食品を安全にする5つのカギ

国立医薬品食品衛生研究所は、食品安全情報(微生物)No.09(2015.04.28)を発表した。

注目記事

【WHO/PAHO】有害微生物や有害化学物質に汚染された食品により200種類以上の疾患が発生

 世界保健機関(WHO)と汎アメリカ保健機構(PAHO:Pan American Health Organization)は、食品安全への意識を高めてフードチェーン全体を通した予防策の実施を促進するため、2015年の世界保健デー(World Health Day)のキャンペーンにおいて食品安全問題に焦点を当てた。

 2015年の世界保健デーのスローガンは「農場から食卓に至るまで食品を安全に保つ」(From farm to plate, keep it safe)である。世界保健デーは、1948年に創設されたWHOの創立記念日として毎年祝われている。

 グローバル化によって世界的にフードチェーン間の相互関連性が強まり、これに伴い、食品由来疾患の発生数、発生頻度、および発生場所が増えた。また、都市化が急速に進み、家庭外で調理されて調理・取扱いの方法が必ずしも適切ではない食品の喫食が増えたことも、食品由来疾患罹患のリスクの上昇要因となっている。

 米州では、毎年、約4人に1人が食品由来疾患に罹患している。小児、妊婦、免疫機能が低下している者、および高齢者が最も被害を受けやすい。米州レベルでは、食品由来疾患関連の総費用(診察代、薬品代、損失労働時間など)の推定値が得られていないが、入手可能なデータによると、当該疾患関連の年間総医療費はカリブ海諸国の場合70万~1,900万ドルで、米国の場合は7,700万ドル以上である。

 食品が汚染される可能性はフードチェーンのあらゆる段階に存在するため、生産から加工、小売、消費に至る全段階でそれに関わる者が食品安全対策を行う必要がある。

 家庭でも食品提供施設でも、PAHO/WHOが作成した以下の「食品をより安全にするための5つの鍵」を守ることで食品を適切に取り扱うことができるとしている。

  1. 清潔に保つ(keep clean)
  2. 生の食品と加熱済み食品とを分ける(separate raw and cooked)
  3. よく加熱する(cook thoroughly)
  4. 安全な温度に保つ(keep food at safe temperatures)
  5. 安全な水と原材料を使う(use safe water and raw materials)

【WHO WPRO】西太平洋地域での食品安全の確保

 世界保健機関・西太平洋地域事務局(WHO WPRO:World Health Organization, Western Pacific Regional Office)は、2015年の世界保健デー(4月7日)を機に、各国政府、食品業界および消費者に対し、人命の尊重と世界中の人々の健康増進のために食品安全を遵守するよう呼びかけている。

 西太平洋地域では、急速な経済発展、旅行者や貿易量の増加、食品安全を確保する能力が不足した国の存在などの理由により、食品安全の確保が課題となっている。汚染食品による疾患は、医療システムに負荷をかけ、国の経済、観光、貿易に害を与えることで社会経済学的な発展を阻害する。食品供給チェーンがますます国際的になっていることから、食品安全の確保には国家間の協力が必須である。

 西太平洋地域では、汚染食品による重大な疾患アウトブレイクが過去10年間に複数件発生している。その一例として、2008年に発生した乳児用調製乳のメラミン汚染が挙げられる。この事例では中国で乳児51,900人が被害を受け、そのうち6人が死亡した。2011年には日本で地震および津波が発生し、その結果3月23日に福島の原子力発電所から放射能が漏れ、土壌、大気、食品および水が汚染された。生乳および野菜から過剰量の放射性ヨウ素が検出された。2013年8月には、ニュージーランド産のプロテイン濃縮製品がボツリヌス菌汚染の可能性により世界規模で回収された。ニュージーランドでは乳製品の輸出額が110億ニュージーランドドル、もしくは同国の国内総生産(GDP)の7%を占めていることから、この回収は同国の経済に深刻な影響を与えた。

 西太平洋地域で、WHOは「西太平洋地域食品安全戦略(Western Pacific Regional Food Safety Strategy)2011–2015」にもとづき活動している。WHOは国連食糧農業機関(FAO)と協力し、国際的な関心を集める食品安全事例の発生中に迅速な情報交換を行うためのネットワークである「国際食品安全当局ネットワーク(INFOSAN)」を運営している。

【EFSA】サルモネラとカンピロバクターは抗菌剤に高い耐性

 欧州食品安全機関(EFSA: European Food Safety Authority)と欧州疾病予防管理センター(ECDC)が共同で発行した報告書「EU域内のヒト、動物および食品由来の人獣共通感染症細菌と指標細菌の抗菌剤耐性に関する2013年次要約報告書(European Union Summary Report on antimicrobial resistance(AMR)in zoonotic and indicator bacteria from humans, animals and food)」によると、最も一般的な食品由来感染症の中には、分離株が依然として抗菌剤耐性を示すことから明らかなように、その治療法の選択肢が減少しているものがある。

 たとえば、多剤耐性のサルモネラ株が依然として欧州全域に蔓延している。また、ヒトおよび動物由来のカンピロバクター株でも、高いシプロフロキサシン耐性率が欧州連合(EU)加盟数カ国から報告されている。しかし、極めて重要な複数の抗菌剤への共耐性率は両菌とも依然として低い。

  • ヒト、動物(とくにブロイラー、七面鳥)および動物由来食肉製品から分離されたサルモネラにおいて、一般的に使用される抗菌剤への耐性が頻繁に検出された。
  • ヒトおよび動物(とくにブロイラー、ブタ、ウシ)由来のカンピロバクター株で、一般的に使用される抗菌剤への耐性が頻繁に検出された。
  • サルモネラ分離株では、複数の極めて重要な抗菌剤への共耐性率は低レベルであった(ヒト由来株:0.2%、ブロイラー由来株:0.3%、肥育ブタ由来株:0%、七面鳥由来株:0%)。

 ECDCの専門家は以下のように述べている。ヒトのカンピロバクター感染の大部分がブロイラー肉の不適切な取扱い・調理・喫食によるものであることを考慮すると、ヒトおよびブロイラー由来のカンピロバクター株でフルオロキノロン系抗菌剤への高い耐性率が認められたことは懸念すべき問題である。このような高レベルの耐性により、重症のヒトカンピロバクター感染症に対する有効な治療法の選択肢が少なくなる。

(注目記事のまとめ:FoodWatchJapan編集部)

食品安全情報へのリンク

食品安全情報
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/index.html

食品安全情報(微生物)No.09(2015.04.28)
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/2015/foodinfo201509m.pdf

今号の目次

【世界保健機関・西太平洋地域事務局(WHO WPRO)】
1. 西太平洋地域での農場から食卓までの食品安全の確保

【汎アメリカ保健機構(PAHO)】
1. 有害微生物や有害化学物質に汚染された食品により200種類以上の疾患が発生

【米国農務省(USDA)】
1. 米国農務省(USDA)が世界保健デー(World Health Day)に先立ちアプリケーション「FoodKeeper」を発表

【米国疾病予防管理センター(US CDC)】
1. Blue Bell Creameries社の製品の喫食に関連して複数州にわたり発生しているリステリア症アウトブレイク(2015年4月21日付更新情報)

【カナダ政府(Government of Canada)】
1. カナダ政府が食品安全のさらなる向上を目指して3,000万ドル以上の資金を支出

【カナダ公衆衛生局(PHAC)】
1. 公衆衛生通知-葉物野菜に関連している可能性がある大腸菌感染アウトブレイク

【カナダ食品検査庁(CFIA)】
1. カナダの食品検査業務への懸念に対する回答

【欧州疾病予防管理センター(ECDC)】
1. 世界保健デー:血清学的罹患率(seroincidence)の新しい算出ツール、および主要な7種類の食品・水由来疾患についてのサーベイランス報告書

【欧州食品安全機関(EFSA)】
1. ヒトおよび動物由来のサルモネラおよびカンピロバクターは一般的な抗菌剤に対し高い耐性率を示す

【欧州委員会健康・消費者保護総局(EC DG-SANCO)】
1. 食品および飼料に関する早期警告システム(RASFF:Rapid Alert System for Food and Feed)

【英国食品基準庁(UK FSA)】
1. FSAが家庭での安全なハンバーガー調理に関して消費者に注意喚起

【ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)】
1. 家禽肉に関するFAQ

【ProMed mail】
1. コレラ、下痢、赤痢最新情報