引退後の功績・次世代への承継
競走馬としては引退しても、彼の競馬とのかかわりは終わったわけではない。2007年からは種牡馬としての生活が始まった。初年度の種付け料は、当時日本最高の1200万円であった。
種牡馬としての成績は、むしろ現役時代を超えるほどである。初年度、ディープインパクト産駒のセレクトセールでの競売価格総額は19億1000万円となった。それまでの種牡馬の初産駒の総売却額記録は、2006年のキングカメハメハの17億4500万円であったが、これを大きく上回る新記録となった。
さらに、これら落札された産駒たちの参戦初年に当たる2010年には全産駒で41勝を挙げ、その獲得賞金総額は5億3704万円となった。それは、ディープインパクトの父サンデーサイレンスが持っていた4億9062万円の日本記録を16年ぶりに更新する結果となった。子が父を抜いたのである。
彼はこのように次世代への承継も見事に行い、かくして名血統は確実に受け継がれている。競走馬の血統というもの、単に生物学的なつながりだけでは“名血統”とはなれない。馬自身の準備、訓練、努力が積み重ねられ、人間とのかかわりがあって初めて、血統に磨きが掛かるのである。
「ディープインパクト」に学ぶ8つのポイント
以上のディープインパクトにまつわる物語を、マーケティング、マネジメント、ブランド構築の成功例として思い返していただきたい。
1.ブランドの原点
「ディープインパクト」というネーミングのよさ。それは商品・サービスに対する“思い”の強さが込められている。
2.伝説・ストーリー作り
「ディープインパクト」は1頭の競走馬そのものだけではない。馬自体とそれにまつわるコトで構成された伝説の体系である。
3.関係者の絆・シナジー
「ディープインパクト」は彼自身だけで勝ったのではない。馬と騎手という2人のスターと重要な黒子らの絆が生み出したシナジーとして勝利を生み出してきた。
4.勝つための準備・訓練・努力
「ディープインパクト」の勝利の連続は、準備・訓練・努力の賜物であった。それらは馬の性格・特徴に合わせた戦略に合わせて行われた。
5.よき勝者・よき敗者
「ディープインパクト」には反省がある。勝てば次も勝つ反省材料を見つけ、負ければ次には勝つ反省材料を見つけ、一戦ごとに上手な競争をするようになった。
6.差別化・独自性
「ディープインパクト」には、「衝撃の末脚」によって終盤にすべてを圧倒する、小が大を倒す、小気味よさがあった。好かれる特徴を持つことの大切さ。
7.偉大なる定番の革新
「ディープインパクト」の定番の走りは、弱点の克服として編み出されたものである。短所は特徴の一つであり、全体を長所として構成し直すことで“偉大なる定番”を生み出す。
8.有終の美
「ディープインパクト」は現役時代だけが花だったのではない。人気絶頂期の鮮やかな引き際、勝って終わる有終の美、そして引退後の活躍、よい性質と実践の次世代への継承がある。
それぞれのビジネスの中で、“ディープインパクト性”が実践されているか、“ディープインパクト性”のタネが隠れていないか、考えてみていただきたい。