ブランド創造のプロセスで繰り返し考え実践するべき10のポイントを指摘している。ブランドは、供給者から消費者まで、一貫して価値が共有・共感され、絆を生むものでなければならない。また、それを裏切らない信頼も必要だ。その全体の世界観を表現する商品・サービスが用意できているか、繰り返しレビューする必要もある。
店舗が顧客に与える心理的な価値が重要
この、手の込んだ仕掛けという点がくせものである。というのは、ブランドにかかわるメーカー(サプライヤー)から消費者までの間には、これまでにも述べてきているように、実際の商品を作る役割、流通させる役割、宣伝する役割など、さまざまな組織や人が介在する。そしてこの人々は、「売れればいい」「売ることが責務だ」と考えるものであり、手の込んだストーリー作りという全体像は見失いがちになるからだ。
そこで、ブランド・ホルダーであるメーカーなりチェーン本部は、各段階を通じて継続的に趣旨を伝え続け、供給から消費までブランドの(7)一貫性を保たなければならない。この活動によって、メーカーから顧客まで、(8)心理的価値・満足を確保し向上する絆を構築するのである。
そのためには、商品・サービスそのもののみならず顧客接点である店舗が、メーカーやサプライヤーが推進するマーケティングや展開するブランドの世界を表現する高質な環境として完成されている必要がある。顧客接点での満足度の高低は商品・サービスの性能、品質には無関係だが、商品・サービスに対して脳内に出来上がるイメージの総体であるブランドには、これは大きく影響する。
セルフサービスの業態のブランド創造には特別な努力が必要
であればこそ、接客による満足を与える機会が少ない、セルフサービスを中心とした業態でブランドを創造しようとする場合は、店頭作りについて相当な工夫が必要になる。
セルフサービスの業態の場合、一般に工夫のしどころは内装や什器のデザインということになるが、やはりイベントを活用するという手は考えたい。制約条件の多い店頭から飛び出して、さまざまな経験ができるプログラムを用意し、人間対人間のふれ合いのあるイベントをうまく展開できれば、そのブランドのイメージを高い質で膨らませることが可能だ。イベントでは相互のコミュニケーションが深まり、広がったコミュニティの形成をしやすくし、メーカー(サプライヤー)、店舗、消費者の3者間にwin-win-winの絆を構築し、コミュニティを形成する。この絆こそが、価値あるブランドの本質である。
とくにメーカーから顧客接点までの一貫性あるマーケティングを注意深く実践することは重要である。もちろんここでは、理念、イメージ、ブランドを構成する基本であるロゴなどのビジュアル・アイデンティティ(VI)は尊重されなければならない。
倫理と環境対応で信頼を勝ち取る
もう一つのポイントは、倫理性の重要性である。ブランドとブランド・ホルダーである企業、およびそのブランドを扱う諸組織と人々の活動は、広義の意味で倫理にかなうものである必要がある。なぜなら、(9)信頼の根拠が希薄であれば、これまで述べてきた要素や活動はすべて灰燼に帰すからだ。ブランド・ホルダーと諸組織は、企業行動において社会的使命を果たしているか、社会が求める規範にたがうことがないか。
犯罪行為があってはならないのは言うまでもないことだが、李下に冠を正さず、瓜田に履を納れず、犯罪的なものを連想されるようなことは、ゆめあってはならない。さらに、環境対応など社会的に変化する要請に応じているかも、今日では非常に重要な事柄だ。今日、多くの企業でブランド管理の部署と、環境対応の部署が、CSR(企業の社会的責任)を担当する部署として統合されるか密に連携する体制を採っているのは、それがブランドに強く影響するものであると理解されているからにほかならない。
日々のレビューと改善力が、ブランドの倫理につながる。この倫理性の確実な維持が、ブランドの信頼の根拠になり得る。コンプライアンスを念頭に置き、安全・安心を消費者に保証し、信頼を勝ち取る(build trust)のである。
ブランドの世界を凝縮して表現し得る商品・サービス
これら倫理と信頼のための活動は、一般的には“守り”の活動と考えられるが、最近では、“攻め”の活動にも取り入れられるようになっている。たとえば、一定の販売額や販売量に応じた予算を、顧客が意義を感じられるような社会奉仕活動や環境保全活動に振り向けるといった約束をプロモーションに埋め込むなどだ(埋め込みプレミアム・プログラム/Embedded Premium Program、EPプログラム)。一歩間違えれば「売名行為」などと攻撃を受けるが、ブランドが獲得する超過利益を社会のものと考えて理解されるようにすれば、値引きに飛びつくお客ではなく社会貢献を願う顧客を引きつけ、共に活動する絆を作ることもできる。
最後に、以上に掲げた諸要素・活動のすべてを凝縮して表現するものとして、改めて(9)商品・サービスがそのブランドにふさわしいものであるかを、繰り返し見直すことだ。