無機ヒ素の健康上の懸念確認

No.02(2024.01.24)

イメージ

国立医薬品食品衛生研究所が集めた食品の安全性に関する国際機関や各国公的機関等の最新情報から。欧州食品安全機関が食品中の無機ヒ素について再評価を実施した。英国の毒性委員会と発がん性委員会は、各リスク評価において疫学的および毒性学的エビデンスを定期的にレビューしている。オーストラリア農薬・動物医薬品局は、英国—オーストラリア規制協力「動物用医薬品の同時審査に関するガイダンス」を発表した。

注目記事

【EFSA】食品中の無機ヒ素——健康上の懸念が確認された

 欧州食品安全機関(EFSA)が食品中の無機ヒ素について再評価を実施した。前回の評価は2009年であり、その後2021年に暴露評価を更新していた。

 今回の再評価では2009年以降に新たに発表された、食事/飲料水を介した無機ヒ素の慢性的な暴露と、皮膚、膀胱および肺がんの発症リスクとの関連性を調べた疫学研究を検討した。その結果、皮膚がんをエンドポイントにした基準点(reference point)としてベンチマーク用量信頼区間の下限値(BMDL05)0.06μgiAs/kg体重/日を導出し、暴露マージン(MOE)を算出した。成人におけるMOEは、平均的な消費者で2〜0.4、95パーセンタイルの消費者で0.9〜0.2であり、不確実性はあるものの、前回の評価と同様に健康への懸念があると結論された。

※ポイント:無機ヒ素のリスク評価の一つの特徴はヒトのデータ(疫学研究)があるという点で、疫学研究のデータを用量反応モデリングにあてはめています。今回の評価でEFSAは、最もバイアスリスクが低く質の高い研究として、米国での皮膚がんに関する症例対照研究をもとにBMDL05を導出しています。前回の評価において複数のエンドポイントのBMDL01を統合して得られた範囲(BMDL010.3〜8μg/kg体重/日)と比較すると、今回の評価で得られた基準点(BMDL05)は1桁低いという厳しい判断となりました。そのため、無機ヒ素のMOEは以前から非常に小さいとされていましたが、新しい基準点ではMOEがさらに低くなるため、健康影響への懸念がより大きくなったと言えます。今後、有機ヒ素と無機ヒ素の複合暴露に関するリスク評価の結果を別途発表する予定であると報告しています。

【COT】COT&COCによる合同疫学と毒性学のエビデンスの合成と統合に関するワーキンググループ

 英国の毒性委員会(COT)および発がん性委員会(COC)は、各リスク評価において疫学的および毒性学的エビデンスを定期的にレビューしており、そのアプローチに関する指針が必要とされている。この目的のために、委員会は疫学的および毒性学的エビデンスの合成と統合に関するサブグループ(SETE)を設立し、現在の慣行をレビューして文書化し、適用可能な指針を提供する。

※ポイント:上記のヒ素の評価や、昨年に実施された合成甘味料アスパルテームの評価など、食品に含まれる化学物質のリスク評価にヒトのデータ(疫学研究)をどのように用いるのか、ということがリスク評価を行う上で重大な課題となっています。その課題への取組みの一つが、このCOT/COCの報告です。EFSAもリスク評価へのヒトのデータの使用に関するガイダンスを作成すべきであることを指摘しています。

【APVMA】動物用医薬品のオーストラリアと英国の同時承認を開始

 オーストラリア農薬・動物医薬品局(APVMA)は、英国—オーストラリア規制協力「動物用医薬品の同時審査に関するガイダンス」を発表した。今後、より迅速な動物用医薬品の登録を促進するために、登録申請者は本ガイダンスを参考に、オーストラリアと英国の規制当局によって同時に製品審査を受けることができる。

(安全情報部第三室)

食品安全情報へのリンク

食品安全情報
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/index.html
食品安全情報(化学物質)No.02(2024.01.24)
https://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/2024/foodinfo202402c.pdf

今号の目次

【WHO】
1. 出版物

【EC】
1. 査察報告書
2. 食品及び飼料に関する緊急警告システム(RASFF)

【EFSA】
1. 食品中の無機ヒ素:健康上の懸念が確認された
2. 飼料中の無害化工程の評価のためのガイダンス
3. 化学物質のリスク評価のための新しいアプローチ方法論(NAMs)を通して得たデータを抽出・統合するための人工知能(AI)の使用の探求
4. セリアック病を引き起こすタンパク質の能力に関連する有害転帰経路(AOPs)開発の系統的文献レビューに基づく準備作業の外部委託
5. 食品酵素関連
6. 食品接触物質関連
7. 遺伝子組換え関連
8. 農薬関連
9. 飼料添加物関連

【DEFRA】
1. 業界を支援するための卵表示規則の変更案

【COT】
1. COT & COC による合同疫学と毒性学のエビデンスの合成と統合に関するワーキンググループ(SETE)
2. 声明:バイオベースの食品接触物質中キトサンについてのポジションペーパー

【UKASA】
1. サプリメントの健康強調表示について補う助言

【BfR】
1. 自然の毒の「キッチン」がもたらすもの
2. 乳の新たなデポジット義務:デポジット機器が適切に洗浄されていれば食品安全上の影響はないと予想される

【RIVM】
1. モリブデンとその化合物の生殖毒性についての入手可能なデータの概要

【ANSES】
1. 新しいゲノム技術由来の植物:欧州委員会が提案したカテゴリー1組み入れ基準の分析

【VKM】
1. 植物ベース及びグルテンフリー食品製品の栄養素、食品添加物、汚染物質のマッピング

【CAFIA】
1. CAFIA は11の残留農薬のあるクミンを発見
2. CAFIA 検査:評価したオリーブオイルの2/3が法令違反
3. 関節の栄養用フードサプリメントの半数が、消費者に実際の成分を欺いていた

【FDA】
1. 高濃度の鉛及びクロムの調査:シナモンアップルソースパウチ(2023年11月)
2. FDA は CORE2022年次報告書を発表する:FDA 規制食品における食中毒の発生と有害事象の調査
3. 殺菌ミルク条例100周年
4. 科学及び研究(食品)
5. 安全情報
6. リコール情報

【NTP】
1. ICCVAM 実践共同体ウェビナー2024

【EPA】
1. CERCLA サイトと RCRA 修正施設の土壌鉛ガイダンス更新

【CDC】
1. シナモンアップルソースパウチ製品に関連した鉛中毒の発生

【CFIA】
1. 魚と魚介類の表示とトレーサビリティ
2. 代替タンパク質/ベジタリアン代替肉中の非表示のアレルゲン及びグルテン-2020年6月1日から2021年3月31日まで
3. カナダ政府はマリンバイオトキシンであるドウモイ酸のポータブル検査法の開発に投資する
4. リコール情報

【FSANZ】
1. 食品基準通知

【APVMA】
1. 動物用医薬品のオーストラリアと英国の同時承認を開始

【TGA】
1. TGA はシドニー小売店舗から数百の危険性のあるスポーツサプリメントを押収する

【香港政府ニュース】
1.日本産の輸入食品に関する規制措置
2. 違反情報

【MFDS】
1.日本産輸入食品の放射能検査の結果
2. 食品用透明廃ペットボトルをリサイクルした食品容器の生産拡大
3. 輸入ゴム剤に対する検査命令施行
4. 輸入白菜キムチ、総輸入量の約90%HACCP 義務適用
5. 畜・水産物の動物用医薬品 PLS 制度、’24年1月1日から本格施行
6. 食品消費の新たな基準、消費期限の表示制度の定着
7. マッコリ、ダッチコーヒー(水出しコーヒー)など消費期限参考値を追加提供

【SFA】
1. 食品中の望ましくない毒素–ピロリジジンアルカロイド(PA)

【FSSAI】
1. 航空機の仕出し業者に食品安全規制に従うように指示

【その他】
・ProMED-mail5件