検証・渥美俊一氏のチェーンストア理論(14)今日スクラップアンドビルドの戦略は通用しない

渥美式チェーンストア理論では、スクラップ・アンド・ビルドを肯定的にとらえている。実際に、チェーンストアの多くがスクラップ・アンド・ビルドの考え方で出店している。しかし、そのことがブランドを傷つけ、消費者を傷つけていることに気付く必要がある。とくに、少子高齢化の今日の日本で、スクラップ・アンド・ビルドの戦略は立ちゆかないものになっている。

ダメだったら閉店すればいい

 渥美式チェーンストア理論では、スクラップアンドビルドを肯定的にとらえています。地理的状況は変化するものであり、したがって商圏には寿命があり、その趨勢に合わせて的確・タイムリーに立地選定をするという考え方です。

 話としては理にかなったことと言えますが、実際のチェーンストアを見ていますと、スクラップアンドビルドは悪いことではないから、「ダメだったら閉店する・移転するということでよかろう」と考えているフシを感じることがあります。

チェーンストアの店舗は“軽い”

 スクラップアンドビルドには、当然コストがかかります。さまざまな費用がかかりますが、最も目に付くのは建築コストでしょう。そのため、チェーンストアの多くは、建築費のコストダウンに努めているものです。

 この結果どうなるかというと、店舗は“軽く”なります。鉄筋コンクリートよりは軽量鉄骨造りなどが選ばれ、壁は塗るのではなくサイディングを用いるなどの工夫がされます。外食チェーンなどでこの方面の研究が進んでいるところは、店舗を完全にプレハブ化して、ある立地から撤退するときは店を分解し、次の立地で組み立て直すというところまでやっています。

 面白い工夫です。

 しかし、そうした“軽い”店は、やはりどうしても印象が“軽く”なります。建築の技術や美的表現力は進んでも、やはりそうした建物には「いつかなくなってしまう」印象がつきまといます。そのような店舗は企業側の本音として“仮設店舗”であって、その思惑は、消費者にもやはり伝わってしまうものです。

屋台型のビジネスでブランドも狙うのか

 たとえばイベント会場に出店する屋台を考えてみてください。中にはしっかりした印象を残す人もいるでしょうが、より多くの場合、それらは「たこ焼き屋さんが来ていた」「クレープを食べた」という業種や商品は覚えてもらっても、店名(ない場合も多い)や店の人を覚えてもらって、別な場所に出店したときも追っかけで来店してもらうということは希です。

 これは商業の善し悪しなどではなく、スタイルとしてそのようなビジネスだと考えるべきでしょう。店独自のブランド作りにコストをかけるよりも、立地・出店地選びと毎日の営業をしっかりやることに注力するという考え方です。

 スクラップアンドビルドを肯定するビジネスは、これに近い店を志向したものになります。それをやりながらブランド構築もしっかりやりたいというのは、私には二兎を追っているように感ぜられます。

オーバー・ストア状況になる元凶

 また、屋台では多くの場合専門的な同業組織があって、同業者間で出店地の調整が図られているものです。善し悪しは言いません。そういうものとして行われてきたということです。

 ところが、チェーンストアはではそういうことはないわけです。各社がそれぞれに計画を立て、ときには立地を奪い合い、あるいは蓋を開けてみれば隣接店同士となって競り合いながら営業を続ける。それどころか、ライバル社が好立地に出店すれば、わざと近隣に競合店をぶつけるということも行われます。

 つまり、スクラップアンドビルドの肯定は、しくみとしてオーバー・ストアの状況を作ることになっていくわけです。

 結局、この形でいけば、ブランド力よりも瞬間的な集客に費用と知恵を使い、多くの場合価格競争とそのためのコストダウン競争となり、そのことがブランドを傷つけ、競争に負けて撤退した側がより多くのコストに苦しみ、体力勝負で負けた会社はついには事業からも撤退するという極めて苛烈な業界になっていくわけです。

“買い物難民”を生み、コミュニティを破壊する

“顧客視点”という点からも、スクラップアンドビルドの肯定には疑問があります。東京の多摩ニュータウンをはじめ、高度成長期に出来た新興住宅街では、いま“買い物難民”ということが問題になっています。住宅街の中心など、周辺に住む人たちが最も利用しやすい立地に出店していたスーパーマーケットやショッピングセンターが撤退し、お年寄りが徒歩で日用品や食品を買いにいく場所がなくなるという事態です。

 なぜ撤退したかと言えば、地域住民の高齢化、それによる支出の減少、世帯の減少などによってソロバンが合わなくなってスクラップし、どこかへビルドしたわけです。しかし、長年そのスーパーなりショッピングセンターを利用してきた、そして存命で自宅に住み続けているお客からすれば、「見捨てられた」「切り捨てられた」ということになるでしょう。そして、第42回で述べたように、お客同士やお客と店とで形作っていたコミュニティも、その店のスクラップによって破壊されるのです。

スクラップできてもビルドはできない時代

 同様のことは、とくにかつての新興住宅街だけに限らず、店の大小を問わず、あらゆるスクラップアンドビルドの現場で起こっていると考えるべきでしょう。しかも、高齢社会と人口減少は、今の日本全体の市場の流れといいうことから考えると、同じように残念な思いをしている消費者は多いと考えられます。

 その意味でも、スクラップアンドビルドという戦略を手放しで許容することは、ブランド構築・維持とはかけ離れた考え方だと理解しておく必要があります。

 立地選定は長いスパンで考える必要がありますし、商圏の状況が変わったときに、自社の都合だけでなく、お客の都合もよく考えた対応策を、早い段階から戦略的に検討しておく必要があるのです。

 そもそも、今日の日本で、スクラップはしても、ビルドの候補地があるのかという根本的な問題をもう一度考える必要があります。少子高齢化で、かつてのようにしかるべき場所に出せば売れるという時代ではないのです。それを考えれば、スクラップアンドビルドという戦略はいったん忘れて、一から考え直す必要があるということは自明のはずです。

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About 奥井俊史 106 Articles
アンクル・アウル コンサルティング主宰 おくい・としふみ 1942年大阪府生まれ。65年大阪外国語大学中国語科卒業。同年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。中国、中近東、アフリカ諸国への輸出に携わる。80年初代北京事務所所長。90年ハーレーダビッドソンジャパン入社。91年~2008年同社社長。2009年アンクルアウルコンサルティングを立ち上げ、経営実績と経験を生かしたコンサルティング活動を展開中。著書に「アメリカ車はなぜ日本で売れないのか」(光文社)、「巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念」(丸善)、「ハーレーダビッドソン ジャパン実践営業革新」「日本発ハーレダビッドソンがめざした顧客との『絆』づくり」(ともにファーストプレス)などがある。 ●アンクル・アウル コンサルティング http://uncle-owl.jp/