水耕栽培のサルモネラ感染防止

国立医薬品食品衛生研究所が集めた食品の安全性に関する国際機関や各国公的機関等の最新情報から。米国FDAは昨年発生したサルモネラ感染アウトブレイクの調査に関する報告書の内容を受け、水耕栽培など環境制御型農業の現場に関する推奨事項を発表した。米国CDC他当局はピーナッツバター関連のサルモネラ感染アウトブレイク調査を行っており、報告は特定ブランドの製品により感染したことを示唆している。

注目記事

【米国】包装済み葉物野菜によるサルモネラ感染

 米国食品医薬品局食品安全応用栄養センター(US FDA CFSAN: US Food and Drug
Administration, Center for Food Safety and Applied Nutrition)は、2021年6〜8月に米国で患者31人および入院患者4人が発生したサルモネラ(Salmonella Typhimurium)感染アウトブレイクの調査に関する報告書を発表した。

 このアウトブレイクは、環境制御型農業(CEA:Controlled Environment Agriculture)で栽培された葉物野菜に関連してFDAが初めて国内調査を行った食品由来疾患アウトブレイクと考えられる。CEAでは、Deep Water Culture(DWC)およびフローティングラフト水耕栽培法による一般的な業務用高密度水耕栽培技術を用いて葉物野菜を栽培する。

 根本的な原因は特定できなかったが、汚染につながった可能性がある状況および栽培慣行がいくつか特定された。それらは、葉物野菜の栽培に使用される池の水のサルモネラ(アウトブレイク株と異なる血清型)汚染、栽培用培地の保管法、水質管理法、そして公衆衛生上重要な微生物の葉物野菜への混入または拡散の予防においてCEAでの一般的衛生管理が不十分であったことなどである。

 FDAは、CEAを行う当該農場に隣接する雨水貯水池の検体からS. Typhimuriumアウトブレイク株を分離した。しかし、この雨水貯水池が葉物野菜のサルモネラの根本的汚染源であるかどうかは、この調査では明らかにはできなかった。このことは、隣接および近隣の土地利用に関連するものも含めて、あらゆる微生物学的ハザードを評価することが重要であることを示している。

 本報告書の内容を受け、FDAは、このアウトブレイクに関連するCEAの水耕栽培など、栽培農場に適用可能な要件および推奨事項を発表しており、その一部を以下に挙げる。

  • 使用される原材料や添加物などの潜在的な汚染源と汚染経路、および工程全体で考えられる汚染源について詳細に把握する。
  • 機器の衛生的な設計と操作に細心の注意を払い、効果的な衛生対策とサンプリング計画を実施して、潜在的な微生物汚染が洗浄工程によって拡散することを確実に防ぐ。
  • 適切な科学的根拠およびリスクにもとづいた予防措置であるFDAの食品安全近代化法(FSMA:Food Safety Modernization Act)の農産物安全規則(Produce Safety Rule)や適正農業規範(GAP)の該当条項などを確実に履行するため、栽培手順の評価を実施する。
  • 収穫後の葉物野菜の急速冷却と低温保存における効果的な手順の実施、およびその有効性を検証する。そのために、収穫後の葉物野菜における病原体の増殖を防ぐための加工・保存環境と製品温度の定期的な調査などを行う。
  • 収穫の前後で食品・水・物理的環境の検体採取および検査などを行う場合、栽培・収穫環境における細菌の汚染源と汚染経路を管理するためのサンプリング計画、検出限界および低減対策を検討して報告する。
  • 栽培用水池の水について、既知の、または予想されるハザードに対して必要な予防対策
    (水の処理など)を行い、安全で使用目的に適した衛生的な水質を確保する。
  • 栽培環境、栽培に使用される未処理の物質(水など)および農産物から病原体が検出された場合は、可能性が高い汚染経路を特定するために根本原因解析を行い、適切な予防対策および検証を実施する。
  • 農村部と都市化が進んだ環境の両方において、隣接・近隣の土地利用がCEAに影響を及ぼす可能性のあるリスクを評価し、低減させる。

 以上の要件および推奨事項は、世界各国でCEAが増えていくに伴い、あらゆる種類の食品生産において汚染源・汚染経路などの食品安全上の基本的問題に取り組み続けていく必要があることを再認識させるものである。

【米国】ピーナッツバターに関連のサルモネラ感染アウトブレイク

 米国疾病予防管理センター(US CDC: Centers for Disease Control and Prevention)、複数州の公衆衛生・食品規制当局および米国食品医薬品局(US FDA)は、複数州にわたり発生しているサルモネラ(Salmonella Senftenberg)感染アウトブレイクを調査するためさまざまなデータを収集している。

 各州・地域の公衆衛生当局は、患者が発症前1週間に喫食した食品に関する聞き取り調査を行っている。聞き取りが実施された患者5人のうち4人は喫食したピーナッツバターがJifブランドであったことを報告し、製品名として2人が「Jif Creamy Reduced Fat」、1人が「Jif Natural Creamy Low Sodium」、残る1人は「Jif Natural Creamy」を報告した。このことから、本アウトブレイクの患者がピーナッツバターの喫食により感染したことが示唆される。

 WGS解析により、本アウトブレイクの患者由来サルモネラ分離株が遺伝学的に相互に近縁であることが示された。この結果は、本アウトブレイクの患者が同じ食品により感染したことを示唆している。WGS解析の結果はまた、本アウトブレイクで調査されている患者由来分離株が2010年にJ.M. Smucker社の製造施設(ケンタッキー州Lexington)の環境由来検体から分離された株と遺伝学的に近縁であることも示している。当該施設ではJifブランドの特定のピーナッツバターが製造されている

(注目記事のまとめ:FoodWatchJapan編集部)

食品安全情報へのリンク

食品安全情報
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/index.html
食品安全情報(微生物)No.11(2022.05.25)
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/2022/foodinfo202211m.pdf

今号の目次

【米国食品医薬品局 食品安全応用栄養センター(US FDA CFSAN)】
1. 環境制御型農業(CEA)で生産された包装済み葉物野菜によるサルモネラ感染アウトブレイクの調査に関する報告書を発表

【米国食品医薬品局(US FDA)】
1. 米国食品医薬品局(US FDA)が乳幼児用調製粉乳に関連して発生しているクロノバクター(Cronobacter sakazakii)感染に関する苦情を調査(2022年5月17、16、13、
11日付更新情報)

【米国疾病予防管理センター(US CDC)】
1. ピーナッツバターに関連して複数州にわたり発生しているサルモネラ(Salmonella
Senftenberg)感染アウトブレイク(2022年5月21日付初発情報)
【欧州疾病予防管理センター(ECDC)/欧州食品安全機関(EFSA)】
1. ECDC-EFSA 合同迅速アウトブレイク評価:チョコレート製品に関連して複数国にわたり発生しているサルモネラ(単相性Salmonella Typhimurium)感染アウトブレイク
(2022年5月18日付更新情報)

【欧州委員会健康・食品安全総局(EC DG-SANTE)】
1. 食品および飼料に関する早期警告システム(RASFF:Rapid Alert System for Food and
Feed)

【欧州食品安全機関(EFSA)】
1. 欧州委員会(EC)指令2003/99/EC の枠組みにおける人獣共通感染症とその病原体およびその他の病原微生物に関する2021年の情報の報告方法マニュアル

【英国保健安全保障局(UK HSA)】
1. イングランドでノロウイルス感染アウトブレイクが増加中

【アイルランド食品安全局(FSAI)】
1. アイルランド食品安全局(FSAI)の相談窓口が2021年に対応した食品関連の苦情は
3,414件

【ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)】
1. ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)設立20周年 - リスク同定と健康保護に携わった20年

【ニュージーランド第一次産業省(MPI, NZ)】
1. 食品回収に関する新ガイダンス

【ProMED-mail】
1. コレラ、下痢、赤痢最新情報(17)(16)