検証・渥美俊一氏のチェーンストア理論(3)アメリカ至上主義・日本市場無視で成功するわけがない

渥美式チェーンストアの考え方のもう一つの難点は、アメリカで行われてきたことに学び、それ以外を認めようとしなかった点にある。現地・現物・現状の三現主義に基づいてローカライズをしなければ、商業は成功しない。これに気付いている人は、日本にもアメリカにも少なくないはずなのだが。

「アメリカ出羽守」

 渥美氏は、チェーン志向の小売業、外食業の視察先はアメリカであるべきと教えていたと聞きます。しかも望ましくは西海岸であるべきで、一方ハワイは論外としていたということです。また、ヨーロッパには学ぶべきものはないとも考えていたと聞きます。

 なるほど、著書はアメリカの事例に言及するというだけでなく、ほとんどすべての内容は「アメリカではこうしてきたから」「アメリカではこうなっているから」というように、アメリカの小売業、外食業がやってきたことが前提となっているようです。

「ようです」というだけでなく、実際に「アメリカで多年に渡って実践され、成功してきたしくみ」をすべての基本としてまとめ、教え、逸脱を許さないという教え方であったとの証言を得ています。

「アメリカ出羽守(でわのかみ)」というわけです。

 ここが、根本的な大間違いです。

 アメリカで行われたことを学ぶのはいいでしょう。しかし、それ以外を認めないというのではうまくいくわけがない。むしろ、今日でも、この“アメリカ出羽守”式考え方が信奉され、それに沿った経営なり教育が行われているというのは、私にとっては驚きです。

「レクサス」日米で明暗の理由

 たとえば、私がいたトヨタについて考えてみましょう。

 確かに、トヨタの自動車販売の基礎は、アメリカから学んだものです。後にトヨタのディーラー網を一代で築くこととなった神谷正太郎氏が、トヨタ入社前のゼネラルモーターズ日本法人時代に学んだことを元に、ゼネラルモーターズをモデルに作ったのです。

 しかし、少なくとも今のトヨタの販売網とアメリカの一般的な販売網を比較すると、大きく異なります。日本では、都道府県を基本とする大テリトリー型ともいうべき販売店が中心です。しかしアメリカでは、同一地域に同一ブランドの店舗を多数布陣する小テリトリー型が一般的で、日本の販売店に比べると小規模な店も多いものです。

 そのアメリカで、「レクサス」が成功しました。これは、車のデザイン、機能、性能もさることながら、呼べばすぐに対応する、持っていけばあれもこれもやってくれるといったサービス体制が受けた、ということになっています。

 この「レクサス」のアメリカでの成功が有名になると、トヨタは国内の既存ディーラーで「ウィンダム」「セルシオ」として販売していた同型車の名称を「レクサス」に統一し、レクサス販売店を立ち上げました。

 しかし、残念ながら、日本でのレクサスは苦戦しています。なぜでしょうか。アメリカで受けた「レクサス」販売店の全販売チェーンで均質のサービス体制というのは、日本のトヨタでは大衆車でも当たり前だったからです。

 日本とアメリカでは、一般に行われている戦略も違えば、その一般に対抗して打って当たる新機軸というものも違います。

三現主義に基づくローカライズ

 渥美式「チェーンストア」理論では、ヨーロッパの商業・商流を軽視・無視していることも問題ですが、日本で展開しようとするビジネスであるのに、アメリカ式を究極・至高として規定し、国内で行われてきたもの、国内で考えたものを亜流・傍流ないしは“原則からの逸脱”として扱ってきたことには大きな問題を感じます。

 まず、アメリカと日本とでは、人々の体格も、ものの考え方や感じ方も、大きく異なります。今日、似たものが増えたようには見えても、やはり同一文化、同文明ではありません。

 もちろん、今日もアメリカに先進的なしくみやアイデアはあるでしょうが、それらを日本に紹介・導入する場合は、まるごとそっくり移してくるのではうまくいきません。

 トヨタでは「現地」「現物」で考えろということを徹底しています。私はそれに「現状」を加えて「三現主義」と言っているのですが、商業では現地・現物・現状に従ってローカライズすることは必須のことです。アメリカを含む外国から日本に商品なりサービスなりしくみなりを持ってくるには、必ず三現主義に基づいて、日本市場の文化・文明に適するために修正されなければ成功しません。

藤田田は知っていた

 現実に、現在日本で成功している「チェーンストア」とされるチェーンも、忠実に渥美式「チェーンストア」を作り上げたところは少ないでしょう。むしろ、生前渥美氏は日本で実際に作り上げたチェーンに対して、「まだわかっていない」「まだできていない」と言っていたケースが多いと聞きます。そのことこそ、ローカライズが必要だったということの証左となるでしょう。

 一方、彼ら自らの意思で日本に進出した「ウォルマート」「コストコ」などのアメリカの「チェーンストア」がありますが、彼らが日本で本国アメリカと同様の展開力を見せているかと言えば否です。

 また、アメリカ発の外食チェーンでも、ローカライズを認めないチェーンはなかなか伸びず、ローカライズを認める方針に転換した途端に伸び出すということはよくあることです。成功したところはローカライズに成功したところです。

「マクドナルド」を日本で展開することに成功した藤田田氏の、一号店の立地選定などは好例です。氏は、アメリカの本部がサバブへの出店を強く主張したのに対して、銀座であるべきと強く主張し、実際に一号店を銀座の一等地(三越店内)に出店して成功したのです。

 一方、アメリカで力強く成功しているチェーンでも、日本にはなかなか進出しないチェーンというのもあります。たとえば、薬局チェーンの「Walgreens」などは非常に面白い企業ですが、日本には来ないと決めているようです。市場環境の違いをよく見ているのでしょう。学ぶべきは、むしろこのように進出してこないチェーン、日本では成功しないと見きわめているチェーンなのかもしれません。

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About 奥井俊史 106 Articles
アンクル・アウル コンサルティング主宰 おくい・としふみ 1942年大阪府生まれ。65年大阪外国語大学中国語科卒業。同年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。中国、中近東、アフリカ諸国への輸出に携わる。80年初代北京事務所所長。90年ハーレーダビッドソンジャパン入社。91年~2008年同社社長。2009年アンクルアウルコンサルティングを立ち上げ、経営実績と経験を生かしたコンサルティング活動を展開中。著書に「アメリカ車はなぜ日本で売れないのか」(光文社)、「巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念」(丸善)、「ハーレーダビッドソン ジャパン実践営業革新」「日本発ハーレダビッドソンがめざした顧客との『絆』づくり」(ともにファーストプレス)などがある。 ●アンクル・アウル コンサルティング http://uncle-owl.jp/