欧州の魚製品のリステリア問題

No.26(2024.12.25)

スモークサーモン(イメージ)

国立医薬品食品衛生研究所が集めた食品の安全性に関する国際機関や各国公的機関等の最新情報から。欧州当局はリステリア感染の欧州広域アウトブレイクを評価。感染源は汚染された魚製品で、2012年以降73人が感染、14人が死亡。アウトブレイク株はさまざまな魚製品から検出され、汚染は複数施設に及ぶ。さまざまな魚加工施設に定着していることが示唆されており、さらなる患者発生が懸念されている。

注目記事

【欧州】魚製品のリステリア

 欧州疾病予防管理センター(ECDC: European Centre for Disease Prevention and Control)および欧州食品安全機関(EFSA)が、魚製品の喫食に関連して長期間にわたり複数国で発生しているリステリア(Listeria monocytogenesシークエンスタイプ(ST)173)感染アウトブレイクについて合同迅速評価を発表した。

本事例発生の経緯

 2020年3月9日にドイツから、欧州の感染症の当時の報告システムであるEPIS(欧州疫学情報共有システム)に通知が行われ、2010〜2020年に発生しWGS(全ゲノムシークエンシング)解析で特定された計15の異なるリステリア症患者クラスターが報告された。

 ドイツでの調査にもとづき、これらのクラスターがWGS解析により疫学的/微生物学的にサーモン製品と関連していることが特定された。

 2022年1月26日にオランダから、2021年12月以降に特定された患者5人の1クラスターがEpiPulseを介して報告された。これらの患者5人は2017年10月以降に報告された患者8人のクラスターに含まれていた。これらの患者由来の分離株は、WGS解析により、複数のサーモン製品と微生物学的に関連していることが特定され、直近の患者5人は発症前に魚製品を喫食していたことを報告した。オランダの患者クラスターは、2020年に既にドイツで報告されていたサーモン関連のより大規模な患者クラスターに分類された。

 2020年以降、および2024年3月20日時点で、同クラスターに分類されるリステリア症患者の報告が数カ国から続いていることから、依然として汚染魚製品が感染源として存在している可能性が示唆されている。

患者の疫学的・微生物学的調査

 2012年以降、L. monocytogenesシークエンスタイプ(ST)173感染患者が複数国から報告されており、2024年5月29日時点の患者数は、ベルギー(5人)、チェコ(1人)、ドイツ(39人)、フィンランド(2人)、イタリア(1人)、オランダ(20人)および英国(5人)からの計73人である。このうち14人が、リステリア症による死亡または死亡時にリステリア感染していたことが報告された。2012年に初発患者1人がオランダで報告され、その後2015年に患者2人が英国で報告された。2019〜2023年は、EU加盟6カ国および英国から毎年計5人以上の患者が報告された。

まとめ

 WGS解析、追跡調査によるエビデンス、および2017〜2024年にアウトブレイク株が魚製品から検出されたことにより、当該株が欧州域内で数年間にわたり広域に拡散していること、過去に製造チェーンを遡って特定された単一の感染源に由来している可能性が極めて高いこと、およびさまざまな魚加工施設に定着していることが示唆されている。総合的に判断すると、エビデンスは魚製品が原因食品であるとの仮説を裏付けている。

 アウトブレイク株がさまざまな種類の魚製品から検出され、欧州連合/欧州経済領域(EU/EEA)の広域で流行していることを踏まえると、さらなる患者が報告される可能性が高い。製造・加工施設で汚染が検出された場合は是正措置を講じ、汚染の侵入経路の特定および再汚染防止のための追加調査を実施すべきである。

(注目記事のまとめ:FoodWatchJapan編集部)

目次

【米国疾病予防管理センター(US CDC)】

1. キュウリに関連して複数州にわたり発生しているサルモネラ(Salmonella Typhimurium)感染アウトブレイク(2024年12月19日付更新情報)

2. 桃、ネクタリンおよびプラムに関連して複数州にわたり発生したリステリア(Listeria monocytogenes)感染アウトブレイク(2024年1月30日付最終更新)

【欧州疾病予防管理センター(ECDC)/欧州食品安全機関(EFSA)】

1. 合同迅速アウトブレイク評価:魚製品の喫食に関連して長期間にわたり複数国で発生しているリステリア(Listeria monocytogenesシークエンスタイプ(ST)173)感染アウトブレイク

【欧州委員会健康・食品安全総局(EC DG-SANTE)】

1. 食品および飼料に関する早期警告システム(RASFF:Rapid Alert System for Food and Feed)

【英国食品基準庁(UK FSA)】

1. 食品に関する消費者調査「Food and You2」第8回の結果を発表:約4人に1人が食料

不安を感じている

【アイルランド保健サーベイランスセンター(HPSC Ireland)】

1. アイルランドの胃腸疾患および人獣共通感染症、2022年(クリプトスポリジウム症)

【ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)】

1. 生乳の喫飲に関連する病原体への感染予防のために注意すべきこと

【デンマーク国立血清学研究所(SSI)】

1. デンマーク国立血清学研究所(SSI)がデジタル技術による感染症対策「Digital Infectious Disease Preparedness」に関する英語版Webページを公開

【ProMED-mail】

1. コレラ、下痢、赤痢最新情報(86)(85)(84)(83)(82)

食品安全情報
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/index.html
食品安全情報(微生物)No.26(2024.12.25)
https://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/2024/foodinfo202426m.pdf