業種・業態の分類(1)

チェーン・ビジネスにおける業種・業態を区分する要因:15の整理
チェーン・ビジネスにおける業種・業態を区分する要因:15の整理

チェーン・ビジネスにおける業種・業態を区分する要因:15の整理
チェーン・ビジネスにおける業種・業態を区分する要因:15の整理
企業内・企業間であるべき連鎖・連携について考え直す連載。今回から、このシリーズで言う「チェーン・ビジネス」の範囲と、一般に行われている業種・業態分類の特徴を見ていく。

(1)基本的な区分のポイントは15ある

 本稿では、最終的に消費者にモノやサービスを提供する機構つまり“B to C”ないし“B to B to C”を構成する機構すべてを「チェーン・ビジネス」と呼ぶことにする。従来、とくに日本の小売業やサービス業で「チェーン」と言えば「チェーンストア」のことであり、これは単独店や支店経営に対する新しいビジネスの形として導入された。しかし、本稿では必ずしもその立場をとらない。

 この視点によれば、チェーン・ビジネスには多種多様な業種・業態が存在する。

 生活者は、通常、感覚的な“常識”でこれらを区分して、業種・業態の混在したさまざまな呼称で呼びならわしている。ここでは、各種の業種・業態を広く俯瞰して、その“常識的区分”が行われる際の“区分の基準・要因”について、経営的視点からの整理を行ってみる。

「チェーン・ビジネス」という場合、まず頭に浮かぶのは、百貨店、GMS、スーパーマーケット(商品分野ごとに細分化もされる)、コンビニエンスストア、生活協同組合(生協)、外食チェーンだろう。また、カテゴリーキラーと総称される各種の業種・業態すなわち家電量販店、ドラッグストア、ホームセンター、100円ショップ、「GAP」などのSPA(speciality store retailer of private label apparel)、共同購入や共同商品開発・販売を行うボランタリーチェーンもある。それら各種業種・業態の集合体としてのショッピングセンター、ショッピングモールもチェーン・ビジネスとみなされるだろう。さらに全農、自動車販売の場合のような伝統的に「販売店」や「特約店」と言われるチェーン、ガソリンスタンド、ライセンシング・ビジネス、ネットショッピングのような無店舗販売等もチェーン・ビジネスと考えられるだろう。

 雑多であり、なかなかその区別を正確につけにくい。しかも最近では相互に業種・業態の壁を超えて業態的に相互侵略することもざらなことになってきているし、また近時のM&Aによる業種・業態を超えた資本的な統合等も比較的日常茶飯事として起こっている。

 それでも、何らかの区別によって区分され、何らかの業界団体に属したり、法に基づく基準によって統計調査が行われていることが圧倒的に多いのである。

 ある程度確度の高い経営動向を把握するためにも、またどの業種に属しているにせよ他業界から学ぶためにも、その区分のポイントを詳しく考察し理解することが必要だ。

 以下、15の区分のポイントについて特徴を見ていく。

(2)法令による区分・統計上の分類

 いちばんの基本は、関連する法律に基づく、とくに経済産業省や総務省等が各種の統計を作成するに当たって使用する「小売業の業態分類表」等による「区分」である。しかし、これは社会通念とは必ずしも一致しない。

 たとえば「百貨店」に関しては、かつて出店が相次ぐ華やかなりしころには、百貨店の新規出店によって影響を受ける近隣地域の中小零細小売店を保護する目的で百貨店法(1956年)が立法化された。

 ただ、中小小売店に対して同様の影響力を持つスーパー等が昭和40年代に入って百貨店の出店をしのぐ勢いで増えたこともあり、1973年に百貨店法は大規模小売店舗法に吸収された。この新しい法律は、スーパーやカテゴリーキラー等の具体的な業種や業態を区別して対処としたものではなく、店舗面積500m2以上を「第二種大規模小売店」、店舗面積3000m2以上を「第一種大規模小売店」とし、これらを対象とした新規出店の規制を中心的な目的として制定された。

 その後、社会の変化、とくにそれに伴う法律の意義の変化、さらに当時盛んだった「アメリカによる日本市場開放を求める圧力」(これを「外圧」と呼びならわした)もあり、これらに対応する形で大規模小売店法は廃止され、2000年6月に、より地域社会との融和促進を図る目的に重点を置いて大規模小売店舗立地法へと移行し、その対象面積も1000m2以上の小売業となった。

 しかしここでもその規制の対象は、ビジネスの業態のあり方を問う内容ではなかった。

 もう一つの例を挙げてみる。小型店舗が多いコンビニエンスストア等は経産省商業統計区分に従って、以下のような基準で区分されている。

・飲食品を扱い
・売り場面積が30m2以上250m2未満で
・営業時間が日当たり14時間以上の
・セルフ販売のもの

 これがスースーパーマーケットとなると、まず売り場面積の点から、3000m2(政令指定都市では6000m2)未満が「中型スーパー」、3000m2(政令指定都市では6000m2)以上が「大型総合スーパー」の二つに分けらてれる。そしてどちらも、「高い頻度で消費される日用品や食料品等「衣」・「食」・「住」にわたる各種商品を小売し、セルフ販売で短時間に買えるようにしたもの」とされる。

 またこのケースでは「総合スーパー」と「専門スーパー」2種類に区別される。

「総合スーパー」とは「衣」・「食」・「住」の何れもが小売販売金額の10%以上70%以下と規定される。後者の「専門スーパー」では基本的に売り場面積が250m2以上で、とくに食料品の売り上げが70%以上であるものを「食料品専門スーパーマーケット」と呼び、同様に衣料品が70%以上である場合に「衣料品スーパーマーケット」と言われる。

 では、生活者がこれらの基準で「あれはコンビニ。これはコンビニではない」「これは総合スーパーで、隣は専門スーパー」と区分しているかといえば、そういう見方をする人は希だ。関係する法や基準による区分では、必ずしも「社会通念」して分かりやすい明確な区別の基準にはならないことが多い。また基準からでは社会通念上の業種・業態が想像すらしにくいものも多い。

 また存在自体が明確に個別の法律に基づくものもある。一般生活者の認知度も高い「生協」(生活協同組合)や「農協」(JA)がそうで、前者は消費者生活協同組合法に基づいて、後者は農業協同組合法に基づいて設立、運営されている。しかしこれらも、依拠する法律ははっきりしているが、「日用品や食料品の購入」という面で見るとどうか。「CO-OP」の看板の生協の店舗、「A-COOP」の看板の農協の店舗を見れば、一般的な社会の通念としては、「スーパー」とどう違うのか区別しにくい実情がある。

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About 奥井俊史 106 Articles
アンクル・アウル コンサルティング主宰 おくい・としふみ 1942年大阪府生まれ。65年大阪外国語大学中国語科卒業。同年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。中国、中近東、アフリカ諸国への輸出に携わる。80年初代北京事務所所長。90年ハーレーダビッドソンジャパン入社。91年~2008年同社社長。2009年アンクルアウルコンサルティングを立ち上げ、経営実績と経験を生かしたコンサルティング活動を展開中。著書に「アメリカ車はなぜ日本で売れないのか」(光文社)、「巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念」(丸善)、「ハーレーダビッドソン ジャパン実践営業革新」「日本発ハーレダビッドソンがめざした顧客との『絆』づくり」(ともにファーストプレス)などがある。 ●アンクル・アウル コンサルティング http://uncle-owl.jp/