検証・渥美俊一氏のチェーンストア理論(11)人間としての働きの価値を認めること

超過収益力のあるブランドを作るには、モノを売るのではなくコト(出来事)を売るという考え方を持つ必要がある。それを実現するには、店舗のスタッフの働きが重要になる。お客との対話や、美的センスを発揮するなど、人間としての働きが独自の価値になるからだ。

“コト売り”という概念の欠落

 前回お話したような“コト売り”の概念は、渥美式チェーンストア理論には含まれていません。少なくとも私は発見できませんでしたし、渥美式チェーンストア理論を勉強したはずのGMSやファミリーレストランなどに、その面の指導があったと感じさせるものはなかなか見付けることはできません。

「うちのチェーンにはある」という方は、ぜひご連絡ください。そして、それは教わったことなのか自分たちで発想して実現したことなのか、教わったことであれば、教えてくれたのが渥美氏なのかほかの誰かであるのか、ぜひ教えてください。

TPOSに価格で応えることは可能か

 およそ、渥美式チェーンストア理論とはシステムであり、運営するためのテクニカルな管理システムの緻密で厳格な体系と言えるでしょう。その中で、感性価値や精神的豊かさをどう演出して提供するかは教えてくれていないということは、意識しておくべきだと考えます。

 店すなわち顧客接点を、enjoyable(楽しめる)で、exciting(心を熱くさせる)な、experience(体験)の場とするべきことと、その実現方法は、この理論体系とは別に学ばなければならないのです。

 それには、お客のライフスタイルを理解しなければなりません。

 渥美氏は、ライフスタイルについて言及していないでしょうか? 実はそこに触れる部分はあるのですが、「TPOS(time、place、occasion、style)に合わせた品ぞろえ」のように説明しているのに留まっているはずです。しかも、そこでまた出てくるのが、価格レンジです。TPOSに合わせたものを用意するとき、それを選ぶ手がかりがやはり価格になってしまうという、根強い考え方の傾向があります。

 たとえば「記念日の利用では○○円以上でなければいけない」という風に考えるべきでしょうか? 人それぞれが持つ事情や行動は、そのように単純に考えて予め準備できるものではないでしょう。

 自動販売機のように、ロボットのように、画一的な対応で効率を上げたいという考えに縛られるのであれば、そのように考えることになるでしょう。ただし、それでは独自の価値、“+α”の超過収益力は望めません。その証拠に、通常の立地で缶コーヒーを110円を超える価格で売っている自動販売機はないのです。

人間の存在が超過収益力を付ける

 店が“+α”超過収益力を備えるには、やはり人間の存在が不可欠です。誕生日と聞いて自動的に3000円のショートケーキを押しつけるのではなく、たとえばですが心のこもった「おめでとうございます」も言い、その日誰とどんな過ごし方をしようとしているのか観察で感じ取り、あるいは失礼にならないような方法で直接聞き出し、その上で商品なりサービスをその人に合わせて提案できるといったことが必要なのです。

「チェーン・オペレーションではそれは無理だ」という人もいるでしょう。ですが、それはまだ低価格であらねばならないということにこだわっているからです。「ルイ・ヴィトン」や「ティファニー」もチェーンのしくみで動いていると指摘しましたが、超過収益力のある店はそのように接客する人がいて、人としての頭脳と感性を生かして働いているものです。

 いいえ、セルフサービスの業態が“+α”を生まないというわけではありません。たとえば「ユニクロ」などは基本的にセルフサービスです。ただ、これを「セルフサービスで人件費を圧縮している」とだけ見ると見誤ることになります。このような店の場合は、お客がひとを気にせず自由に選べることを価値としていると見るべきです。そして、実際に店舗のスタッフがいなくても選んだり悩んだりを楽しむことができるように店作りがされているはずです。

 スーパーマーケットやカフェテリアのセルフサービスも、もともとはそこが意識されていたはずですが、現在はサービスの省略ととらえている人が多いでしょう。

 その考え方の違いによって、売場作りも違ってきますし、そもそも品ぞろえも違ってきます。

視覚の統一がブランド管理ではない

 たとえて言えば、渥美式チェーンストアでは、スムーズに歩きやすく効率的で安全な動線を備えた店内で、良好なクレンリネスの状態ということは守られるでしょう。品ぞろえは、たいていの人が欲しがるものはきちんとあるという状態になるでしょう。

 しかし、そこに美的センスを生かしたり、ちょっとした驚きやおかしみのある商品を置いたりということは、なかなかできないでしょう。渥美式チェーンストア理論では、そうした美的センスを発揮するのは本部の限られた人(タレント・スペシャリスト)に任せることになっていて、店舗スタッフの創意工夫は一般に抑制するようになっていますから。

 それで同じチェーンの店舗はどの店舗でも外観と内装が同じということになります。チェーンストアの方には、それがブランド管理というものであると考えている人がいるようですが、それは間違いです。

 地域に合わせ、お客に合わせ、さらに店舗スタッフに合わせて、店のデザインでもインテリアや飾り付けでも変えていいのです。それが人の個性を生かし、尊重し、その地域のお客に対して、そのスタッフならではの価値を提供する活動に結び付くからです。

 ブランドとして統一すべきは、そうした視覚等で感じるような表面的な違いを超えてなお「やはりこのチェーンだ」と感じてもらえる部分をそろえることです。

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About 奥井俊史 106 Articles
アンクル・アウル コンサルティング主宰 おくい・としふみ 1942年大阪府生まれ。65年大阪外国語大学中国語科卒業。同年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。中国、中近東、アフリカ諸国への輸出に携わる。80年初代北京事務所所長。90年ハーレーダビッドソンジャパン入社。91年~2008年同社社長。2009年アンクルアウルコンサルティングを立ち上げ、経営実績と経験を生かしたコンサルティング活動を展開中。著書に「アメリカ車はなぜ日本で売れないのか」(光文社)、「巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念」(丸善)、「ハーレーダビッドソン ジャパン実践営業革新」「日本発ハーレダビッドソンがめざした顧客との『絆』づくり」(ともにファーストプレス)などがある。 ●アンクル・アウル コンサルティング http://uncle-owl.jp/