国立医薬品食品衛生研究所が集めた食品の安全性に関する国際機関や各国公的機関等の最新情報から。欧州食品安全機関の専門パネルは、牛肉のドライエイジングおよび牛肉・豚肉・子羊肉のウェットエイジングについて微生物学的ハザードおよび腐敗菌への影響を調査した。欧州疾病予防管理センターは、「エルシニア症 -2020年次報告書」を発表した。
注目記事
【欧州】熟成肉の微生物学的安全性
欧州食品安全機関(EFSA: European Food Safety Authority)のBIOHAZ パネル(生物学的ハザードに関する科学パネル)は、牛肉の「ドライエイジング」(乾燥熟成)および牛肉・豚肉・子羊肉の「ウェットエイジング」(真空包装などを用いた熟成)について微生物学的ハザードおよび腐敗菌への影響を調査し、現行の熟成工程について概要を記述した。
「一般的な生鮮肉」(standard fresh meat)と「ウェットエイジング熟成肉」の加工工程は類似しているが、加工期間が異なっている。各種工程の記述に加え、文献調査および質問票による調査を用いてデータを重要なパラメーター(時間、温度、pH、水分活性)と照合した。
すべての熟成肉に存在する可能性がある微生物学的ハザードには、志賀毒素産生性大腸菌(STEC)、サルモネラ属菌、黄色ブドウ球菌、リステリア(Listeria monocytogenes)、腸管病原性エルシニア属菌、カンピロバクター属菌、クロストリジウム属菌などがある。
アスペルギルス属やペニシリン属などのカビは、一定の環境下でマイコトキシンを産生する可能性があるが、肉の表面温度を−0.5〜3.0℃、相対湿度(RH)を75〜85%、および気流速度を0.2〜0.5m/sに保つことで、最長で35日間はこれを防ぐことができる。
食肉を腐敗させる主な細菌には、 Pseudomonas 属菌、Lactobacillus 属菌、Enterococcus 属菌、Weissella 属菌、 Brochothrix属菌、Leuconostoc属菌、Shewanella属菌、Clostridium属菌などがある。
「一般的な生鮮肉」製品と比較すると、現行の熟成工程は肉の微生物学的ハザードおよび腐敗菌のレベルに影響を与えると考えられる。管理された規定の条件下での熟成により、微生物学的ハザードおよび腐敗菌汚染のレベルの上昇を、「一般的な生鮮肉」製品において推定される増加量(log10)と同等以下に抑制することが可能である。
L. monocytogenesおよびYersinia enterocolitica(豚肉のみ)ならびに乳酸菌(腐敗細菌を代表して)について、汚染レベルを「一般的な生鮮肉」の場合と同等以下に抑制する時間・温度条件を特定するためのアプローチを使用した。また、推奨される最良実施規範や同等性評価の結果にもとづき、乾燥熟成牛肉の微生物学的安全性をさらに確実なものにするための追加の管理対策を特定した。
【欧州】エルシニア症に関する2020年次報告書
欧州疾病予防管理センター(ECDC: European Centre for Disease Prevention and Control)は、「エルシニア症 -2020年次報告書」を発表した。
エルシニア症は、欧州連合/欧州経済領域(EU/EEA)内において、カンピロバクター症、サルモネラ症に次いで3番目に多く報告される胃腸感染症である。
2020年は EU/EEA 加盟28カ国がエルシニア症確定患者計5,744人を報告した。
EU/EEA 全体での人口10万人あたりの報告率は1.7であり、2016年から2020年まであまり変化していない。
年齢層別の患者報告率は0〜4歳児で最も高く、この年齢層の男児では10万人あたり
7.2、女児では6.8であった。
2020年は、加盟28カ国からエルシニア症確定患者(Y. enterocoliticaまたは Y. pseudotuberculosis感染による)が計5,744人報告され、全体での人口10万人あたりの報告率は1.7であった。
Y. enterocolitica感染の最も重要な感染源はブタであり、多くの患者は、加熱不十分な汚染された豚肉の喫食、または生の豚肉の取り扱い・調理時に発生するその他の食品への交差汚染などに関連していると考えられている。豚肉は喫食前に適切に加熱すべきであり、特に小児が喫食する場合は注意が必要である。交差汚染を避けるため、台所の衛生管理を適切に行わなければならない。汚染された食品の長期間の冷蔵保存により、エルシニアの生残・増殖が助長される。
Y. pseudotuberculosis感染アウトブレイクのほとんどは、長期間冷蔵保存されたレタスやニンジンなどの生野菜やそのまま喫食可能な(ready-to-eat)野菜製品に関連している。
近年は、豚肉製品の他に、野菜に関連したY. pseudotuberculosis感染アウトブレイクの発生件数が増加している。一般家庭の台所での適切な手洗いや野菜の皮むきとともに、GAP(適正農業規範)や食品の保存・加工段階での衛生慣行により、生鮮農産物汚染リスクを減らし、新たな感染を防ぐことが可能となる。
(注目記事のまとめ:FoodWatchJapan編集部)
食品安全情報へのリンク
- 食品安全情報
- http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/index.html
- 食品安全情報(微生物)No.03(2023.02.01)
- http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/2023/foodinfo202303m.pdf
今号の目次
【米国疾病予防管理センター(US CDC)】
1. エノキダケに関連して複数州にわたり発生しているリステリア(Listeria monocytogenes)感染アウトブレイク(2023年1月27日、18日付更新情報)
2. ペットのアゴヒゲトカゲ(bearded dragon)に関連して複数州にわたり発生している2件のサルモネラ(Salmonella Vitkin および S. IIIb61:z52:z53)感染アウトブレイク
(2023年1月20日付更新情報)
【欧州疾病予防管理センター(ECDC)】
1. エルシニア症 -2020年次疫学報告書
【欧州委員会健康・食品安全総局(EC DG-SANTE)】
1. 食品および飼料に関する早期警告システム(RASFF:Rapid Alert System for Food and
Feed)
【欧州食品安全機関(EFSA)】
1. 熟成肉の微生物学的安全性
【ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)】
1. ドイツとモロッコが両国における食品安全のため科学協力の機会を探求
【ProMED-mail】
1. コレラ、下痢、赤痢最新情報(04)(03)