渥美俊一氏は、一つの資本で11店以上を展開する直営チェーンを理想、あるべきチェーンの姿とした。しかし今日、フランチャイズチェーンのように他人資本による多店化で成功しているチェーンは多い。さらに、加盟店の形を採らないチェーンの形さえある。その成功のカギは、システム、契約、資本・金銭関係以外のところにある。
渥美氏は直営であるべきと言うが
渥美式チェーンストア理論が最も重視してきたことの一つが、バーチカル・マーチャンダイジング(バーティカル・マーチャンダイジング)です。
これは、原材料の段階から消費者の手に渡るまでの計画(マーチャンダイジング)を、ある主体が全責任をもって一貫して推進することです。
バーチカル・マーチャンダイジングがない場合は、原料生産者、材料メーカー、製品メーカー、物流企業、卸売業、小売業が、それぞればらばらに商品を企画し販売計画を立てている状態となります。
渥美氏は、これには3種類があるとしています。すなわち、(1)corporate(チェーンストア)、(2)contractual(フランチャイズ・チェーン/FC)、(3)administrated(メーカーの系列化)です。
この分類からわかるように、渥美式チェーンストア理論では、フランチャイズ・チェーンとメーカーの系列化をチェーンストアとは異なるものとしています。そしてもちろん、あるべき姿はチェーンストア(レギュラー・チェーン=直営チェーン/RC)であるとされていました。
そのチェーンストアの渥美氏による定義は、一つの資本で11店舗以上を直営する小売業あるいは飲食業の経営制度、というものです。
非直営で成功しているチェーンは多い
しかし、チェーン・ビジネスはすべて一つの資本で直営であるべき、ないしはその形が優れているというものでしょうか。
今日、成功しているFCは少なくありません。メーカーが異なる資本と形成する販売網にも優れたものがあります。たとえば、以下のようなものがあります。
・自動車販売店(他人資本主体)
・自転車店(他人資本主体)
・オートバイ販売(他人資本主体)
・ガソリンスタンド(他人資本主体)
・農業機械・資材の販売・購買(他人資本主体)
・宅配便
・保険
・ヤクルト
・ダスキン
・ツタヤ
・コンビニエンスストア
・外食(ファストフード、居酒屋、ディナーレストランなど)
これらはほんの一部で、資本の異なる同士が結び付いた商業は枚挙にいとまがありません。
異なる資本が結び付いてチェーンを構成する場合、とくに小売業や外食業の方は、FCかボランタリーチェーン(VC)を思い浮かべるでしょう。これらの場合は、加盟料や利益高や売上高に応じたロイヤリティを本部に支払う形をとっているものです。
ですが、直営ではなく、本部と加盟店との間に資本関係がなく、しかも加盟料、ロイヤリティもなく、それでもチェーンを形成するということは可能なのです。
資本関係もロイヤリティもないチェーン
たとえば、私が携わったハーレーダビッドソンの販売網がそうでした。
チェーン本部に当たるものは、ハーレーダビッドソンジャパン(HDJ)という外資系の中小企業です。それが、やはり中小企業である販売店(バイクショップ、ディーラー)にオートバイを販売してもらうというのが元々の形です。
私はHDJ社長就任時から、そのディーラーの1軒ごとを訪ねて回り、それぞれ1対1で話し合いながら、全体を一つの販売網=チェーンにまとめ上げました。もちそん、その段階でも、HDJとどのディーラーとの間にも資本関係はありません。加盟料、ロイヤリティなども当然ありません。
HDJは卸です。卸やメーカーは、自然なこととして、しばしば小売店と対立するものです。ところが、このハーレーダビッドソンのディーラー各社はチェーン全体に協力し、貢献してくれました。さらに、IT化で販売システムを開発・導入し、この段階では全ディーラーが販売データをシステム上に公開することに同意してくれたのです。
なぜこんなことが可能になったのか。それは、システムやルール(契約、組織体系、マニュアルなど)以前に、人間同士の関係づくりに努め、価値観、目的、目標を共有する集団を形成したことによります。その上で、「確かに儲かる」という実績が出来ることで、この資本関係のないチェーンは盤石なものとなるのです。
商業のスタイル、チェーンにはいろいろな形があって当然なのです。直営でなければならないとか、他人資本で多店化するには契約で縛り、加盟料・ロイヤリティを設定する必要があるとか、「こうするべき」というのは思い込みに過ぎません。
商品・サービスによって、そのビジネスの内容によって、チェーンの形は自由に発想して整備すればいいのです。商業とは、古来多様性を持った世界なのです。
なお付言すれば、システム、契約、資本・金銭関係に依存しすぎたドライな結び付きは、実は意外にもろいものです。どの形を採るにせよ、チェーンだからといって人間同士の結び付きを軽視すべきではありません。