チェーンの店舗でも本部でも、しばしばマニュアルの不徹底や逸脱は発生する。また、完璧なマニュアルというものはなく、マニュアルは常に改善されるべきものだ。そこで、チェーン本部はスーパーバイザーやミステリー・ショッパーによるチェック体制を整備しているが、そのチェック自体もマニュアルで行われる。マニュアルにない事柄の発見やそれへの対処は、しない方がラクなので、マニュアルはなかなか改善されない。
マニュアルの不徹底・逸脱は避けられない
スーパーバイザー(以下SV)は、マニュアル通りの役割を果たすことが本部から求められている。フランチャイジー(以下FCジー)は、基本的には契約に基づいてマニュアル通りに店舗を運営することが義務付けられている。しかし、いくら開店の事前・事後の講習会を受講したとしても、本部が定めるマニュアルや各種の基準をFCジーの経営者や店長が常に正しく記憶しているとは限らない。また、FCジーは、少しでも自社の店の売り上げにつながるように、また顧客に喜ばれるようにと、“善意から”マニュアルを超えたサービス等の施策を追加しようと考えがちになる。
また、マニュアルが身に付きやすく、また追加の施策を入れなくとも、問題なく運営できるようになっているのが“よく考えられたフランチャイズ・パッケージ(以下FCパッケージ)”であるはずだが、現実にはそのように理想的なFCパッケージというものは少ない。
また、マニュアルの不徹底、マニュアルの逸脱は、FCジー側だけの問題ではなく、FCザー側でも往々にして発生するものである。
チェーン本部はチェック体制を整備している
そこで、チェーン本部においてはSVに対して、顧客接点(店舗)におけるスタンダードからの逸脱や、問題の有無をチェックする「Contorol」(コントロール)機能が求められているわけである。
このコントロールは、やはりマニュアルに基づいて行われる。これには書式化されたチェックシートがあって、一つひとつ確認し、マーキングして行く方法が取られる。代表的なものとしては、ブランドの使用状況や店舗の外装・内装の状況、トイレ、厨房等における3S(整理・整頓・清掃)、サービスのあり方、客数、顧客の利用状況、本部主導のキャンペーンやプロモーションの展開状況、POPの書き方等々である。これらは、問題点をピックアップするだけでなく、一般に減点法によって採点が行われ、改善の指導や表彰に用いられる。
ただし、SVが来るとスケジュールがわかっている時には準備を行って合格点が取れるものの、その他の日には手抜きをしていてボロが出るということはよくある。そこで、しっかりとしたチェーン本部は、SVとは別に学生アルバイト等を使って、ミステリー・ショッパー(覆面調査員)を送り込み、平常時の状況のチェックを随時行っている。
マニュアルを超える改善は行われない
だが、そうした体制を採っていても、やはり本部による顧客接点の問題発見には限界がある。SVやミステリー・ショッパーによるチェックもマニュアルに基づいて行うことが原則であるが、まずそのチェックに漏れを生じることがある。また、マニュアルにたまたま記述がないことでも、一般の常識として改善すべき事柄が見つかるということはあり得る。これをその都度本部に持ち帰ってマニュアルを改善するのが本来のあるべき姿だが、現実には徹底されないことも多い。現地・現物・現状を重視する三現主義よりも、決められたことに従順であるほうがラクだからである。
すでに高額な契約として紹介し、多数のFCジーを抱えているFCパッケージであっても、顧客の視点からより深く観察すれば、問題点はまだまだ多いものだ。少数の人間が考えることには限界があるし、消費者の考え方や行動も刻々と変化していくからだ。だから、顧客接点を取り巻く環境や顧客を三現主義でよく検証すれば、FCパッケージの改善、進化、発展は常に可能である。
ところが、それを行うSV、行おうとするSV、行えるSVは、極めて少数である。
かくして、本部の机上で作られたマニュアルに問題があってもマニュアルやFCパッケージが改善されることはない。SVはマニュアルを超えられない。マニュアルを超えようとはしないものである。