企業内・企業間であるべき連鎖・連携について考え直す連載。このシリーズで言う「チェーン・ビジネス」の範囲と、一般に行われている業種・業態分類の特徴を見ている。今回は、価格戦略でグループ分けをした場合も、現実には、同じ商品を扱いながら価格破壊志向型で行くチェーンと希望小売価格実現志向型で行くチェーンが併存している。
値引きが常態化しているグループ
自動車産業では、未だにオープン価格を導入するメーカーは出現しておらず、代表的な希望小売価格実現志向型の産業であるが、有名ブランドである「メルセデス」「BMW」「アウディ」「フォルクスワーゲン」などでも、残念ながら値引きは常識になっている。
しばしば安売りが行われるガソリンはどうか。現場での低価格競争は盛んであるが、石油の元売り価格は確実に世界の原油相場に対応して、コスト・オリエンテッド、収益確保重視で値上げを行うことが一般化している。したがって、基本的には希望小売価格実現志向型と言える。
意外なことに「くろねこヤマト」や「佐川急便」などの生活者を対象とした物流産業は、今では直資のダイレクトな運営が行われている。しかしとくに「くろねこヤマト」などはフランチャイジーの募集も行っているが、業界の内外での競争により低価格化は進んできたが、基本的には希望小売価格実現志向型のビジネスモデルに入ると言えるだろう。
価格破壊と希望小売価格実現が併存
「ヤクルト」はヤクルトレディとヤクルト直資の地区販売店との間の、互いに独立した個別な売買契約をベースにしたビジネスモデルをとっている。ヤクルトレディは、独立した個人事業主体によって展開されているのである。
ヤクルトレディたちは、比較的大型の職場などに直接販売に出向くなど、独自の利便性を提供することで、希望小売価格実現志向型のビジネスを展開している。
しかし、同じヤクルトがスーパーなどに並ぶ場合は、スーパーの意向により低価格志向で販売されることになる。
同様の状態は、たとえば「パナソニックショップ」などの家電小売店にも見られる。家電小売店は、生活者個人の家や生活に深く入り込み、電気に関する相談、修理、購入のアドバイスをするなどの利便性を提供し、希望小売価格実現志向型の販売を目指している。しかしその一方には、家電メーカーの製品の価格破壊の実現を図っている家電量販店があるのだ。
薬の販売においても、旧来型の「薬局」や「調剤型」の薬局では、希望小売価格実現志向のビジネスを実践しているが、ドラッグストアは価格破壊の実現を目指している。
PBの狙いも価格破壊と価格維持に分かれる
このような実際の販売価格の違いは、セルフ販売を主体とするか、人的な関係の構築を目指して、対面販売=非セルフ販売を行うかの違いによって発生すると考えられる。
このように、同一の商品であっても提供の仕方で価格破壊志向型の対象となることもあれば、希望小売価格実現志向型の顧客接点企業の商品になることもあり得る。
基本的にはどちらかをはっきり目指すものでありながら、実態的には相方が混在する形で、少しでも多くのビジネスの実現をはかるべく取り組んでいる業種・業態が多く存在している。
スーパーやコンビニの多くが展開するプライベート・ブランド(PB。チェーン本部が自社ブランドで売り出す)も同じ状況にあると言える。NBの価格に対抗するために開発されるPBもあれば、現場や他のチェーンでのNBの値引き競争を回避し収益性を向上させるために、価格目標を高めにして“価値売り”を目指すようなPB開発のケースも増加している。その路線変更の先鞭をつけた一つが「無印良品」だ。また、最近のコンビニでは、そのコンビニ・チェーンのPB専門の棚が設けられるようになってきた。