前回に続いて、今後のコンビニエンスストアが採るべき方策について、具体的な提案を行う。第3の提案は、“御用聞き”の導入であり、第4にそのための援軍として新聞販売店との連携を考える。さらに、コンビニエンスストアで発達したPOSを震災経験後の時代に合ったものへ進化させていただきたい。
3.IT時代の“御用聞き”サービス
東京23区内と、神奈川県、埼玉県、大阪府の一部では、「カクヤス」という配達をメインとした酒販チェーンが躍進している。
振り返ってみれば、かつては地域の酒屋は家々を個別に訪ねて注文を取って配達する御用聞きという営業を行っていた。コンビニエンスストア(以下CVS)は、これをチェーンとして取り組み、注文は電話やメールで受けるシステムを作ることができる。
これは長い距離を歩くのに不自由を感じる高齢者や障害のある人には重宝であり、フランチャイザー(以下FCザー)にとっても顧客の裾野を広げることになる。
御用聞きをはじめとする訪問販売が廃れたのには理由がある。中には販売者の居所が不明であったり、販売後の責任があいまいであったりなどもあって、いろいろと問題も起こった。それで業務内容によっては法規制があったり、顧客からも敬遠されたりということがあり、折からのスーパーマーケットなどの普及もあって、御用聞きはきわめて少ないものとなっていった。
しかし、信用ある御用聞きは、顧客との間に“絆”と呼べるしっかりした関係を築き、長く親しまれていたものだ。また、家庭向けの御用聞きは減ったものの、職場への弁当配達、ヤクルトなどの乳飲料の販売などでは、この形式の仕事は今も続いているのである。
すでに市民権を得ているCVSのブランドは、信用面でのメリットとなる。しかも、とかく品物と対価の物理的交換に終始し、人間身が失われがちなCVSの現状の販売形態と違い、この販売形態では人間同士のやりとりが強調される。これによって“顔見知り”社会を少しでも回復することは、社会的にも意義のあることだ。
また、この場合も、受注・宅配のエリア決定や対応する商品やサービスの決定についても、FCジーにある程度裁量権を与えることで、スタートの垣根を低くする配慮があることが望ましい。
こうした“御用聞き”サービスを導入する場合、このための受発注システムと高齢者にも使いやすい発注端末を開発し、一定条件を満たす家庭に無償貸与することも考えたい。発注を簡単にすることで、顧客には継続的な利用をうながし、店舗側の受注の手間も軽減する。
4.新聞販売店とのコラボレーション
もう一つの提案は、CVSに遙かに先んじて地域に深く根を張っている事業者との連携だ。すなわち、新聞販売店とのコラボレーションである。彼らは、地域の各戸の個人情報を含む詳細な情報を持っているが、これを整理・活用できていない。それを生かす仕事をしてもらうのだ。
新聞販売店はCVSのFCジーと同じく中小零細企業であり、新聞の電子化など将来の不安を抱えており、新しい事業を考えなければならない段階に来ている。
宅配を考えた場合、新聞販売店が持つ地域の情報は生きるし、地域内に店舗を持っていることから、地域での信用もある。そして、なにより輸送力を持っている。トラックのように大きなものは運べないが、新聞・雑誌程度の大きさ・重量のものを朝・夕の2回広範囲に届ける能力を持っている。しかも、朝はきわめて早い時点に配達を行うから、朝食の時間に間に合う配送体制と言える。実際に、毎朝焼き立てのパンを配達するサービスを開始した新聞販売店はあるのだ。
このような特徴・能力を持つ新聞販売店と連携し、地域ごとにCVSの店舗を支援してもらう形は考えられる。
なお、地域の店舗や小口の輸送力を活用している事例は、ほかにもある。たとえば宅配のヤマト運輸、警備会社のセコムは物販を行っている。また、白洋舎は店舗で日用品の販売を行っている。
5.さらなるPOS進化
最後に、POSデータの一層の技術革新を期待したい。というのは、CVSや各チェーンストアのPOSは非常に発達しているが、これが東日本大震災に際して災害復旧という観点、とくにCVSのBCP(business continuity plan/事業継続計画)との関係性においては必ずしも有効ではなかった。
POSはもともとは店舗での防犯や錯誤・不正の防止の観点から開発が始まったが、日本では販売データを集約するツールとして発達した。このネットワークをさらに、拠点ごとのさまざまな情報を吸い上げ、集中的にさまざまな予測を立てる形へ、さらに進化させていってもらいたい。つまり、災害時の必要物資予測までも含むものへということだ。
また、物流の状況を店舗レベルにフィードバックし、顧客にも情報提供ができれば、無用の買い占めや需給関係の破壊等の防止となり、とくに身体障害者を含む災害弱者に対する社会的支援ともなる。
言うまでもなく、そのことはCVSに対する社会の評価を一層高める。