企業内・企業間であるべき連鎖・連携について考え直す連載。第4回は、今後の連載の考え方と連載計画を提示する。
(5)「チェーン・ビジネス」に対し新しい視点からアプローチする
ここで“チェーン”という概念を考え直してみたい。
ビジネスにおいて、「チェーン」を含む語は少なくない。食関連産業で、第一に想起されるのはチェーンストアだろう。物流やITに関わりを持つ人はサプライチェーンを考えるだろう。商社や金融の人はバリュー・チェーンを真っ先に思い浮かべるかもしれない。
これらはそれぞれ、いろいろな人が大きく異なる、あるいは微妙に異なるさまざまな説明をしている。また、たとえばチェーンストアとサプライチェーンは、同じ話題の中で論ずるテーマではないと考える人もいるだろう。
本稿では、すでに提示されている「チェーン」を含むさまざまな語の定義や事例にも取材しながら、しかし既存の厳密な説明からはいったん離れて考える。その代わりに接近するのは、産業が連鎖によって成立している実態である。
したがって、いわゆるチェーンストアに限らず、異なる部署や機能、異なる企業が連鎖することによって社会的な役割を果たそうとする事業を広く“チェーン・ビジネス”としてとらえる。
その場合、世の中には驚くほど多くの多様な形態を持つ“チェーン”が存在していることが見えてくる。ただし、読者の職場によっては、あるいは興味の対象によっては、「ウチはチェーンだが、あの会社はチェーンではない」「レギュラー・チェーン(RC/直営チェーン)とフランチャイズ・チェーン(FC)とボランタリー・チェーン(VC)は別ものだ」「ウチはメーカーであって、チェーンは顧客だ」など、いろいろな考えを持つことが予想される。
しかし、社会なり消費者から見た場合、あるいは連鎖の全貌を俯瞰した場合、異なるものと見えたものが実は同じ働きを演じていることは多い。逆に、一つのチェーンとして運営しているものが、実は複数の異なるチェーンの複合という場合もある。
RCであるか、FCであるか、VCであるか、はたまた一メーカーであるか、一問屋であるかなどなど、経営体ごとにどのような形態、業態を採るかは、経営体ごとのストラテジーによる違いととらえ、より広くチェーン・ビジネスとして見たときの働きを考えていく。
コンサルタントにとって大切なことは、経営の実務者を上回る好奇心に違いない。自分自身が東日本大震災の被災者となった今回、私はまず販売のサプライチェーンが果たした使命に好奇心を抱いたし、かつて身を置いていた自動車産業中心とした“製造のサプライチェーン”の回復力の強さにも興味を引かれた。
これを機ととらえ、サプライヤー、ショップ、ストアなどが、商流の“川上”や“川下”といった位置関係を持ちながら共存、共生しているチェーン・ビジネスに焦点を当て、より強い、より持続するチェーン・ビジネスの形、働き、秘密についてまとめることにした。
まず、一つの挑戦として、“チェーン・ビジネスにおけるカテゴリー区分の基準になっているものは何か”といった点から論じていく。その上で、“巨大販売網の構築者=サプライヤー(メーカー、卸、商社、そしてチェーンストア本部等)”と“中小・零細の小売業からなることが多い販売店(ショップ、ストア、ディーラー、特約店等)”とで構成するチェーンにフォーカスしながら、それらの現状、特性、あるべき状態との乖離、問題点などを解析し、チェーンの再構築ないし再興を目指す経営のあり方、改善のための提案を行う。
この中で繰り返し、そして最終的に問題となるのは、“絆”である。私が、現在のさまざまなチェーン・ビジネスで失われつつあると見る“絆”とは何か、なぜ必要で、どう取り戻すのかについて、私の実務経験も踏まえて明らかにしていく。
「恢復するチェーン」連載予定
- 初めに(了)
- チェーンの形態を区分する要因は何か
- Planned Price Competition――外食産業は価格競争に主体的に挑む
- コンビニエンス・ストアの将来像
- スーパーバイザーはマニュアルを超えられるか
- ブランドの重要性
- チェーンとしての自動車産業
- ガソリンスタンドの昨日・今日・明日
- SOMEDAY……SOMEDAY
- 小さな巨人「ディープインパクト」マーケティング
- 改めて「価格競争からの脱却」を目指して