外車メーカー首脳の言葉を集めて分析してわかったことがある。彼らがインタビューなどで強調していたのは、歴史・デザイン・環境への対応であった。自動車産業では常に社会的課題の解決、そのための改善・開発が求められるが、その中で一貫するものを重視し、伝えられる企業・製品こそがブランドたり得る。
外車メーカー首脳の言葉で見えたブランドの秘密
ブランドを考える上では、自分が所属する業種・業態だけ見ていては発展が難しい。私からはもうしばらく自動車業界のブランドについてお話させていただくことをご理解いただきたい。
私が前職のハーレーダビッドソンジャパンの社長であった頃、2005年から2007年の三カ年の間に、主要な新聞5紙、雑誌4誌に掲載された外車メーカーの首脳のブランドに関連する発言を収集・整理したことがあった。とくに、その中から自社のブランド、商品、企業の特性について語った発言を選択抽出し、自動車のブランドを構成するファクターとしてまとめた。
これは自動車業界に限らず、あまねくブランドに共通するものがあるので、ここに示す。
縦軸に商品・販売活を置き、横軸にハードとソフトを置いて区分し整理している。このチャートを作る作業を通じて、各社の首脳によって語られたブランドに関するキーワードには、極めて共通するところが多いことがわかった。
各社首脳は共通して、自社の、あるいは自国の文化や伝統を語り、歴史を重んじている。とりわけ、ヨーロッパのメーカーの場合は、自動車の発祥国のメーカーとして他国が追い付けない歴史とそれについての自負がある。
また、自社のものづくりに対するこだわりを強く強調し、デザインにおける統一感の打ち出しについてと、それに並んで新しい環境問題への対応の姿勢を熱く語っている。統一感へのこだわりは、とくにBMW、ベンツ、アウディ、レクサスが強調している。
性能のよさだけではブランドにならない
自動車には、時代ごとにいつも大きな社会的課題の解決が課せられてきた。すなわち、安全性の向上、騒音の減少、CO2・NOxなど排気ガスの規制など。燃費の向上は、経済性のため、オイルショック対策のため、地球環境に適合するためと、目的が変化しながら常に求められてきた。
これら多様な社会的課題に対応するためには、小手先の対応では応じられない。そのために、自動車メーカーたびたび大きな転換を実施している。つまり、自動車業界でよく言うところの“フル・モデルチェンジ”である。これは、新しい駆動方式のエンジンを開発し、そのエンジンに合った諸装備をトータルに納めるフレームやボディーを開発するといった形で行われてきた。甚だしくは、近年、動力源そのものの見直し(ハイブリッド車、電気自動車等)にまで至っているわけである。
しかし、フル・モデルチェンジをしながらも、ブランドを重視するメーカーは、当該メーカーの製品であることが一見して識別できるデザインを採ってきた。これは他社製品に比べて差別化が可能であることも重要ながら、自社既存製品の系譜として共感が得られるものであり、社の歴史を貫く共通性が感じられるデザインである必要があった。
闇雲に新しいもの、単に高性能なものを作れば売れるというものではない。それは自動車でそうであるだけでなく、あらゆる業種・業態について言えることである。
食について言えば、味がよければ何でもいい、安全であれば何でもいいというものではないことは、読者諸氏が重々お気づきのことであるはずだ。
歴史の中で浸透したヨーロッパ車のエンブレム
たとえば、ベンツ、BMW、アウディも、1980年代以降もたびたびフル・モデルチェンジを行っているし、30年前のモデルと今のモデルを比較すると確かに全面一新されていることははっきりとわかる。しかし、各社のフロント・グリルやヘッドライト部分のデザインなどには、明らかに各社のデザインのシンボルとなる特徴を残している。そうした、時代を通じて共通するデザインの特徴そのものが、ブランドに関係づけられ、それを強化しているのである。
BMWのキドニーグリルと呼ばれる、極めて印象深いフロント・グリルの吸気口デザインなどは格好の例だ。
ヨーロッパ車の場合は、エンブレムがあることにも特徴がある。BMWであれば、回転するプロペラと創業家の紋章からとった白と水色で構成する円形のエンブレムを全車に取り付けている。
ベンツの場合も、誰しもが想起するスリー・ポインテッド・スターと呼ばれるエンブレムを全車に取りつけている。これは陸・海・空の3つを象徴するという。
こうしたエンブレムが取りつけられた製品であれば、車種を問わずベンツでありBMWであることがただちに識別できる状態を構築しているが、もちろんこれは一朝一夕に成ったことではない。