企業内・企業間であるべき連鎖・連携について考え直す連載。このシリーズで言う「チェーン・ビジネス」の範囲と、一般に行われている業種・業態分類の特徴を見ている。今回は、商品自体の特性によって業態が決定づけられることを確認する。
(5)提供される“財”(商品やサービス)の“金額の多寡”や提供される“財の特性”による区分
(4)のハーレーもその一例となるが、チェーン・ビジネスが提供する“財”の金額の多寡や“財”の特性は、顧客接点の業種・業態を決定的に違ったものにする。
たとえば、数百円程度の手軽なアクセサリーはともかく、1点が何十万円~何千万円というような高価な宝飾となると、セルフサービスの業態は成立しない。このような商品でビジネスを実現するには、“財”の特性に見合った売り方が必要であるし、その売り方を実現するに相応しい顧客接点が求められる。
このことは宝石に限らず、飲食業でも同様だ。客単価が800円程度までならセルフサービスを基軸とした業態も可能だが、たとえば客単価が数万円のレストラン、料亭、すし店などであれば、店頭の建築や演出に始まり、庭、部屋の設え、テーブル、照明、さらに商品を作る料理人、お客に応接する接客係などによって、トータルに高質な空間・環境を構成できなくては、ビジネスとしては継続実現できない。そこでの商品の提供は、“対面販売の実行”であり、人による顧客価値の実現、提供であり、単に料理という物体と対価を交換する仕事ではないことを銘記しなければならない。
住宅の販売も例となる。マンションを売るのであれば、近年は“夢をかき立てる”シアター風のモデルルームは必須となっている。一戸建では、販売のための装置作りはマンションよりは多少軽減できても、度重なる打ち合わせで顧客の要望を吸収したり、建物に取り入れる耐震・耐火・エコ対策などの性能面について、高頻度・高密度な対面によるコミュニケーションが絶対に必要だ。そのコミュニケーションの多くは、“face to face”“膝を突き合わせた”会話によって行われるのであり、物体として完成する住宅そのもの以上に、コミュニケーションが顧客満足度を高めることになる。
眼鏡店は、近年はセルフサービス志向に寄った販売形態が増えているが、その場合はあくまで価格訴求型になり、他店よりも低価格であることを維持できなければ、リピートを獲得できるとは限らない。
それに対して、価格以外の要素でリピートされる眼鏡店はどのようか。顧客の視力をはじめとする見え方などの特性、顔の形や雰囲気、本人の好み、社会的な立場、仕事や生活の様子などをよく把握した上で、一人ひとりに適したレンズやフレームを選択・推奨し、1点ごとについて最適な加工を行い、顧客の体に触れるフィッティングも経て、ビジネスが完成する。そのプロセスで、適切な取材力、解決のための知識、センス、接客の丁寧さを発揮し、しかも顧客との相性がよければ、リピート客にすることができるという仕事となる。
このようなビジネスが、チェーンとして成立するか否かはまた別の次元の問題となる(実際には数多くチェーン化された例がある)。現状、セルフサービス志向ではない眼鏡店であれば、「日本専門店協会」などに所属する顧客接点であることが多い。
ヨーロッパ生まれの「エルメス」「ルイ・ヴィトン」「カルティエ」などの“プレミアム・ブランド”は、独自のブランド持つ自己資本=超過収益力によって展開する店舗など、顧客接点を厳しく限定して販売することが多い。近年は、百貨店や高質な空間作りを得意とするディベロッパーが運営するショッピング・センターなどにテナントとして出店することも多くなった。
しかし、そのビジネスモデルは、自身のブランド防衛・展開策に則して、厳しい“ブランドコミュニッケーションルール”に従った販売環境の構築、顧客とのコミュニケーションのあり方が実現できることを、当然に求めている。