キャッシュアンドキャリー化とそれを志向した接客の簡素化によって低価格高収益のフォーマットを作ってきた日本の外食産業であるが、それこそが今日の外食産業の限界の元となっているのではないか。
テーブル・サービスもセルフサービス化を志向
キャッシュアンドキャリーに対してテーブル・サービスとされるファミリーレストランや居酒屋などのレストランでも、形式としては店舗のスタッフが給仕を行うが、それ以前の料理店に比べればこれらのスタッフが客と対面する時間は短縮され、対面する頻度も削減できるように業態設計が行われている。
たとえば、料理店の接客担当者は事項の挨拶やお愛想(愛想を振りまくのは会計のときだけではない)など、料理を運ぶ以外の仕事をするが、ファミリーレストランや居酒屋では注文を聞くことと、受注した商品を運ぶこと、トラブルに対応することが基本で、今日の天気やお客のご機嫌について会話するようなことはない。
これであれば、店舗スタッフに複雑な判断が必要になることはなく作業の標準化(マニュアル化)が可能で、短期間に戦力化した上で、より多くのお客をさばくことができる。したがって、外食産業のコスト・カット志向、低価格実現志向に合致する。
こうして、今日の外食産業の多くのチェーンで、セルフサービス化、セルフサービスへの接近は常識化している。
かつての外食は人が価値の源泉だった
しかし、食ビジネスは単に物質を供給するだけではない。とくに外食の仕事では、食糧・食品という“モノ”を介して食体験という“コト”を売る仕事であったはずであり、それによって独自の価値を生み出せるはずのビジネスのはずである。
そして、その実現のために最も重要だったのは、人の存在であり、スタッフと顧客との対話・交流がその価値の源泉であったはずだ。
ところが、70年代以降、多くの外食チェーンでこうした人の特性を競争に生かす考え方はどちらかと言えば抑え込まれ、なるべく価格での競争を選ぶといった形で進んできた。
この流れはバブル期に一旦弱まりはするが、数年後のバブル崩壊以降は、創業期にもまして低価格実現志向が強化されている。
このあり方は本来の伝統的な食文化を考えると、案じられるのである。低価格実現志向型のチェーンの存在自体を否定はしないが、業界の大多数がこれを目指す業界というのは異常に見える。
現在すでに、かつて約29兆1000億円(1997年)にまで達したという外食産業の市場規模が、以後10年以上にわたって漸減傾向が続いているのを見ても、この路線は見直すべきと考えられるのだ。