企業内・企業間であるべき連鎖・連携について考え直す連載。このシリーズで言う「チェーン・ビジネス」の範囲と、一般に行われている業種・業態分類の特徴を見ている。今回は、価格戦略でグループ分けをした場合の、希望小売価格実現志向型チェーンについて述べる。
強いブランド力を背景としたモデル
次に、もう一つのグループである希望小売価格実現志向型のビジネスモデルを見ることとする。
代表的なものとしては、“超”有名なプレミアム・ブランド品など、ブランドの強化・ブランドの維持を目指すグループである。まず思い付くのは、「エルメス」「ルイ・ヴィトン」「カルティエ」「プラダ」あたりだろう。自動車では「ポルシェ」「フェラーリ」などがあり、「レクサス」がそれを目指している。IT、家電にもこの型はあり、たとえば「アップル」「ダイソン」などが一定の成功を収めている。
だが、これらのレベルアまで強化・構築されたブランドは多くはない。ブランドの構築は単に商品名や企業名を有名にすることではない。
なお、ブランドライセンシングビジネスを展開する企業も、ほとんどがこの希望小売価格実現志向型ビジネスモデルを採用している。今隆盛の傾向を示しているSPA(第13回参照)なども比較的にこのグループに近く、基本的に店頭での値引きは行わない。とは言え、産業の基本としては企業努力によって低価格商品を開発することには熱心であることが多い。日本での「ユニクロ」や「ニトリ」の事業を見ればそれは明らかだ。
販売時点での価値創造を行うモデル
希望小売価格実現志向型は、メーカーやそれに準ずるものだけのものとは限らず、小売業にもある。百貨店はその代表の一つで、対面販売と、高質な販売のための空間作りを行い、多くの老舗専門商品を販売するなどにより、廉価販売ではなく価値訴求で価格維持を行っている。
ただし、2000年ごろから業界としての売り上げの低迷が顕著になってきている。しかも、そんな中で、今年2011年に大阪を中心に百貨店の大規模開発・出店競争が展開されている。「明らかにオーバー・ストア」と言われるまでの環境での競争だが、この結果が果たしてどのような状況を招来するか興味深い。
また、ショッピングセンター(SC)の中には、百貨店がキーテナントとなっているところも多い。
ショッピングセンターは、集客効果を高めるために10店舗以上など複数の小売店を集めてディベロッパーが開発する。日本初のショッピング・センターはダイエーによって1964年大阪の庄内において開発された。これは現在全国で3050ほどあるが、この内1/3の1000カ所は、間もなく閉鎖されるのではないかと噂されている。
コンビニエンス・ストアも、その名(convenience=便利)の通り利便性という価格以外の訴求点を持った業態だ。全般的な商品単価のレベルは、展開が始まった時代よりは下がってはいるが、基本的には今でも明確に希望小売価格実現志向型である。多くのナショナル・ブランド(NB)商品が希望小売価格で売られているが、値引きの発生はほとんどない。
低価格でも希望小売価格を貫く外食産業
外食産業においても、購買や消費の段階で値引きが求められることは少なく、値引きが実施されることもあまりない。しかしこの業界は別の章でも詳述するように、業界内での競争が活発であり、新しい業態が日夜開発されており、その過程では新規商品であっても、低価格実現が大きな目標の一つとなっている。ショップ・ストアの店頭では、基本的にはセルフ販売を目指している。
今年の春先以降、全品270円均一を謳った居酒屋チェーンが複数出現しているが、今年7月には一皿190円を実現する居酒屋チェーンも話題になっている。したがって「値引きはなく」「希望小売価格の実現を志向」してはいるが、同時に「低価格」の実現のためには、ここでもその実現を目的とする「凡事の非凡な徹底」が図られている。