「低用量仮説」はあるのか?

国立医薬品食品衛生研究所は、食品安全情報(化学物質)No.13(2012.06.13)を発表した。欧州食品安全機関(EFSA)は「低用量仮説」について中立としながらも多数の科学者は否定的に見ていることを確認した。DMAAまたは1,3-ジメチルアミルアミンを含む食品について、米国に続いてオーストラリアも警告を発した。米国農務省(USDA)は食品の酸素ラジカル吸収能(ORAC)がヒトの体で抗酸化作用を持つとは言えないとして、ORACデータベースをWebサイトから取り下げた。

注目記事

【EFSA】国際専門家が低用量仮説について議論

 欧州食品安全機関(EFSA)主催の第17回科学会議に100人の専門家が集結し、ある化学物質の低用量による健康影響の可能性について、また食品および飼料のリスク評価で低用量の影響を考慮することなどについて議論を行った。

※ポイント:議論では、低用量での影響、とくに一部の化学物質は低用量になると高用量よりも反応が大きくなる場合があるという「低用量仮説」をどう捉えるかということが問題になっていますが、EFSAは何事も科学的に評価することが大切なので、この仮説については中立の立場であると言っています。しかし同時に、あくまでも仮説であり多くの科学者は妥当性を信じていないということも強調しています。言い換えると、低用量仮説を主張する人はいるけれども、それを裏付けるだけの根拠は今のところないということです。

【FSANZ】スポーツサプリメントへの消費者警告

 オーストラリア・ニュージーランド食品基準局(FSANZ)は、DMAAとして知られる成分を含むスポーツ用補助食品について警告を発表した。DMAAまたは1,3-ジメチルアミルアミンを含む製品に関連する消費者からの苦情と一部の健康被害報告を受けたため、FSANZは州及び地方当局と協力して一連の製品を調査している。

※ポイント:米国での警告に続いてFSANZでもDMAAに関する警告が出されました。死亡を含む重大な健康影響が報告されたことから、米国国防総省が軍の施設でのDMAA含有製品の販売を一時的に中断したことから始まったこの問題ですが、実は米国だけの問題ではないようです。EUでも警戒しているようで、食品および飼料に関する緊急警告システム(RASFF)においても「警報通知」として“米国産食品サプリメントの未承認1,3-ジメチルアミルアミン”が通知されています。

 日本でも、DMAAを含む製品は販売されているようなので注意する必要があります。

【USDA】特定食品の酸素ラジカル吸収能(ORAC)・第2版(2010)

 米国農務省(USDA)の栄養データラボ(NDL)は、食品のORAC値がヒトへの健康影響と関係ないことを示す根拠が増加したため、ORACデータベースをNDLのウェブサイトから取り下げた。

※ポイント:米国ではORAC値を食品や化合物の抗酸化力を示す新しい指標として使用し、USDAのウェブサイトでは各種食品のORAC値をデータベースにして公表していました。しかしながら、今回、USDAがin vitro試験(生体外での試験)で抗酸化が観察された食品でも、ヒトの健康へ抗酸化作用を持つとは言えないと公式に発表したのです。つまり、これまでORAC値を根拠に抗酸化を謳っていた宣伝は、USDAによるORACデータベースの取り下げとともに完全に否定されることになります。

(安全情報部第三室)

食品安全情報へのリンク

食品安全情報
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/index.html

食品安全情報(化学物質)No.13(2012.06.27)

http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/2012/foodinfo201213c.pdf

今号の目次

【WHO】
1. コーデックス委員会:出版物のお知らせ

【EC】
1. EUは国境監視強化対象の輸入植物由来食品リストを更新
2. 食品獣医局(FVO)視察報告書
3. 食品及び飼料に関する緊急警告システム(RASFF)

【EFSA】
1. 国際専門家が低用量仮説について議論する
2. リスク評価の境界に挑む-経験を共有する
3. EU域内の植物の健康に有害な生物が導入・拡散するリスクを減らすための選択肢の有効性評価のための方法論についてのガイダンス
4. 香料グループ評価関連
5. 遺伝子組換え関連
6. 飼料添加物関連

【COT】
1. COTの2012年6月26日の会合の議題とペーパー

【FSAI】
1. FSAIは食品業者に食品のアレルゲン管理を強化するよう要請

【FDA】
1. 消費者向け情報:炭酸飲料
2. 警告文書(2012年6月12日、19日公表分)

【NTP】
1. 低用量鉛の健康影響についてのモノグラフ

【USDA】
1. 特定食品の酸素ラジカル吸収能(ORAC)、第2版(2010)

【CFIA】
1. CFIAは香料小袋の表示されていないアレルゲンについて検査
2. 強調された成分や香料のガイドライン
3. CFIAはワインの清澄剤について検査

【FSANZ】
1. ファクトシート:メラミン
2. スポーツサプリメントへの消費者警告
3. 食品サーベイランスニュース
4. 基準解説サービス
5. 食用色素摂取量報告書を発表

【APVMA】
1. APVMAは輸出トマトにジメトエート処理を認める申請を拒否することを確認

【香港政府ニュース】
1. 登録されていない経口製品に警告
2. 中毒事例調査

【KFDA】
1. 食品医薬品安全庁、水産物の重金属の安全管理を強化!

【AVA】
1. 香港がリコールしたタイ産グリルドグルーパーは輸入されていない

【その他】
・食品安全関係情報(食品安全委員会)から