ブランド創造で留意すべきポイント 10(3)

不況に強いブランドが備える特徴
不況に強いブランドが備える特徴

不況に強いブランドが備える特徴

ブランド創造のプロセスで繰り返し考え実践するべき10のポイントを指摘している。大きな販売実績があるもの、性能のよいものでも、ブランドとして認知されるとは限らない。しかるべき理念があって、それに連動したマーケティングが行われなければブランドとして育つことはない。

性能・販売数に比例してブランドが強くなるわけではない

 自動車の例で話を進める。

 トヨタがレクサスを日本市場に投入した際のマスメディアの反応について、私は奇妙に感じた。というのは、何か日本で初めてのブランド価値を持った自動車が登場したかのような取り上げ方をするマスメディアが多く見られたからだ。マスメディアのそうした論調に反して、日本市場にはレクサス以前にトヨタ、日産、マツダ、ヤマハ、ホンダなどがあった。これらはかつてよりは衰えたとは言え、今なお世界各国で著名で、世界市場で相当のシェアを占めている、世界に通用する大ブランドに違いないのだ。

 なぜ、多くの国内マスメディアはそれら既存の国産自動車の銘柄をブランドととらえなかったのだろうか。

 その理由の一つとして考えられるのは、ブランドは必ずしも性能や販売数に比例して強くなるというものではないということだ。

 業務の要求もあって、私はこれまでに世界の各社の自動車に試乗したり、さまざまに見聞してきたが、その経験からの比較を述べると、日本車は性能面や環境適応性などで、メルセデスよりもBMWよりも優れている。故障も少ない。それでも、超過利益を生むようなブランド価値という点ではメルセデスやBMWに及ばないがために、レクサスの登場はそれらに匹敵するものと期待されたのだろう。

 あるいは、多くの日本車が比較的安価で、値引き販売も行われるからブランドとみなされないのであろうか? しかし、ヨーロッパの名車でも、フェラーリやポルシェのクラスでもなければ、かなり大幅な値引き販売は実際日常的に行われている。

ヨーロッパの名車と国産車のブランドの差は何か?

 そうなると、あるいは世界の自動車の歴史を作ってきたものと(メルセデス・ベンツを所有するダイムラー社の前身、ベンツ社創業は1883年、ダイムラー・モトーレン・ゲゼルシャフト社の創業は1900年であり、ともに世界で初めて実用的なガソリンエンジン自動車を開発したメーカーである)、あるいは自動車の国際レースの歴史の中で性能を磨きあげてきた栄光の歴史を歩んできたものと、それらに対して後から追い上げてきたものとの間の差が、憧れの差になるものか。その辺りを考えるほかはないだろう。

 そうとすれば、なおのこと、昨日今日に日本に“上陸”したレクサスよりも、トヨタをはじめ既存の日本車ブランドのほうに分があるはずであるが、ではなぜマスメディアにはトヨタ等を無視する形でレクサスが日本初のブランドと映ったのであろうか。

 いずれにせよ、マスメディアは時流の中で、上げて、落として、踏んづけることがあるので、ブランド創造を行っていく上ではメディアとの付き合い方には注意が必要である。

 なお、メディアによるコミュニケーションについてもう一つのポイントを指摘しておくと、成功しているブランドには「ブランド・メッセージ」というものがあることが多い。たとえば、メルセデスは「走り続ける」を使ってきた。BMWは長く「Freude am Fahren」(駆け抜ける歓び)を使ってきたが、近年「Efficient Dynamics」(よりクリーンに、よりパワーを)を併用するか転換したようである。

 日本車でも、トヨタ「Drive your dreams」、ホンダ「The Power of Dreams」、日産「Shift the future」といったブランド・メッセージを使用しているが、価値あるブランドのメッセージとしては消費者からはさほどには認知されていないようである。

販売ではなく理念に結び付くマーケティングを

 なお、先に成功したブランドは有名タレントを使わないと記したことに反して、有名タレントを使った広告は日本車の特徴だ。ヨーロッパ車やレクサスの広告で有名タレントを見ることは少ない。しかし、トヨタ、日産、ホンダなどでは、タレントを起用することが少なくない。2005年以降に木村拓也を起用して販売が伸びたカローラランクスのケースなどはその典型である。

 一方、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌といった既存メディアに従来型の広告を出稿することに頼らずに価値あるブランドを創造することは十分可能だということも忘れたくない。それには店舗でのコミュニケーションも大切だが、各種のパブリシティの有効な活用、ITの多面的な活用も含まれるが、私がとくに推奨するのはイベント・マーケティングである。

 ブランド構築のためのマーケティングで重要なことは、その活動が直接の集客や売上げを目指すのではなく、理念に連動したものであるということだ。(6)理念に連動したマーケティングは、商品をモノとして売るための活動ではないことになるので、自ずと商品にまつわるコトをアピールするもの、商品の社会的な存在意義をメッセージとして発信するものとなる。

 そこで、ブランドはストーリー性を深めることになる。これには、ときとしては大掛かりな、ときとしてはきめの細かい、いずれにせよ手の込んだ仕掛けが必要になってくる。

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About 奥井俊史 106 Articles
アンクル・アウル コンサルティング主宰 おくい・としふみ 1942年大阪府生まれ。65年大阪外国語大学中国語科卒業。同年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。中国、中近東、アフリカ諸国への輸出に携わる。80年初代北京事務所所長。90年ハーレーダビッドソンジャパン入社。91年~2008年同社社長。2009年アンクルアウルコンサルティングを立ち上げ、経営実績と経験を生かしたコンサルティング活動を展開中。著書に「アメリカ車はなぜ日本で売れないのか」(光文社)、「巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念」(丸善)、「ハーレーダビッドソン ジャパン実践営業革新」「日本発ハーレダビッドソンがめざした顧客との『絆』づくり」(ともにファーストプレス)などがある。 ●アンクル・アウル コンサルティング http://uncle-owl.jp/