カレーはすでに和食、日本食である。一方、アジアのさまざまなカレーが日本に集結してもいる。筆者もいろいろなカレーが大好物だ。カレーはスパイスが決め手だ。今回はその中で「ターメリック」と「フェヌグリーク」の健康的効果を紹介したい。
インド発・中国経由・琉球着の生薬
まずターメリック。カレー独特の黄色の正体である。タクワンの色付けにも使われている。ターメリックが英語名で、日本語では「ウコン」である。漢字では「鬱金」と書く。
ショウガ科の植物で原産国はインド。紀元前のはるか昔からインドでは薬用、食用、さらには染料として、その根茎の部分が利用されてきた。利用するのは根茎部分である。
ウコンはインドを起点に東南アジアに伝播した。中国に渡ったのは紀元前1世紀頃だと言われている。中国では専ら漢方薬の原料として用いられてきた。16世紀の明の時代の医薬書「本草綱目」では、ウコンは体内の血が停滞し鬱血している状態を元通りにする効果がある、と記載しており、肝臓病や心臓病の改善、または、殺菌や消炎に用いられてきたという。
日本に渡ってきたのは15~16世紀頃。正確には日本ではなく、当時独立国であった琉球すなわち現在の沖縄だと伝えられている。当時の琉球王朝は中国や東南アジアの国々と積極的に交易を行い、その中でウコンが輸入されたと推測される。
1609年、琉球は薩摩藩の支配下に置かれた。そのころ、ウコンの栽培は琉球全土で行われるようになっていた。当然、薩摩藩はこの薬効に優れた特産物に目をつけ、同藩の産物とし、日本全国に出回るようになった。
クルクミンが肝細胞を活性化する
ウコンと言えば二日酔い防止や改善の効果が知られている。では、ウコンの何が二日酔いの防止や改善に効果があるのかというと、クルクミンという成分がその“何か”だ。
この成分は胆汁分泌亢進作用、すなわち肝臓での胆汁分泌を促進する作用がある。これにより、肝細胞を活性化させて肝機能を強化することにつながる。肝機能が強化されることでアルコールの“解毒”が速やかに行えるというわけだ。
酒を飲む前後にウコンを飲んで行う二日酔い対策は“単発”だが、毎日継続して飲むことによって、肝炎などの肝臓障害の予防・改善も期待できる。
さらに、ウコンには健胃、殺菌、防腐作用を持つシネオール、神経の興奮作用、強心作用を持つカンファー、炎症や潰瘍を治す作用を持つアズレンなどといった成分も含んでいる。
なお、日本薬局方によれば、生薬として承認されているウコンは1種類でなく、秋ウコン、春ウコン、ガジュツ(紫ウコン)の3種類がある。秋ウコンと春ウコンは成分的にほとんど差がなく、どちらも肝臓関係に効果がある。一方、ガジュツは胃を刺激して胃液の分泌を促し、消化力を高める健胃作用がある。
カレーの香りの素・フェヌグリーク
次はフェヌグリークである。これは英語名であり、日本語では「コロハ」。漢字で「胡蘆巴」と書く。ウコンはカレーの色付けのベースだったが、フェヌグリークはカレー独特の香りの素だ。
フェヌグリークはマメ科トリゴネラ属の一年草。原産国は北アフリカや地中海東部の荒れ地で、現在は、北アフリカや中近東、インドなどで広く栽培されている。利用するのは種子部分だ。
「スリランカの家庭料理」(鈴木孝男著、カタツムリ社)によれば、フェヌグリークは焦がしたカラメルソースのような香りがあり、快い苦味を備え、古代エジプトでは解熱剤として使われていたという。
薬用としてのフェヌグリークの利用方法を調べてみると、最も古くは紀元前15世紀頃にさかのぼる。パピルスに書かれた古文書には、やけどの治療に使用されていたことが記されていたという。紀元5世紀頃には後世に「医学の父」と呼ばれることになったギリシアのヒポクラテスが疼痛緩和効果を確認したそうだ。
現在でも北アフリカや中近東、インドでは薬用として利用されているという。効果としては解熱、胃炎や胃潰瘍の改善、便秘解消、そして母乳の出がよくなるとされているらしい。
サプリもあるフェヌグリーク
今日、フェヌグリークはサプリメントとしても商品化されている。糖尿病改善効果が期待できるとして1990年代から研究が開始され、フェヌグリークの種子の粉末を摂取することで血糖値が下がることがわかった。動物実験や臨床試験で明らかにされているという。
そのメカニズムを簡単に説明すると、フェヌグリーク種子の胚乳にはガラクトマンナンという多糖類が含まれており、これはマンノースとガラクトースという2つの単糖が結合した粘着性の高い水溶性繊維質だ。これが胃の中で水分を含んでゲル状に膨張し、小腸に移行する間に食物の成分を取り込む。これにより、食物に含まれるグルコース(ブドウ糖)の腸からの吸収を阻害する。
結果、糖分の過剰摂取が抑制できるということになるらしい。とくに、肥満や高血糖が原因のインスリン非依存型糖尿病(Ⅱ型糖尿病)に効果的だという。