
(Gábor Dénes「Inventing the Future」)
つまり、「未来は予測できない。しかし、未来は創り出すことができる」ということだ。
そして、ドラッカーは言う。
The purpose of the work on making the future is not to decide what should be done tomorrow, but what should be done today to have a tomorrow.
最大の問題は、明日何をなすべきかではない。不確実な明日のために今日何をなすべきかである。
(P. F. ドラッカー「マネジメント」)
変化は、いつも音を立てて、予告をしながら襲って来るのではない。だから、明日、世界が変化してからでは遅すぎる。
リーマンショックは“金融工学”という人間が作り上げた複雑・巧妙なシステムを長年にわたって過信し、その恩恵を享受したつもりで浮かれていた間に、実のところ、かなり以前から音もなく忍び寄っていたのである。
東日本大災害は、自然災害として突然に襲いかかってきた。しかも「想定外」の大きさで激しく襲いかかった。しかし、それが来るまでの間に、我々の社会は原子力発電所の“安全神話”を作り上げ、やはり原子力の恩恵を享受したつもりで安穏と暮らしていたのである。
本来は、我々は常に、想定外の明日のために、今日最善の働きをしていなければならないのである。
リーマンショックなり、東日本大震災なりの「Someday」が来てしまってからでは遅い。