企業内・企業間であるべき連鎖・連携について考え直す連載。このシリーズで言う「チェーン・ビジネス」の範囲と、一般に行われている業種・業態分類の特徴を見ている。今回は、完成品を供給するメーカー(サプライヤー)が構築することが多いチェーンの形態を見ていく。
自動車業界に代表されるチェーンの形
チェーンの顧客接点の呼称を「販売店」「ディーラー」「特約店」とし、その顧客接点群を「販売店網」(セールス・ネットワーク)と呼びならわすチェーン・ビジネスがある。
このタイプに属するチェーンでは、商流の“川上”に製造メーカーがあるか、海外メーカーから輸入総代理店として販売権(distributorship)を与えられた、メーカーに類似するポジションの企業がある。そして商流の“川下”に当たる販売店・特約店、販売網は、基本的には、メーカーごとないしはメーカーの商品群ごとにセールス・ネットワークを地図上に面的に展開する。
このタイプのチェーン・ビジネスの代表例としては、自動車メーカーが形成する販売店網が挙げられる。自動車工業においては、日本に工場を持つメーカーは、製造事業者の集まりとして日本自動車工業会(自工会)を形成する。また各メーカーはその生産事業を展開する上でのサプライチェーンを持っている。これらは、いわゆるチェーンストアとは様相を異にするチェーンだが、本稿で言うチェーン・ビジネスの概念は連載開始時の「はじめに」で説明したとおりだ。
顧客接点企業である販売店は、各メーカーごとの販売店の協会に参加し、その協会が産業レベルの日本自動車販売協会連合会(自販連)を組織し、製・販が個別の業界の連合会に加盟する形となっている。
各自動車メーカーの販売店は基本的には単一ブランドの車の“専売店”であり、“併売”(複数メーカーの複数ブランドを同一の販売店で扱う)が合意されることは正規販売店(網)としては少ない。同一資本が別のメーカーの製品を扱う場合は、通常は別会社を設立する。
輸入車においてはヤナセのように複数メーカーの複数ブランドを扱う“例外”が存在するが、その場合でもメーカーごとの個別の販売拠点を開設する方が多い。
ちなみに同じ自動車関連商品であるオートバイでは、複数メーカー商品の併売販売店が多数を占める。
なお、現在日本の自動車メーカーは12社、全販売店数は2010年8月現在で、約1万4300店舗である。そのうちトヨタが5071店、これに系列のダイハツ、日野、富士重工の販売店数を合わせると6395の販売拠点数となり、トヨタグループで全体の44.8%に及ぶ。
全体と個別の2つの契約を交わす
さて、“川上”のメーカー(サプライヤー)と販売店・特約店は相互に基本的・包括的な販売店契約書を取り交わす。さらに、決められた期間ごとに販売店契約に基づいて個別の商品ごとの具体的な内容・数量を確定した発注を行い、個別売買契約を取り交わす形を取ることが一般的である。
この個別売買契約によって具体的な売買は完結している。販売店への仕切り価格が設定され、希望小売価格が同時に発表されることが通例で、オープン価格制を採用する自動車メーカーはまだ現れていない。
物流としては、工場で最終商品として製造が完了した自動車が販売店に供給される。つまり“財”としての商品の完成は、メーカー(サプライヤー)の工場において行われる。
販売店にとっての基礎収益は、メーカー仕切り価格と希望小売価の差である。しかし、実際にはこれに加えて各種のインセンティブが支払われる。また逆に、販売に当たって多額の値引きが行われることも通例となっている。とは言え、販売店(ディーラー)の収益はこの基本的ビジネス構造の中で上げられるし、メーカーの収益は仕切り価格の中に織り込まれている。