外車メーカーのトップたちは、もう一つ、クローズドセールスネットワークというものに興味を持っている。これは食品小売・外食のチェーンでも実現できているが、自動車業界など他業界では常識でありながら、食品小売・外食に全く欠けているものがある。それは、アフターセールスサービスという再来店を促すしくみだ。
クローズドセールスネットワーク
外車のメーカー首脳がブランドを語る場合に、この他に注目されるキーワードには、“クローズドセールスネットワーク”というものがある。すなわち、自社のブランド商品だけを取り扱う販売店の限定的なネットワークの中でのみ、自社製品を販売するやり方である。ハーレーの場合、これを「ノー・コントロール・セールス・ゼロ」と言う。コントロールできない販売はしないということであり、これによってブランドの一貫性を確保するのである。しかし、他の外車のメーカーでは、ハーレーほどにはこの政策は徹底できていない。
このことは、プライベート・ブランド(PB)を強化している小売チェーンや、一口口にすれば「あの店のものだ」とわかる商品(実際に何割の顧客がこれをかみ分けることができているかは、各々別途調べておく必要はある)を持っている外食チェーンでは実現できていると言える。しかし、「ブランド化を目指している」としながら、日本の小売業や外食業のほとんどが、決定的に弱いか、その仕組み自体に興味を持つことすらできていないことがある。
それはアフターセールスサービス(A/S)である。
食品小売・外食に欠けているアフターセールスサービス
たとえば、ハーレーの場合、ハーレーというオートバイの整備はハーレーを取り扱う専門店に任せてもらえる仕組み作りを行っている。それを支えるのが、電子化し専用化した特殊な整備機器、長期間継続的にトレーニングしたメカニック(自動車整備技術者)、ハーレーがオーソライズした純正部品である。これによってコントロールは強化され、ブランドの価値を一層高めることができる。
もちろん、他の自動車メーカーも、アフターセールスサービス(A/S)を自分のブランドの“クローズドセールスネットワーク”に取り込むよう努力はしているが、ハーレーほどに徹底しているメーカーは意外と少ない。
今日の自動車は電子化が進み、各社・各車で専用化したマイコンが、高級車では1000個程度は組み込まれており、自動車はきわめて高度かつ複雑なIT化の進んだ商品になっている。これによって自動車は性能が向上しただけでなく、整備すべき箇所と故障の状況や理由の診断には専用の機器を必要とするものとなった。
実は、このことこそ、ガソリンスタンドでの軽整備を難しくし、彼らが整備事業から撤退せざるを得なくなった要因の一つなのである。今日のガソリンスタンドが燃料の販売以外に自動車に関して自力で手を出せるものは、オイル交換、洗車、タイヤ交換ぐらいであろう。
さらに、自動車には毎年新しい機構が導入される。このため、一定の技術レベルに達したメカニックと言えども、毎年新しいトレーニングを受けなければ新しい車種の整備・修理を行うのは難しくもなっている。
自動車メーカーは、新車の販売だけで成り立つものではない。このように堅固なアフターセールスサービス体制を構築し、長期にわたって使用される商品に対する安全・安心・信頼を勝ち得ることができるかが生命線となっている。
販促以外に再来店を促すしくみが必要
食品、料理という、食べることによって文字通り消費される商品では、確かにこのような仕組みを持つことは考えにくいだろう。だからと言って、顧客の毎回の来店をすべて販売促進活動に頼っていては利益など出ようはずもない。広告を打たずとも、クーポンを発行せずとも、ポイントプログラムを持たずとも、顧客が自然に再来店する仕組みはどうしても必要だ。
食品の小売や外食業で、自動車産業のアフターセールスサービスに当たるものは何か。たとえば、長期にわたって繁盛を続けている名店が備えているのは、“味”であり、それに見合った店構え、内装、サービスなどによる総合的な満足である。お客が特定のジャンルの料理を食べようと思った際、「ならばあの店に行かなければ話にならない」というものがあってこそ、店が成り立つ。
しかし、調理が外部化され、店舗の内外装もカタログから選ぶようにして作られ、従業員教育でも極端に他店をベンチマークするような昨今の外食業は、肝腎のこの部分を放棄しているように見える。販促偏重となり、店の責任者が広告、クーポン、ポイントプログラムなどに過剰な興味を持たざるを得ないのも自明である。
この重要な部分をいかに取り戻すか、各社でよくよく検討していただきたい。