マニュアルを超えられないひと、すなわちマニュアル依存であるひとというのは“指示待ち族”であるということだ。その状態から脱却するには、逆説的であるがマニュアルを深く理解することこそ、まず最初に行うべきことだ。それができた人の数が、そのチェーンの実力となる。
マニュアル依存は“指示待ち族”
TDRにおける危機管理マニュアルは、簡明な「理念に基づく、具体的な、具体化された行動指針」であり、それに従う実践的訓練の繰り返しで、本来のマニュアルのあり方・精神を実証して見せたのだ。
このTDRの例に沿って、チェーンのスーパーバイザー(以下SV)の業務「5C+1P」(コミュニケーション、コンサルテーション、カウンセリング、コーディネーション、コントロール、プロモーション。第54回参照)を検証していただきたい。
5C+1PはSVが遂行すべき業務であり、チェーンであれば業務にはマニュアルがある。マニュアルは体系化された指示書である。したがって、マニュアルを超えることができないSVというのは、指示したことしかしない“指示待ち族”である。
もしもTDRのスタッフたちが“指示待ち族”であったら、TDRが震災への対応に成功し、感謝され賞賛されることはあっただろうか。
彼らはマニュアルに従って正確に行動できただけでなく、現地・現物・現状に合わせた適確な行動も取ったのである。これには、しっかりとしたマニュアルとトレーニングだけでなく、理念・原則の徹底とそれに基づく実践の奨励が必要になる。
実践とは、
Logical Thinking(論理的な思考)
Flexible Judgement(柔軟な判断)
practical Action(実際に役に立つ行動)
を重視することである。
マニュアルの十分な理解がマニュアルを超える能力に
SVの5C+1Pも、この意味で実践されるものでなければならない。これは言うは易く行うは難しであり、心してかからなければならない。
まず、マニュアルをただそのまま従えばいいというものととらえるのではなく、マニュアルをどのように有効な結果に結びつけるかを考える必要がある。
これには、まず契約書とマニュアルを熟読してたたき込み、その内容に精通することだ。その上で、与えられた権限の中で、柔軟に運用することを考える。マニュアルを十二分に理解することの中から、マニュアルの精神・本質が理解され、その精神・本質の“原則”に沿って、三現主義的に運用する“妙”を把握・理解できるようになるからだ。“四角四面”に見えるマニュアルが、熟知され、解釈されることによって、本部から末端の店舗までの全貌、指揮命令系統の流れが把握され、温かな血の通った不定形で柔軟な組織が浮かび上がってくるはずなのである。
この過程で、とかく対立しがちな本部と店舗、フランチャイザー(以下FCザー)とフランチャイジー(以下FCジー)がパートナー同士として把握され、マニュアルの基礎である企業理念が“遠きにありて思うもの”から“近きにありて実践すべきもの”に変化する。
そうなればSVとして、マニュアルに反することなく、かつ現実に対処するに必要な判断ができる発想と能力が生まれる。そして実践によって経験を積み重ねることで、知識、見識、胆識が深まり、マニュアルを超えることは特別なことではなく、むしろマニュアルを重視することへと変わるはずだ。
これによって、SVはパートナーであるFCジーや店舗0のスタッフとともに、積極的に(aggressive)、達成可能に(achievable)に、行動ありきで(action first)目標や方法を探究し、提案し、行動できるのである。そこまでできて初めて、本当の意味での5C+1Pの実践が可能になる。
この判断力・行動力を持つSVをどれだけ抱えているかが、本来のチェーン本部、FCザーの実力である。