ハーレーダビッドソンは、100年変わらないと思わせる外観の一貫性だ。しかし、見た目は同じに見えても、実際には高性能であり、そのための技術的裏付けがある。この、多年同じものを打ち出し続けているように見えて、実際の中身や背景に最新の技術を持つという形を、“定番革新”と呼ぶ。これは日本の老舗もやってきたことだ。
古く見えて実は新しく高性能な“定番革新”
エンブレムについては、ハーレーダビッドソンの場合も、バー・アンド・シールドと呼びならわすビジュアルを非常に重視している。しかし、より重視しているのは、そのエンジンとボディースタイルなどの外観である。創業以来、幾度もフル・モデルチェンジを経ているにもかかわらず、ハーレーダビッドソンの外観は一貫している。とくにオートバイに興味のない人が見れば、まるで百有余年同じものを作っているかのごとき印象を与える。いや、ライダーにも「ハーレーはモデルチェンジしないから楽でいいよね」と言う人もいるのだ。
しかし、これはもちろん、そのようにすべきとの方針を踏襲してきた結果である。
ハーレーとて、厳しい社会的な課題を解決すべき使命を負っている自動車産業界の中にある企業・商品である。したがって、当然、数十年の長きにわたってフル・モデルチェンジせずにやって来られたはずがない。事実、ハーレーは技術的にも性能的にも格段の進歩を遂げてきたし、私が在籍した1990年から2008年の間に、エンジン、フレームともに変更するフル・モデルチェンジを2回行っている。
私は、ハーレーが行ってきたこのようなモデルチェンジのあり方を“定番革新”と呼んでいる。定番商品として長い歴史の中で受け入れられ、定着してきた商品のイメージをしっかりと受け継ぎながら、実際には日々進歩を積み重ねている。
たとえれば日本で老舗と言われる店の商品も、消費者には100年や200年同じものを作って売っているような印象を与えながら、実際にはその長い年月にわたって日々改善、革新を続けてきたからこそ、店が続いていると言われる。
この継続性・伝統と、改善・革新とのバランスが定番革新であり、これがブランドにとっては極めて重要である。
定番革新が凝縮された「ハーレーはエコ。」
「そうは言っても、ハーレーはうるさいし燃費が悪い」と思っている人も多いだろう。私は社長であった当時、この悪い評判を覆し、その意外性でハーレーの定番革新を印象づける作戦をとった。
ハーレーを表現するものとして、アメリカでは「Look, Sound, Feel」という3語がよく用いられる。たしかに、ハーレーの音にほれるという人は多い。その半面、ハーレーはうるさいというイメージもある。
ところが、世界でも最も厳しいと言われる現在の日本のオートバイに関する騒音規制値をいちばんしっかりとクリアしているのは実はハーレーなのである。実際に日本の試験場でテストして、日本の3種の騒音規制値(近接排気騒音・定常走行騒音・加速走行騒音)を満たしているのは、今なおハーレーだけである。つまり、標準の完成車で比較すれば、現在日本で市販されている大型バイクの中で最も静かな、騒音値の低いバイクはハーレーなのである。
燃費はどうか。これも一般に印象はよろしくない。大型車であり、しかも燃費の悪い四輪のアメ車のイメージもかぶってくるのだから、説明せずにおればそういう印象にもなるだろう。
ところが、日本製の排気量1100cc前後のオートバイのモデルや、BMWの1300cc前後のモデルのリッター当たりの燃費が12㎞程度であるのに対し、ハーレーは排気量1584ccが標準でありながら、リッター当たり18㎞の燃費を実現している。
そこで私の在任中に打ち出したアピールポイントの一つが、「ハーレーはエコ。」である。見学や試乗に来た人だけでなく、既存ユーザーも、これには虚を突かれたような印象を抱く。そこで販売店が、どういうわけでそのようなことを言うのかを説明するわけである。
これは単に燃費や低騒音のことだけを言っているのではない。ハーレーは、50年という驚異的な耐用年数を誇り、実際に若いときに購入してライダーを引退するまで同じ車に乗っていたという人は多い。これはレジェンドであり、しかも車がゴミにならないというエコである。そして、その背景には、たゆまぬ技術の進歩があり、だからこその環境性能であると訴えたのである。