顧客は物品を買うとき、その商品の物質的な価値、すなわち価格という形で万人と共有される価値だけではなく、“自分自身(だけ)にとっての価値”がある商品とそれにふさわしい販売のあり方を求めている。
価値は販売の前後のプロセスで生み出される
したがって、消費者・生活者がいつでもどのような場合でも、価格だけを選択購買の判断基準にしているわけではない。とくに高額な商品では顕著である。
そのため、行政や産業上の分類で同等品ないし類似する商品とされるような商品同士であっても、価格の高いものの方が売れるという現象が発生するのである。
それを持続的に起こさせるには、その商品とその提供方法、さらに販売後に経験することが、購買者にとって期待するものであることが、購買前に想起できるようになっていなくてはならない。
他社とは際立って異なる独自性をもって提示され、その商品の売り方やこだわり、歴史、芸術性等、商品に付加されるソフトの価値が伝わるものが、選ばれるのである。
前回説明したような、商品そのものだけではなく、その販売の前後のプロセスで生み出される価値も極めて大切だということは、多くの日本の製造企業では、残念ながら理解されていない。価値は製品の製造工程の中においてのみ実現されると考えている人々がほとんどで、販売のプロセスにおける付加価値創出を重視する企業はほとんどないと言っていい。
モノの価値はそれにまつわるコトの中にある
つまり、商品の価値は、商品というモノ(物質・物体)の中に内包されているのではない。購買者の頭の中・心の中で、モノとコトの価値が結び付くことで存在するのである。
言い換えれば、顧客にとっての商品の価値は、顧客が感性でとらえ、心の中に形成する“心理的価値”であると言える。
このことは、何も日本人に限ったものではなく、同じ人間である世界中の顧客・生活者にも共通することである。その点では世界の市場も“感性価値”を重視する時代になっている。
頭の中の価値、心の中の価値、楽しい経験としての価値、アートのような美的価値、顧客満足度の高い売り方、おもてなしの心等の顧客価値に基づく製造・流通・販売を実現が考慮され、必要と認識されるならば、価格競争脱却の第一段階はクリアできたと言える。
コミュニケーション作りのマーケティングが重要
商品によっても異なるが、次のステップとして推奨するのは、イベントである。
商品の価値を“コトの価値”すなわち頭の中・心の中の価値としてとらえたならば、その“コトの価値”を“めったに経験できないコト”として高め、実現し、提供して行くことが大切となってくる。
マーケティングにおける理念を現実化・可視化し、ブランドをして“有言実行”させる。その実行度が試されるのである。
そのような“コト売り”を実現する上で最も適したマーケティングの具体的手法はイベントである。
イベントは、顧客に対して商品が持つ世界観・理念を経験・体験として提供し、そのことによってモノにまつわるコトを企業と顧客とが共同して創造するのである。
この経験とは、非日常的な、祝祭性のある、楽しい、めったに経験することはできない、素晴らしい、その商品が表そうとしているブランドの世界として、高い質を伴って演出し、提供する。
これが実現し得るという点が、イベントの際立った特性である。イベントは、各種の既存の媒体の持つ特性をトータル化・総合化する場を創造する新しい第6のメディアであり、コト売り・価値売りマーケティング実践の場である。この特性を最大限有効に活用しようとするのが、筆者が考えるイベント・マーケティングである。
イベントでは、商品が持つ“コトの価値”を楽しい体験として提供できるようにトータルに計画、実行する。また、販売自体もイベント化し、おもてなしの心にあふれるサービス産業に近づける。これにより、販売のプロセスにおいて、顧客にとって大切な経験=コト=ソフトの価値を創り出す。